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襲撃

 こわばって動かなくなりそうな手足に鞭を打って、階段を駆け上った。

 今さらながら、体が小さくなったことを実感するわ。

 階段の段数、多すぎ!
 一段一段が高すぎ!

 仕事で外回りも飛び込み営業もこなして、体力には自信があるんだけど、とにかく思うように動かない。

 みるみる息が上がって、足もだるくなる。

『どうしてサイヤ人から離れたんだ、バカモン!』

 姿は見えないけど、スクラルの叱責する声が頭にひびく。

「距離なんて聞いてないし!」

 はあ、はあ、良いながら叫ぶ。

 近くにあの白い肌をした怪物がいる。強い視線に身震いした。

『すさまじい数だぞ。今は次元の道に閉じこめとるが、五分ももたん』

「あの化け物、一匹じゃないの!?」

『だれも一匹とはいっとらんわい!』

「なにそれぇぇぇぇ!」

 わけわかんない!

 生唾を飲み込んで、また階段をかけのぼる。

『どうするつもりじゃ? 』

「知らないよ! 知らないけど。人ごみから離れなきゃあ、関係ない人を大勢巻きこんじゃうでしょ!」

 叫んだ瞬間に、ガクンと視界が高くなる。

 視界に飛び込んだ、自分の手が大きくなっている。
 両手を見て、体を見る。
 チビトラの服が消えて、見慣れない青いワンピースに様変わりしている。

 元にもどった・・・・・・?

「美波ちゃん! どこだ!?」

 おどろいていると下の階から、トランクスの声と、駆け上る靴音が響いた。

 階段の死角から大きな腕が伸び、トランクスが現れる。

 がっつり目が合って、お互いにがっつり固まる。

「この気、は・・・・・・、美波、ちゃん?」

「あ・・・・・・」

 私が口を開こうとしたとたん、トランクスの顔がこわばり、「危ない!」とさけんだ。

 トランクスが階段をひとっ飛びして、私を抱き寄せた。

 わたしが立っていた近くの壁に、大きな爪痕がのこる。
 白い腕が、空中に引っ込んで消えた。

 や、やばくない。これ。

 わたしはトランクスのジャケットにすがりついた。

「レートルマンが! あの白い怪物がいるの! 今は押さえこんでいるけど、次元からたくさん出てくる! ここを離れなきゃ、たくさんの人が巻き添えになっちゃう」

 トランクスは唇を強く結び、うなずいた。

「わかりました。美波ちゃん・・・・・・いえ、美波さんですよね? しつれいします」

 トランクスは私を横抱きにすると、気弾をはなって、壊した壁から、外へ飛んだ。

「南の無人島に行きましょう! 飛ばしますから、しっかりつかまっていてください!」

 もう、絶叫系が苦手とか、言ってられない。無我夢中でトランクスの首に腕をまわして、 景色を見ないように、顔をうずめた。
 恐ろしい風の音と、痛いくらいの風圧が押し寄せてくる。


 しばらくして、風圧がピタリと止まった。おそるおそる顔をおこす。

 トランクスがベジータ級のしわを眉間に刻んでいた。すべてに神経を行きとどろかせているみたい。


 すると背後からすぐにヤムチャとクリリンが飛んできた。ほんの少しの間をおいて、チビトラと悟天くんもやってくる。

「トランクス!」と名前を呼んだあとで、ヤムチャが頬を赤らめて、わたしに食いついてきた。

「ト、ト、トランクス! そこの美しいお嬢さんは、ひょっとして!」
「うそ。あの子と同じ気がする」
 チビトラも目を丸くする。
 こっちの視線も痛い。

「えっ? あ、う。・・・・・・はい。美波です」
「うおおお! 俺の予想通りの美女じゃないか!」

 ずずいと迫るヤムチャに、私はずずいと身を引いて、愛想笑いを浮かべた。
「あの。今はそれどろこじゃあ・・・・・・」
「来ますよ! 気をつけてください!」

 トランクスが身構える。

『呼バレテ、飛ビデテ、ニャニャニャニャーン!』

 どこかで聞いたことのあるフレーズとともに、周囲にレートルマンが現れる。

 その中で妙にふんぞり返っているやつがいる。
 ネコ?かな?
背丈も小さい。
 サイヤ人の戦闘服のような装備をしているけど、手足が細くて、毛並みはバサバサ。
 ぶっちゃけ・・・・・・

「一番、弱そ・・・・・・」
『おい、ソコ! 聞こえてるニャ!』

 うっかり心の声が漏れて、わたしは「あっ」と口を押さえた。
 ずっと神経をとがらせていたトランクスの口元もゆるむ。

 ネコっぽい生き物が、ニャホン! と咳払いする。

『見ツケたぞ、紺碧の気! サア! 残リノ気もぜーんぶ、ぜーんぶ、こっちに寄越すニャ!』
「そう言われても・・・・・・。あの、めんどくさいやりとりは、わかりかねますので、スクラルさんを通していただけませんか?」
「スクラル・・・・・・?」

 トランクスが不思議そうに私をみる。

「えっと、次元の神様です」

 自称だけど。
 ネコっぽい生き物がニャフフンと笑う。

『今も姿をあらワサニャイ。腰ヌケの神ニャンか、シラニャイニャン』
 それはイニャメニャイ・・・・・(否めない)。

「美波さん」

 トランクスがわたしを呼んだ。

「くわしい事情は聞かないつもりでしたが・・・・・・。あとで教えてくれませんか? あなたが何者なのか。こいつらは何なのか」

 責めると言うより、お願いされるような優しい口ぶりに、わたしは息がつまりそうになる。

「小さい俺と悟天くん。彼女を安全な場所に降ろして、一緒にいてくれ」

「えー! 兄ちゃんたちだけずるいよ! 俺も怪物と戦いたい!」
「ぼくも! ぼくも!」

 キャンキャンさわぐふたりに、トランクスは殺気を敵に撒き散らしながら、問答無用でわたしを押しつける。

 温もりが離れて、すっと体が冷える。

「ちぇ。しょうがない。行くぞ! 悟天」
「えー!ずるいよぅ」
 チビトラと悟天くんが両脇から私を支え、草木が生い茂る無人島へ降りていった。
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