24:凶暴兎がブチ切れました。
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「因幡達が誘拐されたってどうことだ」
春樹に呼び出された姫川は、蓮井に車を出してもらい、ケータイを握りしめたまま病院の前で立ちつくしていた春樹を乗せた。
行き先も不明で、車は病院の玄関の前で停止させたままだ。
姫川が座る後部座席に乗り込み、春樹は病室に落ちていた金のギターホルダーと、それに絡みついていた1本の赤毛を姫川に手渡した。
「これが病室に…」
「……………」
赤毛を受け取った姫川の脳裏に、鮫島の顔が浮かぶ。
「……まさか…」
顔を上げた姫川は、前を向いたまま運転席に座る蓮井に命ずる。
「蓮井、聖石矢魔の保健医の鮫島という男を今すぐ調べあげろ。現在、奴がどこにいるかもだ」
「はい、すぐに」
蓮井はケータイとノートパソコンを取り出し、迅速に鮫島について調べ始めた。
「いなくなったのは、因幡、神崎、夏目、城山の4人。連絡はとれなかったのか?」
「はい。姉貴達のケータイはどれも電源が切られているのか応答もないし、城山さんはケータイ持ってませんし…」
「手掛かりなし…か」
「それにしても、姫川さんが早く来てくれてよかった…」
呼び出して5分後に姫川が到着したのだ。
早すぎる。
そこで春樹は勘繰った。
「もしかして、オレが呼び出さなくてもここに来る予定だったとか?」
「……因幡に…、ケーキ奢る約束だったからな…」
姫川はヘタな嘘をつくことはやめ、正直に話した。
助手席には、有名店のケーキの箱が置かれていた。
「ケーキはオレ達を含めて6人分。神崎さんが大好物だろうヨーグルッチケーキまで…」
ゴン!
いつの間にか勝手にケーキの箱を開けて中身を確認する春樹の頭に、姫川は遠慮なく拳骨を食らわした。
「す、すみません」
調子に乗ったことを反省し、春樹はコブのできた頭を抱える。
「坊っちゃま、鮫島という男…。出身、現在の住所、年齢…、過去の経歴どころか、本名であるかどうかも不明です」
素性不明。
「なんだと…」
姫川は思わず身を乗り出した。
「学園内も調べさせましたが、鮫島の姿が見つかりません…」
お役に立てず、と蓮井は口惜しげな表情をする。
「これ、やっぱり警察に言ったほうが…」
一般人らしい対応をしようとしたとき、春樹のケータイが着信音を立てながら震えた。
サブディスプレイを見ると、因幡の名前が表示される。
「姉貴からだ!」
「貸せ」
姫川は春樹からケータイを奪い取り、通信ボタンを押して耳に当てた。
「因幡か? 今どこにいる!? 神崎達は…」
“その声…、姫川君か?”
「!!」
電話越しから聞こえたのは因幡の声ではなく、姫川の感情を逆なでさせる声。
「てめー…」
鮫島の声だ。
春樹は姫川に耳を寄せ、ケータイから漏れる声を聞き取ろうとする。
姫川は冷静を装い、鮫島との会話を続けた。
「……因幡達を連れ去ったのはてめーか?」
“ああ。因幡君と、神崎君を連れ去ったのは私だ”
わざわざ神崎の名前を出して挑発してくる。
姫川はゆっくりと息を吸い、挑発に乗るものかと耐えた。
ここで交渉もなくどちらかが切ってしまえば、因幡達の手掛かりがなくなってしまう。
「要求があって電話したんだろ?」
“さすが、簡単には挑発に乗ってくれそうにないな。本当は因幡君の弟に用件を言いたかったのだが…、まあ、キミでもいいだろう”
「早く言えよ」
“…因幡コハルを連れて来い”
「「…!!」」
姫川と春樹は驚いて目を見開き、目を合わせた。
なぜここで因幡の母親であるコハルの名前が出てくるのか。
「…連れてこなかったら?」
“キミならどうする? 言っておくが、私はキミより残酷なことをする自信はある”
「……………」
本気だ。
姫川は、電話越しで冷笑を浮かべているであろう鮫島の言葉を、真に受けた。
「…わかった、連れて行く」
「姫川さ…っ」
自分の母親が巻き込まれると聞いて黙っている春樹ではなかったが、姫川はその口を右手で塞いだ。
「場所を言ってもらおうか」
“……警察には…”
「言わねえよ。その場所が本当かわからねーからヘタなことはできねぇ。…ちゃんと本人を連れて行くから、そいつらには手を出すな」
“やはり頭がいいな、キミは。私と同じ実行犯だからリスクも考えているわけか”
「……手を出すなよ。いいな?」
場所を指定された姫川は、電話を切って蓮井を因幡の家に向かわせた。
「姫川さん! マジでおふくろを…」
「ああ。連れてく」
「やめてください!! おふくろになにかあったら…」
「オレは「連れてく」だけだ」
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