新しい生き方

 ブルマ会長の背中。縮こまったイラータの背中。
 その他もろもろの、たくさんの背中を眺めていると、笑いがこみ上げてきた。

 まさか、なぁ。人殺しのわたしが、人の盾になるなんて、思いもしなかった。

 人造人間を見上げると、手のひらを天にかざし、バカでっかいエネルギー弾をつくっていた。
 太陽かよ。一度にサクッと殺るつもりか。
 
 どうしようかなぁ。

 目をつぶり、気持ちを鎮める。
 建物の方から複数の爆発音がこだまする。まだ、若社長は戦っているんだ。



 ・・・・・・ねえ、母さん。
 若社長がさ、わたしに遺伝的な才能があるって言っていたけど、母さんは一体どれくらいすごかったの?

 どれくらい戦えるの? どれだけの強さがあるの?

 さっぱりわかんないけど、すごかったんなら、力を貸してよ。

 悪いことしようってわけじゃないんだ。

 わたしの背中にある命を助ける力を貸してよ。

 クソまじめな男と肩をならべてさ、歩いていけるだけの力を貸してよ。

 

 たのむよ・・・・・・。


 ・・・・・・くそ。テンパりすぎて、気が鎮まらねぇ。
 せいて、眉を寄せたその時だった。

 誰かがわたしの顔にふれて、何かをはずす仕草をした。

 おどろいて目を見開くと、わたしとそっくりの女が立っていた。となりには寄り添うように、若い男がいる。
 
 年齢も同じくらい。ふたりとも髪を短く切って、優しげなまなざしをしている。
 女の手にあるのは、会社のフロントにおいてきた、わたしの眼鏡だった。

「・・・・・・父さん、母、さん? 」

 そうつぶやいたとたん。自分からありえないくらいの気があふれだす。

 めちゃくちゃあったかくて、気持ちいい。
 若社長に抱きしめてもらった時の感覚に似ている。

 そう思っていると、ふたりが溶けるように消えて、またべつの男が立っていた。

 
 黒髪で、背が高い。オレンジの派手な服を着て・・・・・・、片腕がない。

 男は姿勢をただし、深々と頭を下げた。堂々とした風格で歩み寄ってくる。

『俺に手伝わせてください』

 そういって、拳銃をかまえた手にふれた。

 すると自分の体からあふれる気に、圧倒されるほどすさまじい気がまじって溶けて一つになる。

『きますよ! 撃って!』

 片腕の男が叫んで我に返る。

 人造人間のバカでっかいエネルギー弾が迫ってきている。
 
 わたしはあふれる気を練り上げ、ほうこうと共に、気弾を放った。

 するどい気弾が螺旋を描いて進み、巨大なエネルギー弾にぶつかる。

 とたんに体に重たい圧力がかかって、「ぐっ・・・・・・!」と声がもれる。ふたつのエネルギーの輝きに目がくらむ。

 人造人間のエネルギー弾を止めるくらいの力はある。でも、押し返せない。互角だ。
 
 いや、こっちが体力負けする。

 しんどさに腕が落ちそうになったその時、男が言った。

『もうだいじょうぶ。勝てます』

 すると「ルンルンさんっ!」と声がして、金色の戦士になった若社長が隣によりそった。

 若社長は謎のポーズをとってから「はああああ!」と叫んで、今まで見たことのない色合いの気弾を放った。
 人造人間のエネルギー弾に激突する。

 とたんに体の圧力がなくなる。
 若社長の力がくわわると、巨大なエネルギー弾はあっと言う間に押し返され、人造人間自身を飲みこみ、薄れて散っていった。

 

 倒せたの? だめだったの?

 さっぱりわかんねーけど、もう、限界・・・・・・。
 足の感覚がなくなり、バラバラになる感覚に襲われ、地面に倒れこんだ。。

 激突する直前で、体が抱き止められる。

「ルンルンさん? ルンルンさん! しっかりしてください」

「・・・・・・無理。もうしっかりできねーよ」

 減らず口を叩くと、若社長が心底ほっとした表情をする。
 
「よかった、ほんとに・・・・・・」

 重たいまぶたをどうにかこじ開けて、若社長を見た。
 逆立った金の髪に、黄緑色の瞳。
 その肌には土埃やら、細かい傷跡がたくさんついている。
 よく見れば、ジャケットは脱ぎ払われて、タンクトップもボロボロだ。

 若社長の姿に、目頭が熱くなって、涙が伝う。

「あんなところに、あんた残して、カギをかけるなんて、気分悪い。 もう、ごめんだよ」

「すみません」
 若社長は手の腹でわたしの涙をぬぐった。
 
「・・・・・・人造人間は?」

「だいじょうぶ。すべて破壊しました。・・・・・・ただあの母親の人造人間だけ異様に強くて。すみません。こわかったでしょう?」
「母ちゃんってさ。どのお宅さんも強いし、おっかねーんだよ。・・・・・・だろ?」

 ほほ笑むと、若社長も優しい笑みを返してくれた。

「ねえ、ちょっとさ、わたし、マジで限界だから、このまま眠っていい? 死ぬことはないから」

 若社長はわたしの顔にかかった髪を払いながら、うなずいた。

「あとのことはまかせて、ゆっくり休んでください」
「うん・・・・・・」

 わたしは若社長の胸に頭を寄せ、そのまま意識を手放した。
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