整理整頓
結局、今夜は、カプセルハウスで一泊することになった。
食事を終えたあと、ルンルンが眠気をうったえたからだ。
(いろいろあったからな・・・・・・)
トランクスがシャワーを浴びてもどると、ルンルンはもうベッドのうえですうすうと寝息を立てていた。
人造人間の戦いで、気を大量につかっていたようだし、せっかくあえた両親の遺骨は、灰になった。
おまけにあんな常識外れな戦いを目の当たりにしたら、疲れるのが当然だろう。
トランクスは電気を消すと、リビングのイスに腰を降ろし、水の入ったペットボトルを飲んだ。
整った寝息につられて、ルンルンの寝顔を見ると、今朝うたた寝していた時より、ずっとおだやかな表情をしている。
この様子なら、悪夢にうなされ、さまよい歩くことも、絶叫することもないだろう。
トランクスはほほえんだ。
(ふしぎだな。事態は悪い方向にあるのに、気分は悪くない。・・・・・・ルンルンさんのせいかな)
ルンルンに引っ張られた鼻をさすり、トランクスも床についた。
*****
西の都に帰ってきたのは、次の日の昼間になった。
若社長が会社に連絡を入れると、会長さんがすっ飛んで帰ってきた。
「お帰りー! ねえ、どうだった!?」
期待のこもった瞳と、ワクワクしたオーラを全身ににじませて、会長さんがたずねる。
わたしは二階のソファーにどっかりと腰を下ろして、苦笑いした。
「会長さんの「どうだった」が、どれを指してるかしらねーけど、床事情は、いたってふつうだよ。清く正しく美しく、私がベッドで、若社長が床」
「がっかりー。ルンルンさんなら、やってくれると思ってたのに」
「次、がんばりまーす」
「母さん・・・・・・」
若社長が照れを通り越して、あきれ果てた顔で、こめかみを押さえた。
「そんなことを言っている場合じゃないですよ」
若社長は北の都での出来事を、会長さんに説明していった。
人造人間におそわれた話。ドクター・ゲロの研究室にあった装置がなくなっていた話。
わたしの推理を伝えると、会長さんは感心したように、私を見た。
「一瞬でそこまで推測できるなんてすごいわねぇ。ルンルンさんみたいな人材、ずっとうちの会社にほしいわ」
「ほめたって、改心しねーよ、わたしは」
入れてもらったコーヒーをすすって一蹴すると、会長さんは「ふふふ」と笑った。
「でもつながってきたわね。あんたたちが出掛かけている間に、ルンルンさんの仲間が良い情報をつかんでくれたのよ」
「ひょっとして、誰かここまで来たの?」
「ええ、若い子がふたり。舌打ちばっかついて、ムカつくくらい態度が悪かったけど。あれなんとかならない?」
あはは。目に浮かぶわ。
「その子たちが持ってきた情報によるとね。あの強盗たちはラシテルって組織の人間らしいわ」
「私は聞いたことないけど」
「それくらい、できて間もないってことね。そのラシテルをさらに調べたら、なんとびっくり・・・・・・マーチコーポレーションと裏でつながっているみたいなの」
会長さんは若社長に顔をむけた。
「ほら、先月、そこの社長がうちに挨拶しにきたでしょ? おぼえてる?」
「はい。・・・・・・北の都にある会社ですね」
わたしは口笛をふいた。
「位置関係どんぴしゃ。いい感じじゃん。その会社、でかいの?」
「うちほどじゃないけど、かなりの規模よ。こっちが冷や汗かくような質のいい商品を、時たま開発するのよね」
「・・・・・・てことは、頭の良い人材がいるってことだな。その会社でドクター・ゲロの装置を見つけだせたら、黒だ」
わたしは口の端をあげて、若社長と会長さんを見た。
「で? どうすんの?」
「何とかマーチコーポレーションに潜入できればいいんですが」
「夜中に忍びこんじゃう?」
会長さんが「ダメダメ!」と首をふった。
「もしバレたら、うちの会社がやばいじゃないの。わたしにまかせなさい。と言うか手は打ったわ」
会長さんが一枚の印刷紙をふところから取り出して、差し出した。
「マーチコーポレーションへ送ったメールよ」
「社交パーティー、ですか?」
「そう。小さな会社や起業を考えてる人をみんな呼ぶつもり。めくらましになるでしょ? 経済を一気にもり立てるために、うちがスポンサーになるから、そちらの会社で催してくれって頼んだの。商品も見たいから、ぜひマーチコーポレーションのホールの一室で。ってね」
「へえ。そりゃあ、おもしろいことになりそうだね」
わたしが言うと、会長さんが私を見る。
「パーティーにはぜひ、ルンルンさんも参加してもらいたいの」
「えっ?」と若社長がおどろく。
「人間を見て、あしらったり、利用したりするのは、得意じゃない? そこらへんはうちの戦闘バカだけじゃあ、心許ないから」
胸のあたりをこづかれた若社長は「あの、でも母さんは?」とたずねた。
「もちろん私も参加するけど、私じゃあ、肩書きが大きすぎて、動きにくいのよ」
「なるほど。そう言うことねぇ」
私は足を組み直して、ニッと笑った。
「やるよ。おいしいもの食べれそうだ。協力するって約束だしな」
わたしは目をつむり、思考をめぐらせた。
「そうだな。できたらカプセルコーポレーションからの出席じゃないほうがいい。夢を抱いて起業しようとしている無名の女くらいがありがたいけど、できる?」
「オッケー。まかせて。手はずするわ。日時かしっかりわかったら連絡する。それまでは、まあ、動けないわね」
わたしはソファーから立ち上がると、腕を二~三まわした。
「んじゃあ、わたしはアガサに帰るは。長旅なんて滅多にしねーから、なかなか疲れたよ」
そくささと出て行こうとするわたしを、会長が「あ、そうだ」と言って、呼び止めた。
「ルンルンさん。崖の下のご両親には会えたの?」
「ちょ、ちょっと母さん!」
あわてふためく若社長を尻目に、会長さんはにこにことしている。
・・・・・・このやろう。
私は舌打ちすると、会長さんをにらんだ。
「やっぱり聞いてやがったか」
「あれだけ大さわぎしてれば、仕方ないじゃない? それでどうだった?」
悪びれる様子もねーな。
悪意でもないし、好奇心からでもないのは、優しげな表情から、なんとなくわかるけど。
「会えたよ。人造人間のおかげで、消し炭になっちまったけど」
会長さんは一瞬目を見開いて、申し訳なさそうな顔ををする。
「そうだったの。そのとき襲われたのね」
「すみません。俺が離れてしまったせいで」
わたしは肩をすくめた。
「だーかーらー、あんたのせいじゃないって、言ってるだろ? くどいっつーの! わたしが一人にしろって、あんたに頼んだの! それに襲われた時も、あんたはすぐに駆けつけてくれた。十分すぎるよ。問題なし! 最初の一発目はあんたに気づいてほしくて、打ったもんなんだから。それを聞き届けてくれただけで、わたしは満足だ」
一気に言うと、ブルマ会長がうれしそうに手をたたく。
「あら! それ言い兆しよ」
「はあ?」
なんかわけのわかんねー話になってきたな。
会長さんは「ふふん」と笑って、ウインクする。
「ルンルンさん、ご両親をなくした頃から、ろくに人を頼ったことないでしょ? だから、あなたは強いのよ。・・・・・・でもね。限界あるわよ? というより、限界きてるわね。あれだけ寝ぼけて騒ぎ立てるほどなんだから」
「・・・・・・あのさ。会長さんがなにを言いたいのか、さっぱり読めねーんだけど」
会長さんは「あらそう?」と言って、息子の背中をずいずい押して、私の目の前に立たせた。
食事を終えたあと、ルンルンが眠気をうったえたからだ。
(いろいろあったからな・・・・・・)
トランクスがシャワーを浴びてもどると、ルンルンはもうベッドのうえですうすうと寝息を立てていた。
人造人間の戦いで、気を大量につかっていたようだし、せっかくあえた両親の遺骨は、灰になった。
おまけにあんな常識外れな戦いを目の当たりにしたら、疲れるのが当然だろう。
トランクスは電気を消すと、リビングのイスに腰を降ろし、水の入ったペットボトルを飲んだ。
整った寝息につられて、ルンルンの寝顔を見ると、今朝うたた寝していた時より、ずっとおだやかな表情をしている。
この様子なら、悪夢にうなされ、さまよい歩くことも、絶叫することもないだろう。
トランクスはほほえんだ。
(ふしぎだな。事態は悪い方向にあるのに、気分は悪くない。・・・・・・ルンルンさんのせいかな)
ルンルンに引っ張られた鼻をさすり、トランクスも床についた。
*****
西の都に帰ってきたのは、次の日の昼間になった。
若社長が会社に連絡を入れると、会長さんがすっ飛んで帰ってきた。
「お帰りー! ねえ、どうだった!?」
期待のこもった瞳と、ワクワクしたオーラを全身ににじませて、会長さんがたずねる。
わたしは二階のソファーにどっかりと腰を下ろして、苦笑いした。
「会長さんの「どうだった」が、どれを指してるかしらねーけど、床事情は、いたってふつうだよ。清く正しく美しく、私がベッドで、若社長が床」
「がっかりー。ルンルンさんなら、やってくれると思ってたのに」
「次、がんばりまーす」
「母さん・・・・・・」
若社長が照れを通り越して、あきれ果てた顔で、こめかみを押さえた。
「そんなことを言っている場合じゃないですよ」
若社長は北の都での出来事を、会長さんに説明していった。
人造人間におそわれた話。ドクター・ゲロの研究室にあった装置がなくなっていた話。
わたしの推理を伝えると、会長さんは感心したように、私を見た。
「一瞬でそこまで推測できるなんてすごいわねぇ。ルンルンさんみたいな人材、ずっとうちの会社にほしいわ」
「ほめたって、改心しねーよ、わたしは」
入れてもらったコーヒーをすすって一蹴すると、会長さんは「ふふふ」と笑った。
「でもつながってきたわね。あんたたちが出掛かけている間に、ルンルンさんの仲間が良い情報をつかんでくれたのよ」
「ひょっとして、誰かここまで来たの?」
「ええ、若い子がふたり。舌打ちばっかついて、ムカつくくらい態度が悪かったけど。あれなんとかならない?」
あはは。目に浮かぶわ。
「その子たちが持ってきた情報によるとね。あの強盗たちはラシテルって組織の人間らしいわ」
「私は聞いたことないけど」
「それくらい、できて間もないってことね。そのラシテルをさらに調べたら、なんとびっくり・・・・・・マーチコーポレーションと裏でつながっているみたいなの」
会長さんは若社長に顔をむけた。
「ほら、先月、そこの社長がうちに挨拶しにきたでしょ? おぼえてる?」
「はい。・・・・・・北の都にある会社ですね」
わたしは口笛をふいた。
「位置関係どんぴしゃ。いい感じじゃん。その会社、でかいの?」
「うちほどじゃないけど、かなりの規模よ。こっちが冷や汗かくような質のいい商品を、時たま開発するのよね」
「・・・・・・てことは、頭の良い人材がいるってことだな。その会社でドクター・ゲロの装置を見つけだせたら、黒だ」
わたしは口の端をあげて、若社長と会長さんを見た。
「で? どうすんの?」
「何とかマーチコーポレーションに潜入できればいいんですが」
「夜中に忍びこんじゃう?」
会長さんが「ダメダメ!」と首をふった。
「もしバレたら、うちの会社がやばいじゃないの。わたしにまかせなさい。と言うか手は打ったわ」
会長さんが一枚の印刷紙をふところから取り出して、差し出した。
「マーチコーポレーションへ送ったメールよ」
「社交パーティー、ですか?」
「そう。小さな会社や起業を考えてる人をみんな呼ぶつもり。めくらましになるでしょ? 経済を一気にもり立てるために、うちがスポンサーになるから、そちらの会社で催してくれって頼んだの。商品も見たいから、ぜひマーチコーポレーションのホールの一室で。ってね」
「へえ。そりゃあ、おもしろいことになりそうだね」
わたしが言うと、会長さんが私を見る。
「パーティーにはぜひ、ルンルンさんも参加してもらいたいの」
「えっ?」と若社長がおどろく。
「人間を見て、あしらったり、利用したりするのは、得意じゃない? そこらへんはうちの戦闘バカだけじゃあ、心許ないから」
胸のあたりをこづかれた若社長は「あの、でも母さんは?」とたずねた。
「もちろん私も参加するけど、私じゃあ、肩書きが大きすぎて、動きにくいのよ」
「なるほど。そう言うことねぇ」
私は足を組み直して、ニッと笑った。
「やるよ。おいしいもの食べれそうだ。協力するって約束だしな」
わたしは目をつむり、思考をめぐらせた。
「そうだな。できたらカプセルコーポレーションからの出席じゃないほうがいい。夢を抱いて起業しようとしている無名の女くらいがありがたいけど、できる?」
「オッケー。まかせて。手はずするわ。日時かしっかりわかったら連絡する。それまでは、まあ、動けないわね」
わたしはソファーから立ち上がると、腕を二~三まわした。
「んじゃあ、わたしはアガサに帰るは。長旅なんて滅多にしねーから、なかなか疲れたよ」
そくささと出て行こうとするわたしを、会長が「あ、そうだ」と言って、呼び止めた。
「ルンルンさん。崖の下のご両親には会えたの?」
「ちょ、ちょっと母さん!」
あわてふためく若社長を尻目に、会長さんはにこにことしている。
・・・・・・このやろう。
私は舌打ちすると、会長さんをにらんだ。
「やっぱり聞いてやがったか」
「あれだけ大さわぎしてれば、仕方ないじゃない? それでどうだった?」
悪びれる様子もねーな。
悪意でもないし、好奇心からでもないのは、優しげな表情から、なんとなくわかるけど。
「会えたよ。人造人間のおかげで、消し炭になっちまったけど」
会長さんは一瞬目を見開いて、申し訳なさそうな顔ををする。
「そうだったの。そのとき襲われたのね」
「すみません。俺が離れてしまったせいで」
わたしは肩をすくめた。
「だーかーらー、あんたのせいじゃないって、言ってるだろ? くどいっつーの! わたしが一人にしろって、あんたに頼んだの! それに襲われた時も、あんたはすぐに駆けつけてくれた。十分すぎるよ。問題なし! 最初の一発目はあんたに気づいてほしくて、打ったもんなんだから。それを聞き届けてくれただけで、わたしは満足だ」
一気に言うと、ブルマ会長がうれしそうに手をたたく。
「あら! それ言い兆しよ」
「はあ?」
なんかわけのわかんねー話になってきたな。
会長さんは「ふふん」と笑って、ウインクする。
「ルンルンさん、ご両親をなくした頃から、ろくに人を頼ったことないでしょ? だから、あなたは強いのよ。・・・・・・でもね。限界あるわよ? というより、限界きてるわね。あれだけ寝ぼけて騒ぎ立てるほどなんだから」
「・・・・・・あのさ。会長さんがなにを言いたいのか、さっぱり読めねーんだけど」
会長さんは「あらそう?」と言って、息子の背中をずいずい押して、私の目の前に立たせた。