平和の事実

「それから、美波ちゃん、はいこれ。」

「・・・・・・?何ですか?」

反省していると、ブルマから、一枚のカードを差し出された。


「美波ちゃんの部屋の鍵よ。オートロックが掛かるから、気を付けてね。」



オートロック・・・・。


「・・・ものすごく自信がないですけど」


あれでしょ。

修学旅行で、誰かが必ずやってしまう、
「部屋に入れないー!!やべぇ、どうしよう」
って言う、お約束のドジのことでしょ・・・。

経験者だよ。私は。


絶対、部屋にこのカードキー置いたまま、出ていって、ムンクの叫びを上げることになる。


「・・・あの、そんなハイテク技術いらないので、ドアのロックシステムって無くせないですか?」


「あらダメよ。隣はトランクスの部屋何だから・・・。もしトランクスがまかり間違ったら、大変でしょ?」


・・・・ぶっ!!


「何をですかっ!?」

すかさず、突っ込みを入れるトランクス。


「ふふふ・・・。冗談よ!じょーだん♪赤くなっちゃって、可愛いんだから。トランクス、後で美波ちゃんを案内して上げてね。あんたが昔使ってた部屋の隣よ」


「・・・・・・・~!!」



すごいなぁ。

子供の姿の私を使って、息子をおちょくる母も。

それに純粋に遊ばれる息子も。


多分なかなかいないと思う。

私はこっそり、両手を合わせて、二人を拝んだ。


小さいトランクスが頭に「?」を浮かべて、そんな私を見ていたけど、まぁ、気にしない。


なかなかお目にかかれない、貴重なワンシーンをどうもありがとう。



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「ごめんね。あんな性格の母さんだから」


夕飯を食べ終え、トランクスに部屋を案内されていると、いきなり謝られた。


どうやら、とってもとっても、さっきのことを気にしていたらしい。

「私は全然気にしてないですよ。でも・・・」


私はさっきの貴重なシーンを思い出して思わず、ぷっと吹き出した。


「純粋ですね。トランクスさん」

「ははは・・・そう・・・かな?」


何故か、引きつった笑みを浮かべるトランクス。

「・・・それにしても、美波ちゃんって妙に大人っぽいんだな。歳はいくつ?」


「え、え~とぉ・・・」


今度は私の顔が引きつる番。

しどろもどろになる私に、トランクスは問い詰める様子もなく、黙々と廊下を歩いていった。


うー、気まずい・・・。


結局私は、何も答えず、黙ってトランクスの後をついていった。





「着いたよ。」


そう言ってトランクスが、立ち止まったドアは、いたって他の部屋と変わらない。

ただ、カードキーを通すらしい機械の位置がちゃんと子供の身長に、合わせて設置してある。



へぇー。


トランクスはカードキーを取り出すと、かがんで機械にカードを滑らした。

シュッと小さな音を立ててドアが開く。

ドアをくぐり、部屋を見渡した。


私が最初に寝ていた部屋と同じ、いたってシンプルな構造。

うん、家具やベッドの位置はあまりかわらない。

ただすべてが子供サイズにミニマム化していて、何となく子供向けの、クッションやカーテンが掛かっている。


もとから子供用ゲストルームなんだろうな。

さすがお金持ち・・・。


「はい、これ。」

キョロキョロと周りを見回す私に、トランクスはカードキーを手渡した。

「多分あっちがトイレで、その向こうがシャワールームかな?ベッドの横に電話があるから、解らないことがあったら、内線かけて。」


私は手渡されたカードキーを不安げに見つめる。


「・・・やっぱりロック無くせないですか?」

どこまでもオートロックを嫌う私。

トランクスは困ったように笑った。

「う~ん。まぁ、もし部屋にカード忘れて出たら、俺を呼んで。・・・最悪、こじ開けるから」


「よ、予備のカードキーとかないんですか!?」

「あるとは思うけど・・・。母さん整理整頓が苦手だから。・・・多分、すごく探すことになると思う。そのカードキーもかなり必死で探してたし」


「・・・・」


つまりこのカードを部屋に忘れたら最後、ドアの命は無いに等しいってことか・・・。



と、とりあえずドアに「カードキー!!!!!!!!!!!!」って張り紙を付けておくことにしよう。


ドアの命は絶対守る決意を胸に、私は渡されたカードキーを握り締めた。
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