17:また転校しました。
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「お」
「あ」
指定された転校先へ向かうため、因幡はスイカ味のキャンディーをくわえながら時間通りにやってきた電車に乗り込み、つり革に手をかけたとき、隣に知った顔と合った。
男鹿と古市だ。
男鹿の肩にはベル坊もいる。
「因幡先輩…」
「……よぉ、男鹿と古市じゃねえか」
因幡はにっこりと爽やかに微笑み、
「このヤロォッ!!」
突然怒りの形相に変わったかと思えば男鹿に向けて回し蹴りを食らわせようとした。
男鹿はそれを屈んで避け、その隣にいた古市の顔面に当たりそうになった寸でのところで止める。
「…っ!!」
古市は大量の冷や汗を流し、目前の因幡の足を見ていた。
他の乗客は何事かと驚いている。
「避けんじゃねえっ!!」
「ムチャ言うなよっ!!」
突然のことに男鹿も言い返す。
「ここであったが100年目! 学校壊したのてめえだそうだな!? なんてことしてくれたんだ! オレのエデンを返せっ!」
喚く因幡に、男鹿は「あー…」とそっぽを向いて後頭部を掻いた。
辛いことを思い出した因幡は再びうるりとなる。
石矢魔高校では神崎達がいる教室が溜まり場だったし、夏休みは一緒に遊びに行ったり、入院しても神崎達と同じ部屋なので退屈はしなかった。
2学期の登校日が始まると憂鬱と喪失感に苛まれていたので、男鹿に八つ当たりでもしないかぎりすっきりするわけがない。
「因幡先輩、落ち着いて…。あれ? もしかして先輩も聖石矢魔学園ですか?」
「…そうだけど…。…え、おまえらも?」
指さして尋ねると、古市は「はい」と頷いた。
「…………代わりにおまえら、ネタになってしまえ」
因幡はそう言うと携帯を取り出し、2人を撮影した。
「「え?」」
「オレとしては不本意だが、このサイトも姫神じゃなくて男鹿古に変更かもな…」
「先輩? 言ってる意味がわかりません…」
古市は小さく挙手して言うが、因幡は肩を落として重いため息しか返さなかった。
その後も3人は一緒に通学路を歩き、聖石矢魔学園へと向かう。
「へぇ。因幡先輩、もともとは聖石矢魔に行く予定だったんですか?」
「親父は行ってほしかったみたいだけど…。オレが大反対だったから、ワガママ聞いてもらえたんだ」
なぜなら、石矢魔の方が男のナリしやすいからだ。
教師に性別がバレるのは当然だが、石矢魔の教師はチキンなのでうっかり喋ることも指摘することもない。
因幡が石矢魔で快適に過ごせる理由もそれに入る。
「なのに…、こんな堅苦しい学校に転校って…。せめて自分で行く高校くらい選ばせろっての…」
因幡は再び重いため息をつく。
目の錯覚か、ため息が黒い。
「先輩…、他の先輩達に懐いてましたからね…」
古市の目から見ても、そう映っていたようだ。
「懐いてねーよっ」
否定の言葉とともに古市を小突いた。
歩いていくにつれ、聖石矢魔学園の生徒が何人か視界に入った。
上はTシャツ、下は緑のズボンかスカート。
学ランを自由に着こなす石矢魔の制服とは違っていた。
坂道を登りきったところで、聖石矢魔学園に到着。
「やってきましたー! 聖石矢魔学園!」
途端にテンションが高くなる古市。
因幡はそれを鬱陶しそうな目で見る。
「おまえテンション高いな」
「こっちは超テンション低いってのに…」
「これがテンションを上げずにいられるか! あの不良共の巣窟から解き放たれ、オレ達にもついにごくごく普通の爽やかな青春の日々が訪れるかと思うと…」
古市はテンション上げっぱなしで「く~っ」とコブシを握りしめた。
因幡はそれを見つめながら、「これが一般人の普通の反応だよな」と余計に古市にテンションを持って行かれてしまう。
古市は早速、朝練の女子たちを見つけ大興奮。
それについていけない因幡と男鹿の2人。
「元気なことで…」
「ダブ」
因幡は気を紛らわせようと、男鹿の肩にいるベル坊の頭を撫でた。
教室に向かう途中、因幡は遠巻きからこちらを見てはヒソヒソと話している聖石矢魔の生徒に気付いた。
(…あまり歓迎されてる様子じゃねーな…。重い…。重すぎる…)
前を歩く古市は、逃げられているにも関わらず、ポジティブに女子達に挨拶をしている。
鼻唄まで歌いだした。
「男鹿、そろそろムカついてきたからこいつ転がしてもいいか?」
「好きにしろよ」
「ダーブ」
ベル坊にまでOKをもらった。
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