ルンルン、笑いを運びます!

 秋晴れの日曜日。トランクスは西の都のはずれある荒野で修行をしていた。
 この荒れ野は、悟飯と一緒に修行をしていた定番の場所だった。

 独りになった今も、休みの日は、組手の相手がわりに、大岩を砕くのが日課だ。

 気を高め、見えない敵に拳を叩き込み、蹴りを入れていくと、「トランクス!」と張りのある女性の声がひびいた。

 艶やかな黒髪をなびかせて、美しい女性がこちらにやってくる。

「ルンルンさん!」

 トランクスは、よろこび半分、おどろき半分の心持ちで彼女の名前を呼んだ。

「わりぃ。集中してた?」
「いえ、ちょうど休憩しようと思っていたところです」

 ルンルンはニコニコと、めずらしく素直な笑顔を見せていた。

「なあ、トランクス。あんた身長いくつ?」
「背ですか? たぶん170くらいだと思います」
「ふーん。じゃあさ。ちょっと手を上げてみろよ」
「えっ?」
「いいから、拳銃突きつけられた感じで、ほれ、ばんざーい」

 ルンルンが人差し指と親指を立てて、トランクスの右胸を小突く。
 トランクスはわけもわからぬまま手を上げた。

「ちょうど上着を脱いでくれて、助かったわ」と言いながら、ルンルンはどこからかメジャーを取り出し、ビッとのばした。

 トランクスに目盛りのついたテープを回し、胸囲をはかりだす。

「あの・・・・・・、これは一体なんなんでしょう?」

 ルンルンは数字を見て、ふんふんとうなずきながら、テープをウエストのくびれの部分へ移動させる。

「いやほらさ。今度会社で懇親会あるじゃん?」
「ええ、ありますね」
「その時、ボーリング大会をするらしいんだけど、ブービー賞の景品を用意しろって、幹事のイラータさんに頼まれてんの」

 説明とともに、メジャーはおしりのラインへ移動した。ルンルンの顔が自分の下半身に近づいて、トランクスは居心地が悪くなる。

「あの、それとどういう関係が?」

ルンルンは「よしっ!」と言って、テープを本体へ納めた。
 すばらしい笑顔を見せる。

「ブービー賞は、若社長のスリーサイズ情報な」
「!!」

 トランクスが目をひんむいた。
「じゃあな!」と手を上げて、去ろうとするルンルンを、トランクスが捕まえる。

「ちょ、ちょっと待ってください! なんですかそれは!」
「だからブービー賞の景品」
「俺の体のサイズを景品にしてどうするんです!」
「女は絶対に喜ぶぞ! 男だったら、しらけた笑いがとれる!」
「い、いやいやいや!」

 トランクスはルンルンの両肩に手をそえると、顔を寄せた。

「ルンルンさん、俺たちつきあってますよね?」
「まあ、ほかの野郎とキスをするなって言われし、わたしもあんたのものだって言ったな」
「恋人を景品にするってどうなんですか? 俺がもし、その・・・・・・」

 トランクスはちょっと言葉を詰まらせ、声を落とした。

「ルンルンさんの体のサイズを景品にされたら、嫌でしょう?」

 ルンルンは瞳をまたたいたあと、両手をトランクスのほおにそえ、色っぽくキスをした。

「愛より、笑いの勝ちだ!」

 ルンルンはトランクスの腕を振り払うと、逃げ出した。
すばやい動きでその場を離れ、エアバイクにまたがる。

「ちょっと!」

「トランクス! わたしにも今度、稽古つけてくれよ! じゃあな!」
 
 と大声を出して、逃亡していく。

 自分に膨大な気があふれていても、追いかける気力が、、、ない。

 トランクスは地面に尻をつけ、ため息をひとつついた。

 この修行場もまたにぎやかになりつつある。

1/1ページ
スキ