「美波。気付いてるか知らないけど、すんごい顔してるわよ」

出社早々、私の無残なツラを見て、会社の同期が声を掛けた。



私は極力微笑みを作って、ヘラリと笑って見せた。
「・・・・あぁ、ちょっとね・・・。失恋でやけ酒を少々・・」


「はっ!?失恋!!?」

 彼女は私と元カレが8年も続いていたことを、知っていた。



 
 どうやらその衝撃は大きかったようだ。



 チクリと胸に痛みが走る。


「あはは・・・まぁね」


「あははって、あんた大丈夫なの?」


「うん。大丈夫。大丈夫。結構遊びだったし」


自分で言って、自分が悲しくなってくる。


涙が流れないうちに、私は逃げるように、エスカレーターに駈け登った。


だがその時。



「えっ?き、きゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

突然、足下にあるはずの、エスカレーターの階段がなくなった。

 変わりに現れたのはぽっかりと開いた黒い穴。

 私の体は何の抵抗も出来ないまま、その穴に落ちた。


ズッポリと。


「ちょっとぉぉぉぉぉ!!!!ぎゃゃゃゃゃゃ!!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ディズ○ーランドで友達に無理矢理、絶叫系に押し込まれた時に味わったことのある浮遊感。



「た、だすけでぇぇぇーーーー!!!!!!」


黒い空間に、誰に助けを求めているか分からぬ、悲惨な叫びが響く。


そして次の瞬間、私の首に激痛が走った。


体が空中に、ピタリと止まる。


「がはっ!・・・・」


く、苦し・・・・!!!。


誰かが、私の首を締め上げている。
 
苦痛に顔をゆがませながら、薄目を開ける。




 そこにいたのは見たこともない生き物だった。


 爬虫類のようなウロコのある白い皮膚。
 

小さな目にひょろりと長い腕。


 顎までバックリと裂けた口。

 ゾクリと寒気が襲う。
「い・・・・やぁ・・・・」


必死にもがくが、その細い指は私の首をがっちりと掴み、離さない。


「う・・・・・・・・う・・・・」
意識が遠のいていく。
白い腕を掴んでいた手がが力なく落ちる。


私が意識を手放そうとしたその時。




何かをはじき飛ばすような、とてつもない音がした。



同時に私の喉に、空気が流れ込んできた。


 金色の不思議な光が、周りにあふれる。



そして体に人の温かいぬくもりが伝わってくる。


誰かの声が聞こえて、私はゆっくりと瞳を開けた。


金色の光の中に青年が立っている。


金色の髪をなびかせた青年がいる。



たすかった・・・・。


そう安堵して、私の意識は闇に沈んでいった
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