24:凶暴兎がブチ切れました。
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「神崎!?」
「どうして…」
傾いた本棚の向こう側で、鮫島も驚いていた。
夏目達と同じく、手足をロープで縛っておいたうえに、クモリンゴの毒で動くことはできないはずだ。
因幡を倒れかけの本棚から引きずりだした神崎は、ポケットからギターに使っていたピックを取り出し、見せつけた。
これでロープを切ったというように。
夏目と城山のロープも切り、こちらに駆けつけてきた。
(どうやって…。まさか、一度死にかけの毒でも食らって、耐性をつけたとでもいうのか)
そう、神崎は一度魔界で毒を注入され、死にかけたことがある。
魔界に送ったのは鮫島本人だが、そこでなにがあったかなどは知る由もない。
「神崎…、あれ、オレの安全保障されてた?」
本棚が傾倒する計算まで考えていたとは思えない。
神崎は「あったりめーよ」と言いながら、因幡の手足の布をピックで切ろうとしたが、切れ目も入らない。
「どうなってんだ、この布…」
「彼女だけは、厳重に縛っておいた…。暴れたら困るからだ」
魔界製の布だ。
魔力を封じることにも使用される。
「チッ」
鮫島が本棚を飛び越えたのを見て、神崎は舌を打ち、因幡を姫様だっこする。
「は!? ちょ…っ!」
慌てだす因幡に構わず、そのまま背を向けて逃走を図る。
「神崎…っ、神崎待てって!」
「あ゛!? 待ってたら捕まるだろがっ!」
廊下を走って階段へ向かう神崎だったが、階段を下ろうとしたとき、先回りしたかのように踊り場に鮫島の姿が見え、すぐに踵を返してあと戻りする。
「せめて持ち方変えろっ!」
「騒ぐな! クソッ、あのヤロウ、いつの間に…」
今は一大事であることはわかっているのだが、この体勢では、冷静になって物を考えることもできない。
「…っ、神崎、オレが姫川でも同じことするのか?」
「あ?」
思わず想像してしまった神崎。
「逆に、姫川にされたらどう思う?」
「……………」
またもや想像する神崎。
因幡と同じく暴れるだろうと考える。
走りながら辺りを見回し、あるものを見つけた。
「しょーがねーなっ!」
本を運ぶための台車だ。
それに因幡を載せて三角に座らせ、押して走る。
「お…、おお…!」
アトラクションでも味わっているかのように、因幡の表情が若干楽しげだ。
エレベーターの前に着いた神崎だったが、ボタンを何度押しても反応はない。
止められていた。
「く…っ」
「神崎! 非常口は!?」
石矢魔図書館に立ち寄ったことはなかったが、構造はどこの図書館と変わらないはずだ。
非常口がないほうがおかしい。
緑色に点灯する非常口への案内を見つけ、廊下を走る。
左側の壁はすべて窓ガラスだ。
すっかり日が沈んだ石矢魔町が見える。
「…あれか…!」
白い扉が見えてきた。
神崎はドアノブをつかんでまわす。
鍵はかかっていないようだ。
扉を大きく開け、動きを止めた。
「どうなって…」
扉の向こうには、鮫島が立っていた。
「楽しい鬼ごっこだったよ、神崎君」
「チッ…!」
踵を返そうと振り返ったとき、
ゴッ!
「か…っ」
同時に、鮫島の膝蹴りが神崎の腹にめり込んだ。
「神崎!!」
重い一撃を食らわされた神崎は、その場に腹を抱えて倒れた。
鮫島はくつくつと笑い、神崎に近づいて胸倉をつかんで立たせる。
「勝手に抜け出したり、大事な人質を連れ去ってしまったり…、悪いコだ」
「そいつを放せっ!!」
因幡は怒鳴るが、応じる鮫島ではない。
「放す気は毛頭ない。コレが私の御褒美だからだ」
「ごほうびだと?」
「そう。…そろそろいただこうかと思ってな…」
痛みに顔を歪める神崎を見て、鮫島は舌舐めずりする。
嫌な予感を覚えた因幡は「待て!!」と焦った。
「ダメ!! 却下!! そんなCPが許されると思ってんのか!? 全国の姫神ファンを敵に回すことになるぞ!!」
「「?」」
神崎と鮫島は首を傾げる。
「私がいただくのは、彼の命だよ」
「!?」
鮫島は右手の甲で神崎の頬を撫でつけ、短い髪を梳かす。
神崎は、「触るな」と歯を剥いて睨みつけた。
「私は、生物の生命力を食す悪魔だ。本当は食べなくても生きてはいけるが、すっかりその味にハマってしまってね…。仲間からは「いやしい」と忌み嫌われた挙句、追放されてしまった…。情けない話だ」
神崎には鮫島の言葉は理解できない。
鮫島は肩越しに因幡を鋭い眼差しを向ける。
「おまえと同じだ、因幡桃」
「…! 違う…!」
「いや、同じだ。いくら人間の皮を被されようとも、本能には抗えない。実際、楽しかっただろう? 人間を小石のように蹴り飛ばすのが」
「違う!!」
「だから、同族に嫌われてしまった。おまえが恐れているものを当ててみせようか? …神崎君達に「バケモノ」と恐れられることだろう?」
「………っ」
否定するどころか、言い返すこともできなかった。
その通りだ。
神崎達とつるむようになってからは、昔の自分を思い出すのがおぞましくなっていた。
いつか傷つけてしまうのではないかと怯えていた。
「因幡…、耳貸すんじゃねえ…」
「!」
ずっと黙って聞いていた神崎が、痛みに呻きながらも口を開いた。
「こいつの言ってることはさっぱりだけどよ…。オレが…、この神崎さんがてめぇを恐れる? …はっ、ちゃんちゃらおかしいぜ」
神崎はせせら笑い、言葉を継ぐ。
「てめーは、アメさえ与えとけば、すぐに機嫌が良くなるし、牛乳見ると具合悪くなるし、こっちがああ言えばこう言うし、オレと姫川の仲を妙な視線で見やがるし…、そんなてめーのどこを怖がれってんだ? 逆に教えてほしーぜ。ケンカが好きなのは、てめーもオレも同じだ。暴力沙汰上等じゃねーか。こんなイカれた奴とはまったく別モンだよっ!!」
「神…崎……っ」
今まで、そうやって自分を見てくれた相手はいなかった。
ずっと胸の奥に抱えていた痛みを和らげてれる相手もいなかった。
不意に因幡の目に涙が浮かぶ。
「美しい友情…。ようやく理解できた。フユマ様が狙っていたのはそれか…。おまえはどうする?」
「!!」
鮫島は神崎に顔を近づけ、命を貪るため、その唇に吸いつこうとする。
「!! やめ…―――」
あと数ミリで唇に触れる直前、突然、明るいライトに照らされた。
「「「!?」」」
ヘリだ。
騒音にも似たプロペラ音を立てながら、窓に急接近する。
「ヘリ…!?」
ガシャアンッ!
「!? ぶっ!!」
窓ガラスを割って突入した人物のコブシが鮫島の右頬に炸裂した。
「コハルは連れて来た。取引成立と同時に、あとはオレの好きにさせてもらうぜ」
「「姫川!!」」
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