24:凶暴兎がブチ切れました。
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石矢魔図書館。
今日は休館日だ。
その図書館の3階の奥に、鮫島はいた。
保健室でもないのに、白衣を着たままだ。
背後の本棚に背をもたせかけ、興味を持った本を片手に読みながら姫川と交渉の会話をしたあと、ケータイの通話を切り、目の前でうつ伏せに転がっている因幡を見下ろした。
「貸してくれてありがとう」
使用していた因幡のケータイを因幡の目前に落とす。
先程意識を取り戻し、電話の内容を聞いていた因幡はキッと鮫島を睨んだ。
交渉の道具にされ、今すぐ蹴りかかりたい衝動を覚えたが、手足を包帯のような布で縛られ、身動きがとれない状態にあった。
「…神崎達だけじゃなくて、姫川に春樹…、母さんまで巻き込みやがって…! てめえは一体なんなんだ!?」
「悪魔」
鮫島はあっさりと答えた。
呆気にとられる因幡。
ふざけるな、と怒鳴ろうとしたが、ここに連れてこられる前のことを思い出す。
「魔界」。
この男はそう言った。
魔界の生物まで見せたのだ。
「……本気で言ってるのか?」
「魔界は信じても、悪魔は信じないのか?」
せせら笑う鮫島に苛立ちを感じたが、怒りを押し殺して尋ねる。
「目的はなんだ? 関係のない母さんになにを…」
「関係ある。契約悪魔の譲渡をしてもらう。そもそも事の発端は、おまえの母親が起こしたことだ」
「契約悪魔? 譲渡? 母さんがなにしたって…」
「……本当になにも知らない…人間の皮を被されたものだな」
憐れむような目。
それを向けられた因幡は嫌な汗を浮かべた。
(母さんが、なにしたっていうんだ…)
コハルは自分になにを隠しているのか。
不意に背筋に悪寒を覚えた。
鮫島は本を閉じて元の棚に戻し、因幡に近づいて手を伸ばした。
「! やめ…っ」
襟を引っ張られ、後ろ首の火傷を見られてしまう。
「この火傷を負い、おまえは暴走したはずだ。敵、味方…、その場にいた人間を無差別に傷つけ、豊川という男に火傷を…、いや、凍傷を負わせた」
「どうしてそれを…!?」
「その事件があって、おまえの鍵は壊れ、些細なことでも開くようになってしまった。夜叉を抜けたあとも…」
「やめろっ!!」
かさぶたを捲られるように、痛みの記憶が脳裏を巡った。
石矢魔に来る前に引き起こしてしまった惨事。
同じ人間を見る目付きではなかった、クラスメイト。
「悪魔」、「出て行け」、「近づくな」、「バケモノ」などの拒絶の言葉。
因幡の中では、トラウマになっていた。
「―――そう、その目だ」
鮫島はしゃがみ、白衣のポケットから正方形の手鏡を取り出し、因幡の顔につきつけた。
「!!」
因幡は自分の瞳が真っ赤に染まっているのを見てしまった。
「感情が高まるとそうなるようだ。この町に来てから目立つようになったな…」
(……オレは…、人間じゃないのか?)
鏡に写る自分に問う。
「コハルが来るまで辛抱してもらおうか。詳しい話は彼女から聞くといい」
「……神崎達は?」
「1階のロビーの隅にいる。ロープで縛ってあるから、逃げ出すことはないだろう。少量の毒もまわってる。…もし、姫川君が交渉を破棄する事態を起こした場合、神崎君以外の2人には悪いが、死んでもらう」
「…っ」
こちらも、うかつに逃げ出すことはできない。
ただ大人しく待つだけなのか、と歯を噛みしめた時だ。
鮫島の背後の本棚が、ぐらりと揺れた。
「―――!!」
はっと振り返り、横に飛んで避ける鮫島。
「わっ!?」
そのまま因幡に向かって傾倒する本棚だったが、向かいの本棚が支えとなって下敷きは免れた。
だが、並べられた本が、ドサドサッ、と因幡の上に落ちる。
「いたたたたっ!?」
「因幡!!」
声を上げ、因幡を助け出したのは、神崎だった。
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