23:家に帰るまでが学園祭です。
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プログラム通りならば14時から開催される予定だったライブ大会は、男鹿と帝毛達が会場場所である体育館で暴れたために、急遽予定を変更し、15時にグランドで行われることとなった。
13時、元の服装に着替えた因幡は教室に自分のギターを取りに行った。
自分の机の横にかけておいたのだ。
それを肩に提げ、本番まで練習するために旧校舎の音楽室へと向かった。
他の生徒を避けながら廊下を走った時だ。
「!」
突然、ギターケースの紐が切れ、ギターが廊下に落ちた。
「わっ! ヤバ…ッ」
ギターは、姉の桜のものだ。
丁重に扱わなければあとが怖い。
因幡が屈んで取ろうとしたとき、別の人物がそれを取って因幡に手渡した。
「ありが…」
礼を言おうとその人物の顔を見て、言葉を止めた。
黒の下地に、頬まで裂けて笑っている赤い口、目の部分には2つの小さな白の点がいた仮面。
ウサギの耳がつけられてある。
口を隠せば愛らしいウサギに見えるのに、笑った口が不気味に見せた。
「…あ、ありがとう…」
仮面に驚かされたが、因幡は礼を言い直す。
「…ライブ、頑張って…。ボク、応援してるから…」
仮面越しに聞こえたのは、声変わりする手前の少年の声だった。
「ああ」
因幡は笑顔を向け、先を急いだ。
仮面の少年は消えるまでその背中をじっと見つめていた。
旧校舎の音楽室の前に到着した因幡は扉を開けた。
「あ、おまえら」
中には、春樹、神崎、夏目、姫川がいた。円になって学園祭の焼きそば、お好み焼き、たこやきなどを食べている。
「ほら、やっぱり来た」
「食べる?」
夏目に続き、焼きそばを食べる春樹は自分達の傍に置いた食べ物を指さす。
「よう。練習しにきたんだろ」
神崎はたこやきを食べながら声をかけた。未だに髪を下ろしたままの姫川はお好み焼きを食べ、因幡に言う。
「出来栄え、聞かせてもらおうか」
「ちょっと待ってろ…」
因幡はギターケースを下ろし、中からギターを取り出そうとした。
「一昨日、見事完奏させ…、っ!!」
ギターのネックを持った瞬間、その左手に激痛が走り、ギターを手放した。
「因幡ちゃん!?」
先に異変に気付いた夏目が駆けつけ、その左手首をつかんだ。
「うっ…」
「!!」
因幡の左手は鋭利な刃物で何度も切り付けられたかのような傷があった。
ギターを見たが、濡れているだけで剃刀のような刃物は見つからない。
「いったいどうして…」
「誰だこんなことしやがったのは!!」
神崎は仕掛けた相手がわからないというのに乗り込む勢いだ。
因幡の脳裏に先程の仮面の少年が思い浮かぶが、あの時はすぐ手渡され、刃物を仕込む隙などなかったはずだ。
「これじゃあ、ギターが…」
自分の左手を見て、悔しさのあまり切歯する。
これでは満足な演奏なんてできるわけがない。
ライブを棄権するしかない、と諦めかけたとき、姫川が因幡のギターをとった。
「! 姫川?」
「まだ時間がある。…神崎」
「おう」
神崎は音楽室の倉庫からベースを持ってきた。
「オレがギター、神崎がベース、因幡がボーカル。…ライブらしいだろ?」
「合わせられるのか?」
「これから合わせるに決まってんだろが! まだ2時間ある!」
残りわずかな時間を「まだ」と前向きに言ってみせる神崎。
「それならオレも…」
春樹も立ち上がって音楽室の倉庫に入り、古そうなドラムを取り出してきた。
「参加していいっスか? 中学でライブの経験ありますし。桃矢姉、楽譜見せて」
「わぁ、頼もしー」
夏目は手をパンと鳴らして、「ね」と因幡に顔を向けた。
「……ああ」
因幡は持っていた楽譜を春樹に手渡した。
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