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地脈の魔物

 うっとおしい数の赤い光の弾が、襲ってくる。
 何とかよけれるけど、逃げれねーし、攻めることもできない。

「・・・・・・よく踊る。身軽なものだな」

 大男が関心なさそうにつぶやく。

 わたしは舌打ちをした。踊ってるわけじゃねーての。
 最悪だよ。土煙がたって、どんどん視界が悪くなるし。
 わたしは赤い弾を避けながら、拳銃にありったけの気をこめた。
 一か八か、大男に向けて、引き金を引くと、弾丸が走り、大男の目を貫いた。

 利いた?

 大男は目を押さえて、憎々しげに顔をゆがませる。
 倒れないし、悲鳴すらあげてないところを見ると、やっぱり人間じゃねーな。

 もう一発と思って、ねらいを定めようとしたそのとき、いつの間にか、大男が目と鼻の先にいた。

 ・・・・・・マジかよ。

「調子に乗るなよ。小娘」

 大男は落ち着いた言葉をつむぐと、サッカーボールほどの光をつくり、わたしの腹に押しつけようとする。
 目を閉じなかった自分を、ほめてやりたいくらいだ。
 光を見ながら、逃げるすべを考える。
ダメだ。死ぬは、これ。

 覚悟を決めた、その瞬間。

 大男が横に吹き飛んで、壁に激突した。
 絶壁に巨大な穴ができて、大男はすがたが見えなくなる。

「・・・・・・うそ」

 思わず、心の声がもれた。
 大男をなぐったのは、紫色の髪をした若社長だった。

 おどろきで目を見開いていると、えぐれた穴から、大男が現れる。
 かた目はつぶれているが、それ以外は無傷だった。

 若社長は大男をにらみ、遺体があった場所に視線を移した。表情が怒りにゆがむ。
「・・・・・・きさま、何てことを」
「・・・・・・案ずるな。娘も親のもとへ送ってやる。」
「そんなこと、させるか!」

 若社長は背中にある剣のグリップに手を添え、「はあっ!」と気合いの声を上げた。

 とたんに社長の姿が、ガラリと変わった。
 光がとりまき、髪は紫から金色へ変わる。逆立った髪の下に開く眼光は緑だ。

 、、、、こ、こいつ。

こいつって。

「金色の、戦士」

 私がつぶやいたと同時に、金色の戦士が剣をぬき放ち、大男を上段から下段に斬り落とす。

 刃は大男もろとも、大地まで大きく切り分けた。

 わたしは、落ちてくるつぶてから身を守るために、その場にうずくまると、耳だけを研ぎ澄ませた。

「消えろおおおっ!」と言う金色の戦士の雄叫びとともに、強い光を感じた。

 爆発音のあと、大男の悲鳴がこだまして、こわいくらいの沈黙が流れ始める。

 しばらくして、ザクッ・・・・・・、ザクッ・・・・・・と砂を踏む靴音が響いた。
 私は手元の銃を握りしめ、ゆっくりと顔を上げ、立ち上がった。

 金色の戦士が、いる。

 つり上がった目と眉毛は、若社長のものだ。
 冷たくて、力強い光が、肌や緑色の瞳をあわくくすませている。

 恐怖を飛び越えて、不思議なものを見ている気分だ。
 有害か無害かを考えるより先に、わたしは金色の戦士に近づいた。
 拳銃が滑り落ちる。
 害虫が光りに集る気分って、こんな感じなのか。

 パーソナルスペースの範囲を踏み越え、顔に手を伸ばすと、その頬にふれた。
 ふつうの人肌だ。ちょっと熱いくらいかもしれない。


 金色の戦士は戸惑った様子で私を見ると、やんわりと手をつかみ、はずした。

 ふっと、光が散って、若社長の姿に戻る。
 私は絞り出すように、声を出した。

「そうか。あんたが、金色の戦士。三年前、人造人間を倒した。あの・・・・・・」
「・・・・・・はい」

 短い返事を聞くと、私は目を伏せ、父さんと母さんの元へ歩いて行った。

しゃがみ込んで、黒いシミになった大地をなでる。

「ルンルンさん。すみませんでした。俺の不注意で、おふたりが・・・・・・。あなたを残して行くべきじゃなかった」

「どうして謝るの? ひとりにしてって、頼んだのは、わたしなのに」

 口調が昔に戻りかけている。

 わたしは頭を抱えると、「ちょっと、待って」と社長に頼んだ。
 絶壁まで歩き、両手をつけると、おでこを岩肌に叩きつけた。


「・・・・・・! 何をしているんですか!」

「うっせー。混乱してる頭に刺激入れただけだよ」

 あわてて駆け寄る若社長をつっぱね、前髪をかき上げた。
 鼻筋からあごにかけて、生ぬるいものが伝うが、ただの血だ。無視。

「わたし、けっこうスッキリしてるよ。いっぱいしゃべったし、謝れた。・・・・・・悪人には、十分すぎるご褒美だ」

 私はふっと笑って「それに・・・・・・」と続ける。

「父さんと母さんも、灰になって、飛ばされて、いろんなところを旅した方が、うれしいさ。・・・・・・派手な火葬になっちまったけどな」

「ルンルンさん、、、、」

「さあ。社長にも、いろいろツッコミ入れてぇーところだけど? とりあえず、ドクター・ゲロの研究所が先だな。どうせ着いてなかったんだろ?」

 若社長は口をつぐんだと思ったら、キッと目をつり上げた。

「それより、まず止血です! 女性が顔を傷つけるなんて、俺の母さんが見たら、怒りますよ!」

 若社長は白いケースを取り出すと、ポイポイカプセルを投げて、救急箱を出した。
「あなたって人は」とブツブツ言いながら、白いガーゼをおでこに押しつけてくる。

「わたしの母さんも怒りそうだな」

 わたしはふふっと笑って、白いガーゼが赤く染まるのをながめた。
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