23:家に帰るまでが学園祭です。
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学園祭が終わり、夕方、因幡は神崎達とともに城山の見舞いのため、病院にいた。
コハルに遅くなるとは伝えてある。
因幡とともについてきた春樹は、神崎達のためにヨーグルッチとその他ドリンクを買いに1階の自動販売機に向かい、因幡達は先に城山の病室に行き、顔を見せた。
「か、かかか、神崎さん―――っ!!?」
ブシュッ!
神崎が見舞いに来てくれたことに嬉しくて興奮してしまい、半身を起こすと同時に頭の包帯の隙間から再び出血する。
「落ち着け」
ぐったりとベッドに体を預ける城山に対し、呆れた神崎は一瞬入ることを躊躇ったが、近づいて見舞いのフルーツバケットをベッド脇の小棚に置き、パイプ椅子を開いて座った。
「城ちゃん、調子はどう?」
「どう見ても悪化してるだろ」
頭からだくだくと出血中の城山が見えんのか、と言いたげに因幡がつっこむ。
「その…、バレーの結果は…」
心配で仕方なかったのだろう。
首だけこちらに向けて尋ねる城山に、神崎は不敵に笑って答える。
「フン、楽勝だったぜ。聞かせてやろうか、オレの武勇伝」
「おお!! さすがですよ神崎さん!! ぜひ聞かせてください!!」
(ほとんど男鹿に美味しいとこ持ってかれちまったが…、言わないでおこう)
因幡は半目で神崎を見つめながらも、黙秘することにした。
「バレーのあとも凄かったんだよー。ライブ大会で優勝しちゃったからね」
「ライブ大会!? 優勝!!?」
夏目の言葉に食いついてきた。
「うん。因幡ちゃんがボーカル、神崎君がベース、姫ちゃんがギター、春樹君がドラム…。よく合わせられたよね」
「それ。オレも思った。オレだってギター弾きならすのすごく時間かかったのに…」
たった2時間で出来るわけがない。
選曲元は春樹に貸してもらったCDからで、春樹がドラムを叩けたのはそれほど不思議ではなかった。
問題は2人だ。
「…あー…。あれな…」
神崎は言うべきかと視線を上げ、アゴを人差し指で掻き、答えた。
「因幡が始めたきっかけに、オレもちょっと始めてな…。こっそり姫川に教えてもらってた。おまえが帰ったあととか…」
「…もしかして音楽室用の楽譜、見たのか?」
置き忘れないように、因幡は学校用と家用の楽譜を持っていた。
神崎達は音楽室に置いていた楽譜で練習していたのだろう。
最初は娯楽のつもりだったようだ。
「ちなみにその練習期間のこと、詳しく教えてくれねーか?」
真剣な顔で因幡はケータイを取り出し、録音モードにする。
「だからなんでイキイキしてんだよ」
「あ。もしかして今日一緒に寝坊したのって…」
「音楽室で姫川と遅くまでやってたから泊まってたんだよ。あいつ、気が付いたらギター抱えたまま座って眠ってたから、起こすはずのオレもつられて…」
神崎の脳裏に、いつの間にか肩を寄せ合って眠っていたことを思い出し、言葉の続きを止める。
「―――でっ!?」
因幡はドキドキしながら先を促す。
「眠っちまったんだよっ!」
「状態を詳しく!!」
「必死!!?」
「姫川めぇ…っ!!」
城山は毛布の端を噛み、なんて羨ましいことを、と恨みのオーラを漂わせている。
「まあまあ、因幡ちゃん、ウサギ剥いて」
「略すな!「ウサギの形にリンゴ剥いて」って言えよっ。コエーな」
夏目の発言につっこみつつ、因幡はフルーツバスケットからリンゴを取り出そうとした。
だが、入ってあったはずのリンゴがない。
「あれ? リンゴ…」
「あ、天井に…」
城山は天井を指さした。
「「「天井!!?」」」
素っ頓狂な声を出した因幡、夏目、神崎は同時に天井を見上げた。
確かにリンゴが逆さまにくっついていた。
「どうなって…」
神崎がそう声を漏らすと、リンゴから蜘蛛の足のようなものが6本生え、突然真ん中から割れた裂け目からは鋭く並んだ牙が見えた。
「な…!!」
驚くと同時に、リンゴの口から緑の濃霧が吐きだされ、あっという間に部屋を満たした。
その場にいた4人は何日も放置された生ゴミのような悪臭に咳き込み、その場に倒れた。
「く…そ…ッ」
因幡は必死に意識にしがみつき、窓を開けようと床を這って近づこうとする。
「やはりしぶといな」
「!」
目の前に、黒い靴が見えた。
さっきまでこの部屋にいたメンツのものではない。
因幡はその人物の顔を見上げるが、目の前が霞んでうまく直視できない。
だが、その赤毛と声には覚えがあった。
「魔界の森林に生息する、魔界クモリンゴ。驚くと毒を吐きだすが、味は毒の効き目が強いほど美味い」
男は、カサカサと壁に下りてきたクモリンゴをつかまえ、一口かじる。
「味はこんなものか。殺傷力の高い毒なら、もっと美味いだろうに…」
「てめぇ…は…、保健医の……」
「鮫島だ」
鮫島はその場にしゃがみ、因幡のアゴをつかみ、顔を合わせた。
「頭が混乱してるだろう。無理もない。今まで人間の暮らしをしてきたおまえにとっては理解しきれないだろう」
「…っ」
「こっち側に来てもらおうか、因幡桃。あの方もそれを望んでいる」
「放…せ…!」
因幡は力を振り絞って手を伸ばし、鮫島の髪をつかんだ。
「つっ…!!」
パァン!
予想できなかった因幡の行動に、鮫島は髪を引っ張られる痛みに顔をしかめ、手の甲でその右頬を打った。
因幡の口端から一筋の血が流れ、そのまま意識ごと髪から手を放してしまう。
「ようやくオチたか…。!」
ほくそ笑んだ鮫島は、扉の向こうに気配を感じ取った。
「悪い、桃姉。病室がわからなくて…」
扉を開けた春樹はその光景に言葉を失った。
誰もいない。
一度出て病室の番号を確認してみる。
看護師から教えてもらった病室で間違いはない。
布団がめくれていたり、シーツに窪みがあったり、開かれたままのパイプ椅子があったり、フルーツバスケットがあったり、誰かがいた形跡があるというのに。
「桃姉…? 神崎さん? !」
部屋に足を踏み入れた春樹は足下に落ちているものを見つけた。
ライブ大会の優勝賞品、金色のギターホルダーと、それに絡みつく赤い糸のようなもの。
手に取ってそれが髪であることに気付く。
「…!!」
春樹は急いでケータイを取り出して因幡、神崎、夏目の順番に電話をかけたが電源が切られているようだ。
「いったいどこに…」
不安な気持ちに駆られ、春樹はケータイを見つめ、ある人物を思い出した。
開いたアドレスは、姫川竜也。
.To be continued