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地脈の魔物

「よくもまあ、こんなマニアックなところで、はた迷惑なもんを造ってくれたもんだね」

 若社長と洞窟の中を歩き、あたりをキョロキョロ見回す。
 かなり廃れて雑草や苔が生えているが、壊れた装置や、砕け散った破片が妙に生々しい。

「こっちです」

 若社長はスタスタと研究所を歩くと、地下につながる梯子を指さした。

「この地下でも最近まで人造人間が造られていたんです」
「えっ?」

 わたしはおどろいて、若社長を見た。

「コンピューターが作業をして、生み出された。セルと言う人造人間です。戦闘の達人たちの細胞を集めて合成した生き物でしたが、ふた月前、俺が倒しました」
「あんた、やたらめったらくわしいな」
「事情があるんです。あとでお話するので、まずは地下に降りましょう」

 若社長はわたしをひっつかむと、梯子を使わず、地下へと降りていった。

 地下の底にたどり着くと、若社長は絶句した。
 あったんだろうな。たぶん。その物騒なコンピューターが。
 プラグの穴とか、使えなさそうなコードとか、機械の痕跡はあるけれど、コンピューター事態は跡形もなく消えている。

「誰かが持ち出したって感じか?」
「くそっ!」

 若社長を壁をぶん殴った。まて、亀裂走ってるぞ。ここが崩れたらどうすんだよ。

「だれがこんな恐ろしいものを! また世界をあんな地獄にしたいのか!?」

 わたしは、うつむいて歯噛みする若社長の肩をたたいた。

「落ち着けって。ここで怒ったって、コンピューターは戻ってこねーよ。はい、深呼吸~。吸って~、吐いて~。んで、わたしの話を聞きな」

 深呼吸はしなかったけど、若社長は困惑気味な表情で顔を上げた。

「あくまで憶測だけどな。これで犯人は絞れてくるよ」

 若社長は目を丸くする。わたしは苦笑いした。

「若社長さん、意外に激情家だよなぁ。そんなバカじゃないんだから、落ち着いて、考えてみなよ」

 わたしは指を一本ずつ立てていった。

「まず、こんなコンピューターを持ち去ったって、あつかえる奴がいなきゃ意味ねーだろ? つまり犯人には、知識のある科学者か発明家がいる。
 第二に、装置をつなげ直すんだ、迎える場所にも、それなりの環境がいる・・・・・・。ってことは、それなりに軍資金の出せる存在だ。たとえば、カプセルコーポレーション並の経済力のある会社、とか? このご時世だ。金持ちなんて簡単に割り出せるだろ?」

 わたしはニヤリと笑って、人差し指と親指で丸をつくった。

「カプセルコーポレーションをライバル視してんなら、裏で悪党を雇って、お金を盗みだそうとしても、筋が通るんじゃねーの? そしてあんな雑魚を、寄越してきたってことは、まだ装置を扱えていない。もしくは自分たちに従順な人造人間を作り出せていない」

「ひょっとして、さっきの人造人間はまだ実験段階、とか?」

 わたしは片目を閉じた。

「ご明察」
「・・・・・・ルンルンさん。すごいですね」
「全部を鵜呑みにすんなよ。ただの推理だ。根拠もなにもねぇ」

 若社長はこくんとうなずいた。

「とりあえず、ここはどうする?」
「すべてつぶしましょう。もうこんなことは二度と起きてほしくない」

 若社長は私を地上に運ぶと、「すぐ戻りますので、待っていてください」と言って、研究所に消えた。
 しばらくして、響きまくる破壊音。

「おお、こわ」

 わたしは苦笑いして、空をあおいだ。
 さっきまでいい天気だったのに、黒くて嫌な雲が一面に立ちこめていた。




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