騒動

内心、両手を挙げて参照万歳したい気分だ。

にやにやしないように気をつけながら、拳銃を頭に突きたてられ、ブルマ会長さんとトランクス社長の誘導について行く。

オッケー。オッケー。
私ってば、ついてれよなぁ。

何がついてるかって、強盗犯が、監視カメラや防犯センサーを根こそぎ、破壊していることだ。

しかもその道のりは、金庫への道のり。

私がしなければならなかった一手間を、全部こいつらがやってくれている。


ホント、いいタイミングで強盗してくれたよ、こいつら。

「おい。何を笑ってやがる」

おっと、、、。

私の腕をひねって歩く大男が、銃口で私の頭を小突いた。

「悪いねぇ。私はもともとこう言う顔なんだよ」

にっと笑ってみせると、トランクス若社長とブルマ会長にライフルを突き立てていた男が、私を横目に見て、横やりを入れる。

「くそ。気持ち悪い女だ」

「その格好にされたうえに、銃口向けられて、よく余裕な面できるな」

子分三人がウンウンとうなずく。

純粋に呆れてますーって口調の大男の顔を、上目使いに仰ぎ見る。


自由な片手で、肩紐を引っ張って、パチンと離してみせる。

「だってこれ、水着だもん」

「、、、、、はっ?」

「仕事帰りに海に行こうと思ったんだけどなぁ。うきわもって、母なる海にざぶーんっとね。あーあ。、、、これじゃあ、アフターファイブはないな」

「、、、ボス。人質これで良いんですかい?」

不安気な子分に、大男は舌打ちする。

「うるせぇ!お前らさっさと、監視カメラを壊さねーか!一つでも見落としたら、許さねーぞ」

「へ、へい!」

うんうん。そうだぞ。

私のために多いにがんばってくれたまえ。




しばらくして、たどりついた場所。そこは、、、

「社長室?」

ポロリと私が言葉をこぼす。

黒いデスクのテーブルに黒い肘掛け椅子。

飾りっ気がなく、いたってシンプルな社長室だ。
まぁ、色男に似合う部屋の定番って言ったら、そうか。

トランクス社長はクルリとこちらに向きなった。

「金庫はここだ」

言って、壁を押す。

すると壁の一部がスライドして、タッチパネルがせり上がってきた。

「へぇー、ハイテク」

また、言葉がもれると、今度は腕を締め上げられた。

「お前は、いちいちしゃべるな!」

「いってて。仕方がねーだろ。女ってのは、口から先に生まれてくるもんなの!わかれ。それぐらい」

大男は私としゃべることをらあきらめ、トランクス社長を睨んだ。

「おいっ!!早くそこを開けろっ!!ただし、余計な真似はする、な、、、、」

大男がセリフの途中で、尻つぼみになる。

トランクス社長が、そりゃあ恐ろしい目つきで大男を睨んでいたからだ。

、、、すごい迫力。
こりゃあ、たしかにびびるわ。

トランクス社長は無言でタッチパネルを操作した。

機械音と共に、扉が開く。


「うっわ。すご」

金庫の中におびただしい数の札束。

、、、これ盗み出したら、多分ウハウハだわ。

「すっげぇー」

子分が感嘆の声を上げる。

「これがあれば、、、」

まぁー。復興もまだ完全じゃない世界だ。遊べはしないだろうが、楽に生きてはいけるだろうな。


すばらしくズボラな人生をおくれる紙の山に、私の頭に添えられた銃口が、少し離れた。


こいつらの役目もここまでだな。


私はわざとらしく息を吸い込んだ。

「あー!!忘れてた」

全員に聞こえる大きな声を出すと、
金庫にいる強盗犯たちの肩が、ビクリと跳ね上がる。

社長と会長さんも何事かと言わんばかりに、こちらに注目した。


「そういえば、この回答、まだだったよ、、、なんで私が銃口向けられても、笑ってられるのか」

子分達に視線をはわせ、大男を仰ぎ見た。

「、、、つまりさ。銃なんてもんは、私にきかねーん、、、だよっ!!」

ひねり上げられていた腕に力を入れて、拘束から抜け出すと、私はライフルをもった男の指に蹴りを入れた。

ライフルが飛び上がり落ちる。

間髪いれず、その顔面を殴り、回し蹴りを打ち込むと、大男は後ろに吹っ飛び、黒いデスクの上にのった書類をバラまいて、机の上でダウンした。


後はザコのみ。
社長と会長さんしかいねぇーし、流れ弾の被害は最小限。

仮に二人に当たって死んでくれれば、好都合なんだけどなー。

危ない考えをチラッと候補に出した後、踵を返し、拳を構えた。


ん。

あ、れ?

何で子分さん床を舐めてらっしゃるの?

のびているザコ三人の横にいるブルマ会長が、美しい笑みを浮かべて、私にVサインをおくっている。

目を瞬かせると、私の肩にフワリと何かがかけられた。

「だいじょうぶですか!?」

トランクス社長が自分の背広を、脱いで私をそれでくるんでいる。

「お、おう。、、、どうも」

いや、そうじゃなくて。

「これあんたがやったの?いつの間に」

トランクス社長が「えっ?」て顔をした後、ちょっと照れたような顔をした。

「あ、はい。あなたがあの男を倒してくれたおかげで、彼らがほうけて、油断してましたので」

それでライフルかまえた強盗三人を秒殺か?


、、、この若社長、そうとうできるぞ。


「ねぇねぇねぇねぇ!あんた、強いのね!びくっくりしたわー!名前は何で言うの?」

「どわっ!」

突然、ブルマ会長さんが割りこんできた。

目ぇ、でか。おまけにパワフルだし、若々しい。
たしか社長の母親だよな。
ホントにこんなでかい息子の母親かよ。

「なぁに?匿名希望?」

「い、いや。会長さんの勢いに押されてただけ、、、名前はルンルンです」

「あら、意外。ずいぶん可愛い名前してるのね」

「は、ははは。よく言われますー」

「か、母さん。失礼ですよ」

「、、、つまりそれは、私に可愛い名前は一切似合わないってこと?」


「え"っ?い、いえ、そういう意味ではなくて」

ひとりオロオロしだす、イケメン。

「あんたの方が失礼じゃない」

と口をとがらす、お母ちゃん。

、、、、。

、、、、。

、、、、やべぇ、こいつらムダにおもしろいぞ。



「てめぇら、くっちゃべってんじゃねー!!」

緩みかけた空気に、悪役らしい怒鳴り声が響いた。

見ると、社長室の扉の方で、ライフルを持った男が立っている。

さっき、弾をすっておいた男だ。

「てめーら全員動くな!この女がどうなってもいいのか!?」

「ル、ルンルンさぁん」

男が人質にとっていたのは、イラータだった。

殴られたのか、右目がかわいそうなぐらい腫れてる。


「この女の命がほしかったら、金を、、、ひっ!」


強盗の強気な口調が途中で縮み上がった。
忠告を無視してトランクス社長と私が左右から距離をつめ、男の顔に強烈なパンチと蹴りを繰り出したからだ。

私の飛び蹴りと、トランクス社長のパンチが決まると、男の顔がゆがみ、えぐれる。

頬だけで衝撃が止められず、強盗の身体はこまの様に空中にまった。

完全なるノックアウトだ。


「お前のライフルは弾切れだっつーの」

男に舌を出すと、床にへたりこんでしまったイラータに走り寄った。

「もー、あんた何やってるんだよ。談話室から出たの?」

「う~、、、」

腫れ上がった目を隠して、イラータはそのままポロポロ泣きだしてしまった。

「だいじょうぶですか?」

私の後に続いて、トランクス社長もイラータの前にしゃがみ、顔を覗きこんだ。

とたんにイラータは逃げるように、私の胸に顔をふせた。

「あー、、、わかった。おい、社長。あんまりのぞきこんでやるなよ。目を腫らした姿を、野郎に見られたくないんだって」

「あ、、、すいません。気づかなくて」

私はトランクス社長の背広を脱ぐと、イラータの頭からかぶせてやった。

「とりあえず、私はこの子を医務室に連れて行くよ。おたくらこいつら、何とかしなきゃいけないだろ」

社長室のそこら中で伸びている強盗犯を一瞥する。

トランクス若社長は、コクリとうなずいた。

「お願いします。5階の医務室を使ってください。俺が昔、お世話になってた医師が、その部屋を担当しています。腕はたしかですよ」

「了解」

イラータの両肩を抱えて、立ち上がる。

「あ、、、」

「、、、?どうしました?」

首をかしげるトランクス社長に、私はニッと笑いかけると、片手を上にかかげた。

「ナーイス、パンチ」

トランクス社長はちょっと目を丸くした後、何ともさわやかな笑顔で片手をかかげた。

「あなたも」

パチンと片手だけのハイタッチをして、私は社長室を後にした。
4/4ページ
スキ