25:失敗から得たもの。
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目が覚めた因幡は、自分のベッドに寝かされていた。
パジャマまで着せられている。
茫然とした顔で部屋を見回しながら大きな欠伸をし、ベッドから下りた。
ベッドのそばの目覚まし時計を見ると、ちょうど朝の7時だ。
カーテンを開けて「んー」と伸びをし、突如襲った筋肉痛に顔をしかめた。
「………っ」
心を落ち着かせようとしたが、ムダのようだ。
因幡は足を荒く踏み鳴らしながら階段を駆け下り、コハルの仕事部屋へと向かった。
「母さん!!」
聞きたいことは山ほどあった。
魔界、悪魔、コハルの能力、コハルの正体…。
コハルの自室にはいない。
2階だろうかと踵を返したが、ふと、コハルの作業机に置かれた紙に気付いた。
それを見た因幡は、青筋を立たせ、コブシを机に叩きつけた。
“旅に出まーす 捜しちゃイヤンv”
(逃げやがった…っ!! なにが「イヤン」だ、アホかっ!!)
とても不快だったので紙をぐしゃぐしゃに丸める。
「仕事どうするんだよ…っ」
アシスタントや編集者をフォローするのは因幡姉弟である。
目の前が真っ暗になり、作業机の席に腰を下ろす。
すると、開けっ放しのドアから春樹が入って来た。
「桃姉! 身体の調子は…!?」
「春樹…。母さんの行方は?」
春樹の質問には答えずに期待せずに聞き返し、丸めた紙を投げ渡す。
それを開いて見た春樹は目を見開き、「は!?」と声を上げた。
「知らねえようだな。昨日、会ってねーのかよ」
「いや、昨日帰って来たのはわかったんだ。ケガしたおふくろと、桃姉担いだ知らねえオッサン…。オレがなにがあったか聞こうとしたら、「あとで」とか言って…」
そのままトンズラされたわけだ。
「つーか…、オレが第一に聞きたいのは…―――」
因幡は立ち上がり、春樹の胸倉をつかんだ。
「姫川はどうした!? 神崎も…! 夏目と城山も…!」
姫川が鮫島に胸を刺されたところまでは覚えている。
問題はそこから先だ。
鮫島の骨を折ったり、突然現れた中年の男が現れたり、切り取られた場面のように、記憶がおぼろげだ。
「桃姉、シメてる…っ」
余裕のない因幡の顔に気圧されながらも、春樹は因幡の手を軽く叩いて放してもらおうとする。
「オレ達なら大丈夫だよ」
「「わぁっ!!」」
いきなり横から現れた夏目に、因幡と春樹は驚いて声を上げた。
「オレと城ちゃんが警察呼んだ時は、ユーカイ犯どっか行っちゃったし、神崎君と姫ちゃんも保護されたから…。あ、姫ちゃん、軽傷で済んだみたい」
「おまえ…、なに勝手に…」
未だにドキドキと早鐘を打っている胸の中心をおさえる。
「桜さんが入れてくれたよ」
夏目がドアを指さすと、片手で上品に口を押さえている桜が立っていた。
微笑ましげにこちらを見ている。
「心配そうに家の中を窺ってるの見て…、つい…」
「姉貴、なんだその意味深な顔;」
「因幡ちゃん、一緒に学校行こうよ」
ずい、と笑顔を近づけられる。
「………おう。着替えてくるから…、ちょっと待ってろ」
ぶっきらぼうにそう言って因幡は逃げるように夏目の横を通過する。
「やっぱり気にするのね」
「桃矢姉ってたまに女らしいこと…」
春樹が言いきる前に、因幡は卍固めをかける。
「いーち、にーい、さーん…」
「ごめんなさいっ! ホンットごめんなさい! よっ、桃姉男前っ!」
床をバンバンと暴れながら叩き、春樹は「ギブギブッ」と叫んだ。
そのあと、因幡は着替えるために自室に戻り、開けっ放しだったドアを閉めてパジャマを脱ぎ、ズボンを穿いてから胸にサラシを巻き始める。
(母さんには逃げられたけど…、よかった。姫川達、無事だったんだな…)
安堵を覚え、ベッドに置いたシャツに手を伸ばした時だ。
「…!」
愛用の靴が、いつの間にかベッドに置かれていた。
コハルが置いたのだろうか。
いや、ベッドに土足を置くことはさすがにしないはずだ。
「どうしてこんなところに…」
シャツからそちらに手を伸ばした時だ。
靴が、後ろに飛んでその手をかわした。
「……は?」
パーンッ!
「はぶっ」
因幡が間抜けな声を漏らすと同時に、右足の靴が因幡のアゴを蹴り上げた。
強い力ではなかったが、床に尻餅をつく。
「因幡ちゃん? どうしたの?」
ドア越しに夏目の声が聞こえた。
「靴が…」と言いかけたところで、左足の靴が、ぴょん、と因幡の頭にのり、踏みにじってくる。
“どうしてくれる!? 契約は成立した! だが、失敗じゃ!! このミミズ! イトミミズ! ミミズ腫れ!!”
靴が喋った。
因幡は混乱する頭で必死に考える。
「え、え…と、その…、ちょっと待って…。………よし…。ミミズ腫れはねえだろっ!!!」
“つっこみ失格―――!!!”
パーンッ!
再び、右足の靴に顔面を蹴られる。
まさか、愛用の靴に蹴られる日がこようとは、夢にも思わなかっただろう。
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