19:まいどお騒がせします。
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保健室に運ばれた神崎は、未だに目を覚まさない。
ひとり保健室に残った因幡の手で体に包帯を巻かれたあとベッドに寝かされた。
因幡は神崎のベッドの傍らでパイプ椅子に座り、その顔を見つめる。
そうしていると、ベッドを囲むカーテンが半分開かれ、鮫島が声をかけた。
「無理に動かさないほうがいい。外傷もそうだが、脳のダメージがそれより大きい」
「……そうか」
因幡は振り返らず、静かに返し、手渡された濡れタオルで神崎の顔に付着した血を拭った。
鮫島はしばし黙ったあと、「教室…戻らなくていいのか?」と尋ねる。
「……戻りたくない…。顔…合わせたくない奴がいるから…」
因幡は神崎を追いかける前のことを思い出す。
大森達とともに教室を出ようとしたとき、自分の席から微動も動かなかった姫川。
それどころか携帯をいじりだした。
『姫川、おまえも止めるの手伝ってくれよ』
因幡は誘ったが、姫川は見向きもしない。
『はあ? 好きにさせとけばいいだろ。オレには関係ねえよ』
『な…』
「関係ない」。
その言葉が因幡の胸に突き刺さる。
『そ…、そう言うなよ。説得なら、おまえの方が向いて…』
『因幡、止めるならてめーらだけで行け。オレがあいつを止める義理はねえんだ。…神崎が退学になろうがな』
『……そうかよ…!』
冷たい口調に、因幡は姫川を睨み、先に行った大森達を追いかけた。
そして、神崎を止めることができなかった失態だ。
顔を合わせた時点で嘲笑われてしまうだろう。
城山がやられ、神崎までやられてしまった。
心苦しい思いでいっぱいになり、コブシを握り、歯を噛みしめ、後悔する。
神崎が嘲笑されたとき、どうして蹴りの一発でもお見舞いしてやれなかったのか、と。
「目の色、変わってる」
「!」
鮫島に肩を叩かれ、はっとする。
その言葉通り、今、因幡の目の色が変色していた。
肩越しに振り返ると、鮫島の顔がすぐそこにあった。
「環境の変化か、頻繁に起きてるようだ。…いっそのこと、黒のカラーコンタクトをつけた方がいいかもしれない。それを見た仲間は、どう思うだろう?」
「…なんの話だ?」
肩に触れられただけなのに、まるで頭を押さえつけられているような気がした。
鮫島は因幡から一歩離れ、誤魔化すように小さく笑う。
「独り言だ。…あとは私が面倒を見るから、帰ったほうがいい。もう放課後だ」
「……………」
直感だが、因幡はここから動かない方がいい気がした。
「いや…、神崎が目ぇ覚めてからでいいから…」
「いいからいいから。彼のことは心配ない。私が介抱するのだから」
「おっ!?」
笑顔のまま問答無用で脇に抱えられ、そのまま出入口に連れて行かれる。
因幡が見上げると、鮫島の眼鏡が妖しく反射しているのが見えた。
「…っ」
朝の出来事もある。
因幡が去ったあと、神崎がなにをされるのかわかったものではない。
因幡は「嫌だっ。オレは神崎(の貞操)を守るんだっ」と手足をバタバタとさせる。鮫島は内心で舌を打つ。
(チッ。勘のいい女だ)
「!」
急に因幡が大人しくなり、不審に思った鮫島が振り返ると、ベッドからおりてカーテンをつかんで立っている神崎の姿があった。
もう動けない状態だと思っていたのに。
そのタフさに鮫島も驚かされる。
「神崎…!」
「因幡…、あのホクロチビはどこ行った!?」
未だに揺れる脳に耐え、神崎は尋ねる。
三木のことだと理解した因幡は鮫島から抜け出し、駆け寄った。
(「寝てろ」…って言っても無駄そうだな)
「…屋上に行ったって言ったら?」
神崎は因幡の肩を強くつかみ、不敵な笑みを見せる。
「行くに決まってんだろ!」
因幡としては神崎の身も心配だが、鮫島と2人きりにするのは危険だと感じ、好きにさせることにした。
とことん好き勝手してもらおうじゃないか。
「つうわけで、お世話んなりましたー」
神崎はそう言って因幡とともに鮫島の横を通り過ぎる。
鮫島は振り返らずに言う。
「神崎君、またケガをしたら…、ここに来ればいい。歓迎する」
「もうするかよ」
神崎はそう言って扉を閉めた。
鮫島はくつくつと笑いながら、神崎が寝ていたベッドに近づき、枕元に置かれた濡れタオルを手にとった。
それには神崎の血が付着している。
しばらくじっと見つめたあと、顔を近づけ、濡れタオルを噛んでわずかに付着したそれを吸う。
口に広がるのは、予想以上の甘味。
吐息を漏らす鮫島の顔が恍惚げだ。
“キメェ”
「!!」
はっと壁にかけられた等身鏡に顔を向けると、鏡の中に、フードを被ったフユマが立っていた。
その光景を見ていたフユマの顔が引き気味だ。
「こ…、これはこれはフユマ様。お気付かなかった…」
鮫島は慌てて右手で自分の顔を覆い隠した。
“今のはさすがのオレ様も引くわー。…なに、さっきの金髪君がお気に入り? おまえの趣味はよくわからん”
そう言われた鮫島の口元が開き直ったかのように笑う。
「…私のような悪魔が求めるのは、特別美形でも、特別能力を持った人間でも、特別強い人間でもない。…その人間が持つ魂の本質だ。人間でも各々の味覚があるように、私の食指がたまたまあの男に動いただけのこと。申したはずだ。運命の出会い、だと」
“…おまえに魅入られた人間が今まで長く生きてたことがあるか。オレ様に内緒で勝手に殺すなよ。それと、桃ちゃんにいらないことを言うな”
そこも見られていたのか、と鮫島の笑みが引きつる。
「……人間界(こちら)に来るのは久々なんだ。エサのひとつくらい欲しがるのは、目をお瞑りになってもいいだろう? あなたと同じだ」
“おまえみたいな変態とオレ様を一緒にするな。本気で消滅させるぞ”
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