平和の事実

ドラゴンボール世界の最初の夜。


私は何度目かの寝返りをうち、小さくため息をついた。

「寝れない・・・」

と言うか寝れるわけないじゃん。


昨日からどれだけ大変な出来事が、起こっただろう。


最愛の人に振られて

時空の歪みに落ち

あの白い怪物・・レートルマンに殺されかけたと思ったら、


緑のおじいさんこと、時空の神スクラルに

自分に『紺碧の気』と言う、想いを具現化する力が、備わっていると言われた。


そして・・・・


私はベッドから半身をおこすと、横の壁にそっと手を添える。


今この壁の向こう側に、トランクスがいる。


うわぁぁぁぁぁっ!!!もう
!!!


私、変態じゃん!!


でも、こんな状況で爆睡できる神経は、さすがにしていないです。


もちろん違う世界に投げ出された不安や、いつレートルマンに見つかるかと言う恐怖もあるけど。


それに勝るこの高揚感は、多分部屋に居るかぎり消えないだろう。


壁にかけてある時計の針に目をやると、もぅ夜の1時を回っている。


・・・ちょっと風にあたってクールダウンしてこようかな・・・。


この部屋にいたら、夜が明けるまで起きてそうだ。


私はベットから起き上がると、外に出るべく部屋を抜け出した。

もちろん、カードキーもちゃんと持ってね。


足音を立てないように、そろそろと廊下を歩いて行く。

廊下は薄ボンヤリとしたライトが備え付けられていて、何となく残業帰りの会社の廊下を思わせる雰囲気が漂っていた。


・・・にしても。


めちゃくちゃ広い家だなぁ。


方向音痴ではないんだけど、近代未来的デザインのこの間取りは、その場で三回ぐらい回れば、簡単に迷ってしまいそうだ。



自動ドアの玄関を通り抜けると、そこには手入れの行き届いた庭・・・いや、庭園が広がっていた。


この世界じゃあ、今は春なのかな?

花壇のチューリップが花びらをしっかりと閉じて眠っている。

月明かりの下の青い芝生。

心地よい水音のする噴水。
ボンヤリとした淡い外灯。
その下に設置された白いテーブルと椅子。

どれもうっとりするほど綺麗だった。

きっとここで日向ぼっこしたり、みんなでバーベキューするんだろうな。


少し羨ましい・・・。


白い椅子によじ登るように座り、私は背もたれに寄りかかった。


「はぁー、涼しい・・・。」


ヒンヤリとした夜風を体に受けると、私の高ぶっていた心が落ち着いていく。

そして急に現実に引き戻ってしまった。



「・・・私のいた世界、どうなってるかなぁ。」

あんな面前の場で、消えていなくなってるんだから、きっとすごい騒ぎになってるだろうな。


家族には連絡が入るのかしら・・・。


心配してくれる・・・・・・・・・・・・・わけないか。


そこまで考えると、私は思わず笑ってしまった。


あの人達のことだ、私が消えてくれたと逆に喜んでるかもしれない。


彼氏にもあんな訳の解らない、振られ方するし・・・。


何だかなぁ・・・。

今の現状も、頭の中も


グチャングチャンだ。



・・・私、これからどうしよう。


椅子の上で膝を抱き、顔を埋めたその時だ。


背後でゴトンと音がして、私はギョット振り返った。
椅子に立ち上がり、体を硬くして頭上を見回す。

レートルマンに襲われたあの感覚が甦ると、私の足は椅子から張りついて動けなくなってしまった。



「・・・美波ちゃん?」


「・・・えっ?」


私の名を呼ぶ声が微かに風を伝って聞こえる。

暗くてよく見えないけど、目を凝らすと、数メートル上の窓から、誰かが顔を覗かせていた。

人影は窓に足をかけ、庭に飛び降りた。


重力に反して、ゆっくりと下降すると、私の目の前に着陸する。


「どうしたのこんな夜更けに」


「ト、トランクスさん・・・びっくりしたぁ」

「こっちもびっくりしたよ」

トランクスは私の隣の椅子の背を掴むと「となり良いかな?」と尋ねた。

「ど、どーぞ」


クールダウンしに来たのに、このままじゃオール決定だな。
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