魔物を作る女

 イラータはくちびるをかみしめると、両手で頭を抱えて、うずくまった。

 小さな背中が小刻みにふるえている。わたしはその背中にそっと手をそえた。

「さしずめ、今までやってきたことはなんだったの? ってところか・・・・・・。しんどいな、それ」

 嗚咽にまじって、さみしいと、言葉がつむがれた。
 わたしはイラータの肩を抱く。

「・・・・・・なあ、こっちにきなよ。他人でもさ。案外あったかいもんだよ」

 縮こまった背中を軽く叩くと、イラータがわたしにだきついてきた。
 胸の中ですすり泣きが聞こえる。

「よーしよし。しょうがない。今回だけは、自慢のHカップを貸してやろう。わりぃな若社長。あんたはイラータさんの次だ」

「へっ? ・・・・・・い、いや。あの」

 若社長が真っ赤な顔をして、うつむいてしまった。『いらない』と言わないあたりが、むっつりだけど、まあ、いいか。

 わたしはイラータを抱きしめながら、笑う。

「この一件が片づいたら、とりあえず若社長の家に集合だな。酒を飲みながら、不幸自慢大会なんてどう? 嘆くだけ嘆いて、若社長に慰めてもらうの」

 イラータが鼻をすすり、涙ぐんだ声で笑った。

「それすごく迷惑ですよ・・・・・・」
「だいじょうぶだって。若社長は正義の味方だから。ちゃんと名前もあるんだぞ。その名もグレート・・・・・・」

「今ここで出しますか? この空気で出すんですか!? やめてください!」

 イラータの代わりに頭を抱え出す若社長が、ふっと真顔になって、あたりをにらんだ。

 右手が剣のグリッドを握りしめている。
 
 若社長につられて、わたしもあたりを見回し、固まった。
 薬漬けにされている人造人間たちが、目を開いて、こちらを見ている。

 振り返ると、イラータの造った両親の人造人間も熱い視線を送っていた。

 部屋の向こうから、ピシッ、パキッ、パリンとガラスの割れる音が響き出す。
目の前にいる人造人間が、ガラスを突き破って、床に飛び降りた。

『・・・・・・サイヤ人は・・・・・・死ね』

 それを合図に人造人間がガラスを突き破って、次々と死ね死ねコールをはじめる。

「これ、だいぶ、やばくねーか?」
 イラータの腰に手を回して、立ち上がる。イラータも愕然としていた。

 やがて両親の人造人間もガラスを突き破って、無表情につぶやいた。

「死ね・・・・・・」

 若社長が剣をぬき放って、「ルンルンさん!」と叫ぶ。

「これ以上増える前に、この部屋をでて、鍵をかけてください。俺がくい止めます」
「はあ!? 」
 
 怒鳴るわたしに、若社長が不敵な笑みを浮かべる。

「俺がどれだけ強いか知ってるでしょう? ルンルンさんは建物にいるみなさんの避難をお願いします! 安全になったら気を高めて教えてください。このままじゃあ、本気が出せません!」

 わたしは歯を食いしばった。

「死ぬなよ! 絶対!」

「はい!」

 若社長は一番近くにいた人造人間に切りかかった。

 それと同時にわたしはイラータを引っ張り、ガラスが割れる音のひびく部屋を、突っ走った。
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