トランクス、金庫の秘密を教えます!

 冬の夜。
 ルンルンは社長室の壁をなぞり、そっと押した。
 以前見かけた通り、金庫を開くためのタッチパネルがせり上がる。
 ニヤリと口の端をあげ、ルンルンはそれに手をのばした。
 その細い指がパネルにふれるより早く、誰かがルンルンの肩を捕まえた。

「ル、ン、ル、ン、さ、んっ!」

 スーツ姿のトランクスが青筋を立てながら、ルンルンの名前を呼んだ。

「あーあ、見つかっちゃった? 出張からの直帰だと思ったのに、戻ってくるなんてクソまじめだね」

「イタズラがすぎますよっ!」

 眉をつって怒るトランクスが、ふとルンルンの服に視線を移した。

「・・・・・・それ、どうしたんですか?」
「んぁ? ああ、これ? 今日、ウールにゲロ吐かれて、汚れちまったんだよ。最近、ずっと天気悪いだろ? いつもの服が乾いてなくてさ」

 ルンルンはガラス張りの壁から、外の景色をながめた。すっかり冬が近づき、ガラスから冷気がたどって、足元をかすめていく。

 景色を眺めるルンルンの服は、白いニットのワンピースだ。
 体のラインにそう柔らかな生地がいつもより、女性らしい。丈も短く、太股があらわになっている。
 細く色っぽい足を包むのは、薄手の黒いストッキングで、トランクスはあわてて、足から目線をそらした。

「もう風邪が蔓延する季節だからな。ゲロのひとつやふたつ、しかたがねーんだけど・・・・・・。あんたは、しばらく孤児院には、近寄らないほうがいいぞ。移るから」

「そう、ですか。・・・・・・体調の悪い子がいたら、すぐに教えてください。医者を派遣させます」
 
 ルンルンが「サンキュ!」とほほえんだ。

「それだと、ルンルンさんもしばらく忙しいですね」

「たいしたことねーよ。っていうか、いつもより楽だ。この季節は毎年恐怖だからさ」
「恐怖?」

 ルンルンは苦笑いする。

「医者が見てくれるご身分じゃねーからな。チビが高熱を出したり、肺炎になった日ににゃあ、病院に忍び込んで、薬をちょろめかしたり、医者を誘拐したり。看病と悪行三昧だったよ」

 トランクスは思わずルンルンの腰に手を回し、抱き寄せた。

「あなたの話を聞いていると、自分がどれだけ浅はかな平和を考えていたか、思い知らされます」

「あはは。別にあんたをいじめてるわけじゃねーから。トランクスには、感謝してる」

 そういって柔らかくほほえんだ。
 ふたりで甘く見つめ合った後、トランクスはルンルンの肩に触れ、自分から離した。

「・・・・・・で? どうして金庫を開けようとしたんですか?」 
「・・・・・・ちっ。おぼえてたか」
「おぼえてますよ! いい加減にしないと、俺だって怒りますよ!」 

 ルンルンはどうどうと両手をふり、笑った。

「あんたが怒るとおっかねーから嫌だよ。・・・・・・ちょっと気になったことがあってさ」
「なんです?」
「ほら、私が強盗に入った日さ。お金が無かったじゃん? あの金がどこに隠されたか、行方をしりたくなってよ。強盗のプロとして、興味が沸くんだ」

 ルンルンは「うーん」とうなった。

「てっきり自宅に移したのか思ったんだけどさ。あんたの家を探索した時、どこにもなかったんだよな」
「あなたって人は・・・・・・」

 トランクスはあきれて天井を仰いだ。
 ルンルンは「ねえ」と言って、トランクスのスーツの裾を引っ張る。

「教えてくれよ」
「嫌です」

 トランクスは背を向けると、社長イスに腰かけた。
 カバンから書類の束をとり出し、デスクワークをする体制に入る。

「いいじゃん。別に盗むわけでもなし」
 
「正直に頼んだら、教えたかもしれませんが、金庫を無断で見る人に、教えません。・・・・・・ちなみにその金庫、暗証番号が変わってますから、開きませんよ」

 ルンルンは盛大に舌打ちをして「堅物!」と悪態をついた
 トランクスは仕事モードに突入して、「なんとでも言ってください」とそっけない返事をする。

 ルンルンは憎らしげに刈上がった首筋を眺めると、ニヤリと笑った。

 その場でブーツを脱いで、襟元をひっぱり肩を露わにする。
 そして書類とトランクスの間に、足を差し入れた。

「うわっ! ちょっと!」

 あわてふためくトランクスを無視して、身を乗り上げ、トランクスのひざに腰かける。
 
 肘かけに足をのばし、腕をトランクスの首にからめると、その唇を耳に寄せた。

「ねえ、トランクス、怒らないで。 もう、おイタしないから。もし私が悪い子になったら、お仕置きしていーよ。だから、ね? 教えて」

 息を多くふくませ、言葉をつくり、甘くささやく。
耳に唇を落とすと、ルンルンはトランクスの首筋に吸いつき、這い、かたい唇を舐めあげた。

 足を上げ、向かいあわせになると、豊満な胸をトランクスの胸板の押しつけ、妖艶にほほえむ。

 トランクスは顔を真っ赤にしながら、「・・・・・・ぐっ!」とこらえるような声を漏らした。

「ルンルンさん・・・・・・」
「なに?」
「それ、他の人にはしないでくださいよ」
「もちろん。トランクスだから、してるの」

トランクスは身震いした。
「、、、、あーもう!」

ルンルンを抱っこしたまま立ち上がり、壁を押して、タッチパネルを出す。

 トランクスが「見ないでください」と言うと、ルンルンは素直に、目をふせた。

 操作音が響いて、金庫の扉がひらく。金庫の中には目を見張るほどの札束がならべられていた。
 
 トランクスは札束に背中を向けると、「あれです」と言って、入り口の上の部分を見上げる。

「あれに、金を入れておいたんですよ」
 トランクスの視線を追うと、ホイポイカプセルが入り口の桟に貼り付けてある。
 しかも張り方が・・・・・・ざつ。セロハンテープ。適当。
 ルンルンの顔がひきつった。

「・・・・・・ひょっとして、私、こんなばればれの手段を見落としていたのか?」
「・・・・・・」

 トランクスはルンルンの横顔を見た。
 
 ショックを受けた表情が、みるみると覇気をなくし、トランクスの身体にへたりこんだ。

「うわあ・・・・・・、自信なくした。わたし、もう二度と強盗はしない・・・・・」
「賢明です」

 トランクスはクスリと笑い、露わになったルンルンの肩を元に戻した。
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