23:家に帰るまでが学園祭です。
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15時になり、ライブ大会が開催された。登録された順番に1組ずつライブが行われていく。
盛り上がる観客の中に、仮面の少年が紛れていた。
「おい」
「!」
不意に声をかけられたが、振り返らない。
声をかけた人物はその隣に並び、ライブステージを見上げた。
「このオレ様に集合場所で独り待たせるとはいい度胸じゃねーか。誰のおかげで外に出れたと思ってんだ」
「ああ、そういえば、14時に集合だったっけ」
仮面の少年が思い出したように言うと、フユマは引きつった笑みを浮かべ、横目で仮面の少年を見る。
「このガキ…」
「久々の外だったから、はしゃいじゃってさー。怒らないでよ、フユマ」
甘えるように言われたフユマはため息をつき、ライブに目を向けながら問う。
「……で、桃矢ちゃんに会ってきたのか?」
「うん。ボクなりに挨拶してきたよ。間接的に気持ちも伝えた」
仮面の少年は自分の右手のひらを見つめ、因幡の手がどうなったかを想像し、口端を吊り上げた。
審査員に評価されながら、それぞれのチームのライブが次々と終わっていく。
そしてついに因幡達の出番がやってきた。
「それではエントリーナンバー14番!“イシヤマラビット”、おねがいしまーす!!」
司会に呼ばれたが、因幡達は現れない。
「あれ?“イシヤマラビット”さーん?」
辺りが騒然となり、フユマは「なにかしたのか?」と聞いたが、仮面の少年は「挨拶しただけだよ」と仮面の下でほくそ笑んでいる。
「棄権でしょうか…。えー、では…、エントリーナンバー…」
「「「「待ったああああああ!!!」」」」
観客を掻きわけながら、4人の影がステージへとのぼった。
「遅れてすみません。“イシヤマラビット”です。…あ、バンド名ですが、“イシヤマラビッツ”に変更で」
現れたのは、髪を下ろし、へそ出しノースリーブ&ショートパンツを着た因幡だ。
本当は学生服のまま参加する予定だったが、姫川に止められて着せられてしまった。
そのおかげか、「あの子カワイイ」と男子の反応がいい。
姫川も髪を下ろしたままの参加で、女子が「あの人バレーの人だー」、「カッコいいー」などと好評だ。
目を丸くしていた司会だったが、はっと我に返る。
「え…、えーとそれでは、“イシヤマラビッツ”さん、お願いします。曲名は、“つよがり”」
それぞれの位置についた因幡達は楽器をとり、春樹のバッチの合図で演奏を始め、因幡が歌いだす。
盛り上がる観客。
歌につられるように観客はどんどん増えていく。
「……歌が上手いのはコハルちゃん譲りだな」
フユマはしみじみと呟く。
「……………」
仮面の少年はただ黙ってそのライブを眺めていた。
見えるのは、楽しそうに歌っている因幡の姿だ。
ライブが終わり、拍手喝采が湧きあがる。
人を魅了させるライブと称され、結果、因幡のバンドは優勝した。
優勝者の証である金色のギターホルダーを渡され、因幡は肝心なことを思い出して司会に尋ねる。
「あれ? ケーキ無料パスは?」
「あ…、あー…、それなんですが…」
司会は言いにくそうに視線を泳がせたあと、因幡の耳元で囁いた。
「え!? 聖石矢魔生徒のみ!!?」
司会にチラシを見せてもらい、左下の端に小さな文字で書かれているのを見つけ、あからさまに手と膝をついて沈んだ。
春樹は呆れ、神崎は「なんだそりゃ」と苦笑している。
姫川はその背中に手を添え、「ケーキならオレが奢ってやっから、今は喜んどけ」と慰めた。
その光景はフユマの目にも映っていた。
「おまえの思惑通りにはならなかったな…」
横目で仮面の少年を見たが、
「!」
仮面の少年の姿はまた忽然と消えていた。
仮面の少年は、屋上に来ていた。
そこでライブを見物していた鮫島に会うためだ。
「鮫島」
「! …おまえか」
一度肩越しに振り返った鮫島だったが、また前を向いてグランドを見下ろす。
「鮫島…、フユマに内緒で頼まれてほしいんだけど…」
「内緒事なら断らせてもらう。私は今忙しいんだ」
鮫島が右手をひらひらとさせると、仮面の少年は欄干に飛び乗り、鮫島の視線を追った。
「ずっとこの学校でなりたくもない保健医を務めてたんだから…、ご褒美くらいほしいよね? それに、そろそろ動きだしてもいいころじゃない? ボクはもう待ちきれない。フユマはただ躊躇ってるだけだと思うんだ。それは鮫島だってわかってるんでしょ?」
鮫島は横目で仮面の少年を見る。
「………一応その内緒事というのを聞いてやろう。聞くだけだ」
「そうこなくっちゃ」
仮面の少年は、「内緒事」を打ち明かした。
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