23:家に帰るまでが学園祭です。
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「10…。駄目だ。便器の数足りねえ」
女子トイレの便器には帝毛の不良達の頭が突っ込まれていた。
あとから何事かと突入してきて見事に蹴散らされた不良達は扉に突き刺さっている。
因幡は扉を開けて玄関を窺う。
玄関で見張りをしていた帝毛の不良達はもういない。
気付いて誰か来るかと思ったが、体育館の方が騒がしい。
おそらくそちらに集中しているのだろう。
「桃姉!」
体育館の出入口で残っていたはずの帝毛の2人がこちらに吹っ飛ばされ、床に転がされた。
春樹が倒したのだ。
「こっちは片付いた」
非常にスッキリとした顔だ。
今まで募りに募った苛立ちをぶちまけてきたようだ。
「…なにしたんだよ」
「なにしたかは女子トイレ覗いてみれば? …つうか、男鹿達はどうなってんだよ、今」
体育館はただの喧嘩とは思えない、轟音が聞こえた。
「ああ…、なんか、帝毛のトップ4が現れて、男鹿さんと六騎聖のひとりが相手を…」
「なるほど…。じゃあ、そっちに気を取られてるその間に人質救出といきますか」
体育館内の帝毛の不良達がこちらに駆けつけてくる様子がないのをいいことに、因幡は行動を起こそうとする。
そこへ、邦枝が駆けつけて来た。
「因幡さん!」
因幡はすぐに乙女(妹)モードに切り替える。
「あ、邦枝……さん」
「ここの帝毛達知らない!?」
「さっき兄が来て、この通りボッコボコにしていきましたよ。さすが我が兄ですねっ」
女子トイレの扉を開けると惨事が広がっていた。
(自分で褒めるな)
春樹は内心でつっこんだ。
「そ…、そう…」
邦枝は怪訝な目を因幡に向けたが、因幡は目を合わせないように顔を逸らし、「ここに来てよかったんですか?」と尋ねる。
「今、みんな人質救出に乗り出してるわ」
(同じこと考えてたか)
自分が出る幕でもないな、と考え、因幡は物足りなさを感じながらも邦枝達に任せることにした。
「ここが済んでるならいい。…因幡に…、あなたのお兄さんに礼を言っといて」
邦枝は意味ありげに小さく笑い、体育館へと戻って行った。
「……バレたんじゃねーの?」
邦枝の背中を見送った春樹はその背中に言う。
「んなワケあるか…。オレ達も一度戻るぞ」
因幡は振り返らずに返した。
「!!」
一歩踏み出したその時、突然、全身の肌がざわめいた。
共鳴するように、一瞬、瞳が赤くなる。
「桃姉!?」
因幡が走りだし、春樹も慌ててあとを追う。
(このカンジ…!!)
カッ!!!
“ゼブルブラスト”
体育館に足を踏み入れた瞬間、辺りが稲光に包まれた。
「桃姉!!」
不意に春樹に肩をつかまれて後ろに引っ張られ、宙で散乱する稲妻を避ける。
体育館内が静けさを取り戻し、因幡と春樹はその光景を茫然と見つめた。
体中に紋様を浮かべた男鹿、その男鹿の周りに転がる焦げた帝毛達と霧矢、焦げた床。
男鹿は、服が焼け焦げ、パンツ一丁で床に仰向けに倒れている霧矢に近づき、その顔の横を踏みつけた。
ビクッと霧矢の体が震える。
「起きろ。寝たふりかましてんじゃねーよ。かすったたけだろ。それともこのまま永眠すっか?」
狸寝入りをかましている霧矢から大量の冷や汗が流れた。
「3、2、1…」
カウントダウンを始めた男鹿に、慌てて霧矢は半身を起こした。
「まっ…、待て待て分かった!! 起きるよっ!!」
男鹿はしゃがみ、不気味な紋様が浮かんだ顔を近づけた。
「3分やる。全員つれて失せろ。でねーと次は、皆殺しにしてやんぞ」
その肩で、ベル坊は解読不能な呪いの言葉を言った。
恐怖のあまり、霧矢の目には男鹿の姿が魔王に映る。
「ぎゃああああああああ―――っ!! ぎゃあぁあーっ!!」
霧矢は絶叫を上げながら出入口から飛び出した。
他の帝毛の不良達もそのあとを追いかける。
「…どーした?」
その光景を眺めていた姫川が複雑な表情をしているのを見て、神崎が尋ねる。
「いや…、思い出せんが…、なにか似たようなことがあったよーな…。トラウマ?」
一度姫川は男鹿の“ゼブルブラスト”を食らっていた。
だが、トラウマで忘れている様子だ。
「桃姉…、今の…」
「……………」
ギャラリーも、人間の所業とは思えない現状に騒然としていた。
その時、パン、と乾いた音が鳴り、全員そちらに注目した。
「はーい、全員拍手!!」
出馬は男鹿達に拍手を送った。
全員が茫然とする。
「いやー、凄かったなー。スペシャルプログラム「ケンカイリュージョン」。なんや、みんな、キョトンとした顔して。ホンマもんのケンカやと思ったんか? ちゃうちゃう。最後の特殊効果で気付くと思ったけどなー」
出馬はマイクを拾い、口元に寄せる。
「なぁ、静さん」
「え?」
「えらい苦労して作ったもんなー。この仕掛け」
出馬がアゴで指すと、話を合わせるように、ととった静は出馬からマイクを受け取った。
「―――…そうね、でも大成功よ!! 協力してくださった帝毛の方達にも、皆さん!! 盛大な拍手を!!」
すると、そうだと信じたギャラリーから拍手喝采が湧きあがった。
出馬は静にマイクを返してもらい、教員のいるギャラリーを見上げる。
「先生方も黙っててすみませんでした。これが最後にやるゆうてたサプライズ企画ですわ。ちょい、やりすぎましたが…」
木戸は腑に落ちない顔をしていたが、佐渡原は「びっくりしたなー。もうっ!!」と信じたようだ。
「そして皆さん、本日の主役をはってくれた男鹿親子にもう一度大きな拍手を!!」
拍手は男鹿達に向けられた。
「…サプライズ…。こっちまで黒焦げになるかもしれなかったってのに…」
春樹の呟きを横で聞きながら、因幡は男鹿を怪訝な目で見つめた。
「イリュージョン…ね」
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