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助けられなかった話

 朝、会長さんのクローゼットの服を拝借して、似たり寄ったりなスタイルに着がえ、装備を整えると、ダイニングに下りた。

「お、うまそう」

 食卓の席をのぞき込むと、昨日と同じ、香ばしく焼けたパンと、朝食にぴったりな料理がならんでいる。

 今日の給仕は、お手伝いロボットがしているらしい。さすが金持ち、ビップだねぇ。

 わたしの腰ほどしかないお手伝いロボットを、指先でつついていると、若社長がやってきた。

「おはようございます。あれから、ゆっくり休めましたか?」
「おかげさまで」

 わたしの視線は若社長の手元に止まった。剣か、これは。

「あんた。剣まで使うのかよ。おっかねぇー」
「え? ああ、はい。何があるかわりませんので、念には念を入れないと」
「ふーん」

 お手伝いロボが追加で
持ってきたパンをほおばって、剣をながめていると、会長が「おっはよー!」と元気ハツラツな声でやってきた。

「ルンルンさん。きのう頼まれた物、できたわよ~!」

 ニッコ、ニッコと力強い笑顔で、小脇に抱えた代物を自慢げに見せてくれた。
 わたしは思わず口笛をふいた。

「さすが天下のカプセルコーポレーション。急だったから、あんまり期待しないで、頼んだんだけど」
「ホーホッホッホッ。これくらいわたしにかかれば、朝飯前よ」

 会長さんは高笑いしながら、飾りっ気のないグリップのついた短剣をふたつ寄越してくれた。

「どう? 長さも重さも、注文通りにしたつもりだけど」
「オッケー。オッケー。最高だよ。会長さん」

 わたしは何度かいろんな角度で、短剣をかまえて、にぎり具合や感覚をたしかめた。

「いつの間にそんなものを・・・・・・」

 今度は若社長がまじまじと、わたしの手にある短剣を見る。

「さっきあんたが言っただろ? 念には念をってな。わたしの相棒は、弾切れになったら、使えねーから」

 腰に下げていた拳銃のひとつを叩くと、剣のホルスターを腰につけ、腰の後ろに短剣を十字に納める。

「剣も扱えるんですか?」
「いや、ぜんぜん」

 にっこり否定すると、若社長が拍子抜けした顔をする。

「女のわたしが、グーで殴るより、気を入れた剣でぶん殴る方が、威力が増じゃん。そんだけだよ」
「は、はあ」

 納得しきれない返事に、わたしは片方の短剣をぬいて、若社長ののど元に突き立てた。

「なんだったら、試し斬りにつき合ってくれてもいーけど?」
「い、いえ。またの機会にします」

 若社長は降参するように両手をあげて、「あはは」と苦笑いした。


*****


 朝食を食べ終わり、ルンルンが席から離れると、トランクスはブルマに呼び止められた。
 ブルマの手元にはポイポイカプセルを収納するための、白いケースがある。

「これ、持って行きなさい。食料と防寒グッズに、念のためいろいろ入っているから」
「ありがとうございます」

 母の用意周到さには、毎回、頭が下がる。トランクスはありがたくケースを受け取って、手元にしまった。

「それとトランクス。あんた、ルンルンさんをちゃんと守ってあげなさいよ」

 いつもの調子で「はい」と返事をしてから、トランクスは、ブルマがいつになく真剣な眼差しをしていることに気がついた。

「母さん、ひょっとして昨日の夜・・・・・・」
「あれだけ、派手にさわいでたら、起きない方がおかしいわよ。いい? あとあと裏切られても騙されても良いから、とにかく守ってあげなさい」

 トランクスはもう一度「はい」と力強く返事をした。



****



 数分後、トランクスはルンルンを抱えて飛び立った。

 出発する直前に、ルンルンから、背中にしがみついた方が、両手が使えて良いんじゃないか? と言う申しを受け、(母の誘導尋問により)彼女の胸が背中にあたるから断ったのがバレた。
 ルンルンにムッツリと賞されたのは、精神的に痛かったが、とりあえず今は、おとなしくトランクスに抱かれている。

 あまりにおとなしくしているものだから、こっそり顔を盗み見ると、おそろしく平和そうに眠っていた。

(よく、この態勢で寝られるな)

 内心あきれてから、本当は寝られなかったのかもしれないと思い返した。
 寝ているのを良いことに、トランクスはルンルンの寝顔をまじまじと見つめる。

(ホントに肌の白い人だな。それに思ったよりずっと軽いし、それに、やっぱり・・・・・・)

 美しい人だ。

 そう思った瞬間、顔が熱くなって、首を振った。

(・・・・・・やっぱり、俺、ムッツリなんだろうか)

 ひとりしょぼくれながら、トランクスは北の都に急いだ。

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