魔物を作る女
マーチコーポレーションの地下研究室には、ラシテルで聞いたうわさ通り、おびただしい数の人造人間が、薬品につけられて、ずらりと並べられていた。
顔も背格好も、崖の底で襲ってきた人造人間にそっくりだ。
みんな堅く目を閉じ、唇を真一文字にむすんで、、、百体は余裕であるな。
おどろおどろしい雰囲気の研究室を、足音を忍ばせて歩いて行くと、ドクターゲロの、はた迷惑な相続品があらわれた。
仰ぐように装置を拝み、わたしは装置の下にいる白衣を着た女に目をこらした。
ふわりとした髪をひっつめ、一心不乱にタッチパネルを操作している女の真横には、特別感満載の男女の人造人間が、薬につけられ、目を閉じていた。
わたしは眉をつると、スタスタと女に近づき、女の顔をのぞき込んだ。
「こんな遠方でダブルワークなんて、仕事熱心だね。・・・・・・イラータさん」
突然、視界にあらわれた私に、女が「きゃっ!」と悲鳴をあげて、後ずさった。
わたしの顔を見て、拳銃と短剣に視線を落とし、もう一度わたしを見る。
「・・・・・・ル、ルンルン、さん?」
「なあに?」
「ど、どうして、ここに・・・・・・?」
「社長命令で出張でーす」
私はニッと笑ってから、口の片端をあげた。
「他社の技術を盗み出したり、人造人間を作っておイタしている、お嬢さんをこらしめにな」
イラータの顔が恐怖でゆがんだ。言い逃れのセリフもなにも吐かず、走って逃げようとする。
その行く手を、身をひそめていた若社長がさえぎった。
イラータが、「・・・・・・しゃ・・・・・・長・・・・・・」と声にならい声を出して、その場に座りこむ。
「、、、、安心したよ。もっと裏表のあるおっかねー女かと思ったら、そうでもなさそうだ」
わたしは靴音を響かせてイラータに寄ると、となりに腰を下ろした。
白衣のすそを引っぱってイラータを抱き寄せると、頭をポンポンと叩いた。
「ったく、あんたなにバカやってんの? こんなダッサイ白衣着て。くそ似合わねー」
若社長もかたひざを立てて、イラータの前に腰をかがめる。
「何か訳があるんですよね? お願いします。話してくれませんか?」
イラータが上目づかいに若社長を見上げ、うつむいた。陰になった顔には弱々しい笑みが浮かんでる。
「お話しするほど、こみいった理由はありません。亡くなった両親に、造ってでも会いたかった。それだけです」
わたしはイラータの頭を撫でながら、部屋を制圧するおびただしい数の人造人間たちを見回した。
「それでこれだけの量を造りまくったわけか。・・・・・・見かけによらず、いい根性だし、あんたすっげー科学者だったんだな」
「もともと両親がふたりとも科学者で、わたしも小さい頃から勉強していたの。親から学んだ技術があれば、もう一度、ふたりを生き返らせることができるって。7歳の時に、ワンツ社長に勧誘されて、それからずっと造ってた。うまく人造人間を造れるようになったのは、ドクターゲロの装置を盗んでからだけど」
若社長が「あいつ・・・・・・」と言って、眉根を寄せた。
わたしは腰をひねって、装置の横にいる男女の人造人間に目をやった。
「あれが、あんたの親?」
「うん」
「美男美女じゃん」
「うん」
「もうひとつ聞いていい?」
イラータが疲れ切った顔で私を見つめる。
「若社長に命を助けてもらったっていう話しは、うそなの?」
とたんにイラータは泣きだしそうな顔をして
「ちがうっ!」と叫んだ。
胸の前で両手を強く握りしめて、すがるように若社長を見る。
「ホントです! だから、お礼を言えてうれしかったの! また会えてうれしかった! ルンルンさんにも感謝してる!」
若社長は落ち着かせるように、イラータの肩に大きな手をのせて、ほほ笑んだ。
「ちゃんと伝わってます。ホームパーティーをした日、終わってからも、あなたは何度も『ありがとう』と言ってくれたんですよ。ルンルンさんの名前も呼んでいました」
イラータが瞳孔をふるわせ、うつむいた。
「・・・・・・まさか、、、、カプセルコーポレーションの技術を盗むはめになるなんて」
若社長が「イラータさん」と名前を呼んだ。
「盗むのはやめて、開発者として、俺の会社で働いてくれませんか? 有能な科学者が増えれば、母さんもきっと喜びます」
突然話を振られて、ポカンとするイラータ。若社長は笑みを崩さす、わたしに視線をうつした。
「すべてが終わってから、お話しようと思ったんですが、この事件を公に発表して、マーチコーポレーションを吸収合併しようと考えているんです。この会社の無駄をそぎ落とせば、かなりの資金があまると思います。・・・・・・それで、孤児院と、今まで勉強をすることのできなかった方々の学校を開きたい」
今度はわたしがポカンとする番だった。
そんな大がかりなこと、マジで考えてたのかよ。
たぶんイラータと同じような顔をしてたんだと思う。若社長がのどをならして笑った。
「と言っても、まだ広場に飲み水や電気を通して、机や教科書を用意するくらいしかできないかもしれません。勉強も当面は空を見ながらになると思います」
若社長が「だから稼がなきゃいけない」とつぶやいた。
「その為にもぜひイラータさんには、俺の会社に来ていただきたいんです」
わたしはこっそり息を吐くと、イラータの肩を抱いた。
「それにな。ここの人造人間は、全部ぶっこわしちまった方がいい。あんたが造った両親も。・・・・・・さもないと、もっと後悔するよ」
わたしは息つぎをして、ゆっくりと話しかける。
「おまえの造った人造人間でさ。一体、消息経ったやついない?」
イラータがおどろいて、こっくりとうなずいた。
「ワンツ社長が勝手に動かしちゃって、今、必死に探してるの」
「・・・・・・そいつわたしと若社長を襲ったんだよ。・・・・・・若社長の仲間は死ねってな」
「もともとその装置は『孫 悟空』さんという人物を殺すために造られたものです。・・・・・・おそらくですが、イラータさんが人造人間を造っている間に、目的がすり替わったんじゃないでしょうか?・・・・・・悟空さんと俺は似通った血が流れていますので」
「そんな・・・・・・」
「あんたが造った大好きな親が、あんたの大好きなトランクス社長を殺す、なんてシチュエーション笑えねーだろ」
顔も背格好も、崖の底で襲ってきた人造人間にそっくりだ。
みんな堅く目を閉じ、唇を真一文字にむすんで、、、百体は余裕であるな。
おどろおどろしい雰囲気の研究室を、足音を忍ばせて歩いて行くと、ドクターゲロの、はた迷惑な相続品があらわれた。
仰ぐように装置を拝み、わたしは装置の下にいる白衣を着た女に目をこらした。
ふわりとした髪をひっつめ、一心不乱にタッチパネルを操作している女の真横には、特別感満載の男女の人造人間が、薬につけられ、目を閉じていた。
わたしは眉をつると、スタスタと女に近づき、女の顔をのぞき込んだ。
「こんな遠方でダブルワークなんて、仕事熱心だね。・・・・・・イラータさん」
突然、視界にあらわれた私に、女が「きゃっ!」と悲鳴をあげて、後ずさった。
わたしの顔を見て、拳銃と短剣に視線を落とし、もう一度わたしを見る。
「・・・・・・ル、ルンルン、さん?」
「なあに?」
「ど、どうして、ここに・・・・・・?」
「社長命令で出張でーす」
私はニッと笑ってから、口の片端をあげた。
「他社の技術を盗み出したり、人造人間を作っておイタしている、お嬢さんをこらしめにな」
イラータの顔が恐怖でゆがんだ。言い逃れのセリフもなにも吐かず、走って逃げようとする。
その行く手を、身をひそめていた若社長がさえぎった。
イラータが、「・・・・・・しゃ・・・・・・長・・・・・・」と声にならい声を出して、その場に座りこむ。
「、、、、安心したよ。もっと裏表のあるおっかねー女かと思ったら、そうでもなさそうだ」
わたしは靴音を響かせてイラータに寄ると、となりに腰を下ろした。
白衣のすそを引っぱってイラータを抱き寄せると、頭をポンポンと叩いた。
「ったく、あんたなにバカやってんの? こんなダッサイ白衣着て。くそ似合わねー」
若社長もかたひざを立てて、イラータの前に腰をかがめる。
「何か訳があるんですよね? お願いします。話してくれませんか?」
イラータが上目づかいに若社長を見上げ、うつむいた。陰になった顔には弱々しい笑みが浮かんでる。
「お話しするほど、こみいった理由はありません。亡くなった両親に、造ってでも会いたかった。それだけです」
わたしはイラータの頭を撫でながら、部屋を制圧するおびただしい数の人造人間たちを見回した。
「それでこれだけの量を造りまくったわけか。・・・・・・見かけによらず、いい根性だし、あんたすっげー科学者だったんだな」
「もともと両親がふたりとも科学者で、わたしも小さい頃から勉強していたの。親から学んだ技術があれば、もう一度、ふたりを生き返らせることができるって。7歳の時に、ワンツ社長に勧誘されて、それからずっと造ってた。うまく人造人間を造れるようになったのは、ドクターゲロの装置を盗んでからだけど」
若社長が「あいつ・・・・・・」と言って、眉根を寄せた。
わたしは腰をひねって、装置の横にいる男女の人造人間に目をやった。
「あれが、あんたの親?」
「うん」
「美男美女じゃん」
「うん」
「もうひとつ聞いていい?」
イラータが疲れ切った顔で私を見つめる。
「若社長に命を助けてもらったっていう話しは、うそなの?」
とたんにイラータは泣きだしそうな顔をして
「ちがうっ!」と叫んだ。
胸の前で両手を強く握りしめて、すがるように若社長を見る。
「ホントです! だから、お礼を言えてうれしかったの! また会えてうれしかった! ルンルンさんにも感謝してる!」
若社長は落ち着かせるように、イラータの肩に大きな手をのせて、ほほ笑んだ。
「ちゃんと伝わってます。ホームパーティーをした日、終わってからも、あなたは何度も『ありがとう』と言ってくれたんですよ。ルンルンさんの名前も呼んでいました」
イラータが瞳孔をふるわせ、うつむいた。
「・・・・・・まさか、、、、カプセルコーポレーションの技術を盗むはめになるなんて」
若社長が「イラータさん」と名前を呼んだ。
「盗むのはやめて、開発者として、俺の会社で働いてくれませんか? 有能な科学者が増えれば、母さんもきっと喜びます」
突然話を振られて、ポカンとするイラータ。若社長は笑みを崩さす、わたしに視線をうつした。
「すべてが終わってから、お話しようと思ったんですが、この事件を公に発表して、マーチコーポレーションを吸収合併しようと考えているんです。この会社の無駄をそぎ落とせば、かなりの資金があまると思います。・・・・・・それで、孤児院と、今まで勉強をすることのできなかった方々の学校を開きたい」
今度はわたしがポカンとする番だった。
そんな大がかりなこと、マジで考えてたのかよ。
たぶんイラータと同じような顔をしてたんだと思う。若社長がのどをならして笑った。
「と言っても、まだ広場に飲み水や電気を通して、机や教科書を用意するくらいしかできないかもしれません。勉強も当面は空を見ながらになると思います」
若社長が「だから稼がなきゃいけない」とつぶやいた。
「その為にもぜひイラータさんには、俺の会社に来ていただきたいんです」
わたしはこっそり息を吐くと、イラータの肩を抱いた。
「それにな。ここの人造人間は、全部ぶっこわしちまった方がいい。あんたが造った両親も。・・・・・・さもないと、もっと後悔するよ」
わたしは息つぎをして、ゆっくりと話しかける。
「おまえの造った人造人間でさ。一体、消息経ったやついない?」
イラータがおどろいて、こっくりとうなずいた。
「ワンツ社長が勝手に動かしちゃって、今、必死に探してるの」
「・・・・・・そいつわたしと若社長を襲ったんだよ。・・・・・・若社長の仲間は死ねってな」
「もともとその装置は『孫 悟空』さんという人物を殺すために造られたものです。・・・・・・おそらくですが、イラータさんが人造人間を造っている間に、目的がすり替わったんじゃないでしょうか?・・・・・・悟空さんと俺は似通った血が流れていますので」
「そんな・・・・・・」
「あんたが造った大好きな親が、あんたの大好きなトランクス社長を殺す、なんてシチュエーション笑えねーだろ」