整理整頓

 おずおずと若社長の服の握った。すがるような手の動きにあわせて、頭をなでられる。

 もうこいつの服、涙でべたべたにしてやろう。
 わたしは若社長の胸に、顔をうずめた。

「何かあったら、あんたがわたしを助けてくれるのかよ」

「はい。だからルンルンさんも、俺を助けてください」

「バカみたいに強いあんたが、わたしの助けなんているわけ?」

 若社長がクスリと笑った。

「俺は気をコントロールできます。空も飛べますし、その気になれば、敵もろとも崖を斬りさくことだってできる。だけど、ひとりの女性から信頼を得るのに、これだけ苦労しているんですよ。できないことは、たくさんあります」

「・・・・・・わたしを見捨てんなよ」
「はい」
「うそついたら、ぶっ飛ばすからな!」
「はい」

 わたしは気持ちを落ち着かせようと、若社長の胸の中で息をすって、吐いた。
 ゆっくりと顔と離して、若社長を見上げる。

「そう言えば、あんた、何しにきたんだ? 仕事じゃねーの?」
「あ・・・・・・」

 若社長はわたしから体を離すと、手元をごそごそ言わせた。

「あなたにこれを届けるように、母さんから頼まれたんです。パーティーの日程が決まったから、あなたと当日の話を練るようにと。こっちの分厚い封筒は、アガサに届けるように言われました。ボスの方に直接渡そうと思ったんですが・・・・・・、なんか嫌な予感がして」

 
 わたしは「ふぅーん」と言いながら、ふたつの封筒を受けとると、分厚い封筒を日差しにすかして見た。
 ・・・・・・本っぽいな。まあ、開けても問題ないか。
 
 封筒の頭をやぶって、中身をとりだすと、『よい子への道!』と言うかわいい絵ずらの本が、でーんと出てきた。
 
 ふせんがページの間に、一枚、はってある。

「なんだこりゃ」
「なんでしょう・・・・・・」

 若社長と一緒に「?」マークを浮かべて、ふせんのページを開くと、紙きれが一枚はさんであった。

『先日、自宅に来て舌打ちしまくっていた子に渡してください。マナーぐらい覚えないと、恋人ができないわよ! カプセルコーポレーション会長 ブルマ』

 ふせんのページは『おともだちの家にあそびに行ったときにする、家のひとへのあいさつのしかた』と見出しが書かれていた。

「母さん・・・・・・」
「良い度胸してんなぁ。・・・・・・おもしろそうだから、渡してもいーい?」
「やめてくださいっ! 母さんには俺から注意しときますから!」

 若社長はわたしから『よい子への道!』をふんだくった。

「ちぇ」

 わたしはしかたなく、もう一つの封筒の中身を取り出した。
 二枚の便せんが入っている。

 一枚目は礼儀正しいあいさつ文のあとに書かれた日程を読むと、パーティーの日づけはちょうど一週間後。夕方六時から。

 ふーん。


 二枚目はまた会長さんのメモ書きだった。

『トランクスと一緒にドレスと宝飾品を見繕ってね。トランクス! ちゃんとエスコートすんのよ!』

「だってよ。いつ行く?」
「ルンルンさんが良ければ、今日でもかまいませんよ・・・・・・。せっかく仕事をぬけ出せましたし。ぬけ出せたと言うか、追い出されたんですが」
「追い出された? 会長さんに?」

 若社長は苦笑いする。

「最近ミスが多くて、会社にいても使いものにならないから、外で頭を冷やして来いといわれました」
「おー、けっこうキツいこというねぇ」
「仕事には、まじめな人なので」

 わたしは立ち上がると、うーんと大きな伸びをした。

「息ぬきも必要ってことだな。しかたねーから、若社長のリフレッシュにつきあってやるか。着替えてくるから、待ってな」

 アジトに戻ろうとすると、若社長が「ルンルンさんは、もう会社にこないんですか?」とたずねてきた。

「もともと強盗する目的で入社したからなぁ」
「イラータさんがとても心配してましたよ」
「まめだぬきのおっさんは怒ってたろ?」

 若社長に目をやると、何か言いたげな顔をしている。わたしは、大きなため息をついた。

「わーったよ。明日から、顔を見せる。・・・・・・でもわたしの最優先はくさった連中どもだからな。自分一人、ふつうに生きるなんて、ごめんだ」
 
 若社長は、力強くうなずいた。

「もちろんです。ありがとうございます。ルンルンさん」


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