地脈の魔物
「なつかしくもなんともねぇ森だな」
途中下車(?)で、薄手のコートを着込んで、やってきた北の都の近くにある森林地帯。
それを上空から目の当たりにして、思わず、愚痴がこぼれた。
「研究所に行く前に、ご両親のいる崖の方へ、行きましょう。案内お願いできますか?」
若社長はポケットからレーダー式の地図を、わたしに差しだした。
「そんなもん使わなくても、もう見えてるよ」
私は親指をおっ立てて、斜め右を指さした。
目と鼻の先に、崖の切り目が見えている。若社長はそこを目指して、飛んでいった。
「ちょっとさ。底に降りる前に、上のほうでおろしてくんない? あの少し開けた空き地見える? あそこ」
若社長はわたしの言う通りに、空き地の上にくると、ユルユルと下降していった。
地面に降ろしてもらって、あたりを見まわす。
雪がつもってないから、まるっきり別世界に見えるけど、たしかに、ここだ。
わたしは、ゆっくりと崖に近づき、底をのぞきこんだ。手を伸ばすと、今ならきっと届いたはず。
立ち上がって、村のあった方角をみる。
ここからどれだけの距離があった? あのときの自分がいたら、まっさきに、助けてやるのに。
「ルンルンさん? だいじょうぶですか?」
若社長に声をかけられ、現実に引き戻された。
「問題ねぇよ」
「底に、降りますか?」
私は静かにうなずいた。
若社長が片腕をわたしのウエストに回して、横で抱き、足場のない崖にジャンプした。
若社長は重力にさからって、ゆっくり降り立っていく。思ったよりずっと深い。
緊張でわたしが顔をこわばらせていると、若社長がふと、笑みをこぼした。
「ルンルンさん。お二人が見えましたよ」
「って、この距離で見えんの?」
「はい、ちょっと、急ぎましょう」
若社長は落ちるスピードと変わらない早さで、降り、地面につく直前で、ふわりとスピードをゆるめて、底に足をつけた。
「これ、は」
わたしは地面に横たわる、白骨化した遺体に釘づけになった。
真ん中のかけた川の字ように、きれいに並んでいる。
すっかり汚れてしまった衣服は、女物と男物。
わたしはよろめきながら、遺体に歩み寄り、そのままへたり込んだ。
「ちょっと......。社長・・・・・・。ごめん。ひとりにしてくんねーかな・・・・・・」
声が震えている。
若社長は二つ返事で「わかりました」と言ってくれた。
「俺は、ドクターゲロの研究所へ行ってきます。その後、おふたりを引き上げましょう」
「ああ、たのむよ」
「ルンルンさん」
「・・・・・・なに?」
「ここで自殺なんてしないでくださいね」
「・・・・・・するか。バカ。わたしにだって、残して逝けない仲間がいるんだよ」
若社長は何もいわず、すごい勢いで飛んでいった。
しんと静まりかえった崖のそこで、私は母さんの頬にふれた。
父さんのあばら骨をなでた。
「ずいぶん時間が経っちまったけど、やっと助けにこれたよ。父さん、母さん。なぁ、
・・・・・・あんなところで死ぬなんて、怖かっただろう?
・・・・・・それとも、わたしをひとりにして、死ぬ方がこわかった?
ふたりとも優しいから」
ゆっくりと、お父さんとお母さんの間に寝転がり、骨だけになってしまった手をつなぐ。
視界がゆがんで、涙が伝った。
「ろくでもない娘になっちまったけど、何とか生きてるからさ。叱るならお手柔らかに頼むよ」
空が遠い。
光もとどかない。
暗くて、嫌な場所だ。
「・・・・・・こんなとこ、早く出たいね。ふたりともどこで眠りたい? こんな、ろくでもないところよりさ。南に行く? 暖かくて、自然のあるところ。わたしは西の都に住んでるけど、都会はふたりにはあわないもの」
わたしは目をつむって、笑った。
「ホント、遅くなってごめんね。ふたりとも、大好きだよ・・・・・・」
ああ、幸せだと思った。
心のそこにつっかかっていた、モヤがフッと晴れて軽くなる。
その時だ。
頭の中で、お母さんとお父さんの声がひびいた。
『ルンルン! 逃げなさい!』
『跳ぶんだ! 危ないっ!』
目を見開き、起きあがると同時に、地面を蹴って遺体から離れる。
ジュウと何かが焼ける音と、焦げたに臭いがあたりをつつむ。
地面に転がってから、かたひざをついた状態で体制を立て直すと、遺体のあった場所は、黒く焼かれ、骨は炭になり、けむりがたっていた。
わたしは目を細め、跡形もなくなった場所をにらんだ。
「ずいぶん冷静じゃないか。親の屍だったのだろう?」
私は声のしたほうへ、目を向けた。
暗がりから、土気色の大男が経っている。筋肉質な体に、冷たいまなざし。
服はこの地方の民族衣装だ。親と同じ赤い刺繍が施されている。その刺繍に混じっているのは、レットリボン軍のマークだ。
大男が、不敵な笑みを浮かべる。
「さして、親への情は深くなかったと言うわけか」
「・・・・・・バカ言え。自分だけおいしい思いできると思ってねーからだよ」
ホルスターからふたつの拳銃を取り出し、構える。
「あんた。人造人間か?」
大男はわたしの問いに答えず、私に手をかざした。すると大男の周囲に複数の赤い弾が現れる。
「サイヤ人の仲間は・・・・・・、死ね」
・・・・・・こりゃあ、勝てる相手じゃねーな。
わたしは頬に伝う涙をぬぐい、会長さんの部屋からちょろめかした、小型マイクを取り出した。
「ちゃんと耳すませてろよ。若社長」
拳銃を上に向け、小型マイクの電源を入れると、わたしは引き金を引いた。
*******
パァン!
背後から銃声の音が聞こえて、トランクスは思わず立ち止まって、後ろを振り返った。
(今の音は・・・・・・)
トランクスの脳裏に、頭に銃口を向け、遺体となったルンルンの姿がかすめて、青ざめるが、すぐ勘違いだとわかった。
ルンルンの気がどんどん膨れ上がって、大きくなっていく。
銃声がもう一発鳴り響くと同時に、崖の方から、大きな破壊音が連続して、響いた。
(戦っている!?)
トランクスは気を高めると、目に見えないほどのスピードで、来た空を戻った。
途中下車(?)で、薄手のコートを着込んで、やってきた北の都の近くにある森林地帯。
それを上空から目の当たりにして、思わず、愚痴がこぼれた。
「研究所に行く前に、ご両親のいる崖の方へ、行きましょう。案内お願いできますか?」
若社長はポケットからレーダー式の地図を、わたしに差しだした。
「そんなもん使わなくても、もう見えてるよ」
私は親指をおっ立てて、斜め右を指さした。
目と鼻の先に、崖の切り目が見えている。若社長はそこを目指して、飛んでいった。
「ちょっとさ。底に降りる前に、上のほうでおろしてくんない? あの少し開けた空き地見える? あそこ」
若社長はわたしの言う通りに、空き地の上にくると、ユルユルと下降していった。
地面に降ろしてもらって、あたりを見まわす。
雪がつもってないから、まるっきり別世界に見えるけど、たしかに、ここだ。
わたしは、ゆっくりと崖に近づき、底をのぞきこんだ。手を伸ばすと、今ならきっと届いたはず。
立ち上がって、村のあった方角をみる。
ここからどれだけの距離があった? あのときの自分がいたら、まっさきに、助けてやるのに。
「ルンルンさん? だいじょうぶですか?」
若社長に声をかけられ、現実に引き戻された。
「問題ねぇよ」
「底に、降りますか?」
私は静かにうなずいた。
若社長が片腕をわたしのウエストに回して、横で抱き、足場のない崖にジャンプした。
若社長は重力にさからって、ゆっくり降り立っていく。思ったよりずっと深い。
緊張でわたしが顔をこわばらせていると、若社長がふと、笑みをこぼした。
「ルンルンさん。お二人が見えましたよ」
「って、この距離で見えんの?」
「はい、ちょっと、急ぎましょう」
若社長は落ちるスピードと変わらない早さで、降り、地面につく直前で、ふわりとスピードをゆるめて、底に足をつけた。
「これ、は」
わたしは地面に横たわる、白骨化した遺体に釘づけになった。
真ん中のかけた川の字ように、きれいに並んでいる。
すっかり汚れてしまった衣服は、女物と男物。
わたしはよろめきながら、遺体に歩み寄り、そのままへたり込んだ。
「ちょっと......。社長・・・・・・。ごめん。ひとりにしてくんねーかな・・・・・・」
声が震えている。
若社長は二つ返事で「わかりました」と言ってくれた。
「俺は、ドクターゲロの研究所へ行ってきます。その後、おふたりを引き上げましょう」
「ああ、たのむよ」
「ルンルンさん」
「・・・・・・なに?」
「ここで自殺なんてしないでくださいね」
「・・・・・・するか。バカ。わたしにだって、残して逝けない仲間がいるんだよ」
若社長は何もいわず、すごい勢いで飛んでいった。
しんと静まりかえった崖のそこで、私は母さんの頬にふれた。
父さんのあばら骨をなでた。
「ずいぶん時間が経っちまったけど、やっと助けにこれたよ。父さん、母さん。なぁ、
・・・・・・あんなところで死ぬなんて、怖かっただろう?
・・・・・・それとも、わたしをひとりにして、死ぬ方がこわかった?
ふたりとも優しいから」
ゆっくりと、お父さんとお母さんの間に寝転がり、骨だけになってしまった手をつなぐ。
視界がゆがんで、涙が伝った。
「ろくでもない娘になっちまったけど、何とか生きてるからさ。叱るならお手柔らかに頼むよ」
空が遠い。
光もとどかない。
暗くて、嫌な場所だ。
「・・・・・・こんなとこ、早く出たいね。ふたりともどこで眠りたい? こんな、ろくでもないところよりさ。南に行く? 暖かくて、自然のあるところ。わたしは西の都に住んでるけど、都会はふたりにはあわないもの」
わたしは目をつむって、笑った。
「ホント、遅くなってごめんね。ふたりとも、大好きだよ・・・・・・」
ああ、幸せだと思った。
心のそこにつっかかっていた、モヤがフッと晴れて軽くなる。
その時だ。
頭の中で、お母さんとお父さんの声がひびいた。
『ルンルン! 逃げなさい!』
『跳ぶんだ! 危ないっ!』
目を見開き、起きあがると同時に、地面を蹴って遺体から離れる。
ジュウと何かが焼ける音と、焦げたに臭いがあたりをつつむ。
地面に転がってから、かたひざをついた状態で体制を立て直すと、遺体のあった場所は、黒く焼かれ、骨は炭になり、けむりがたっていた。
わたしは目を細め、跡形もなくなった場所をにらんだ。
「ずいぶん冷静じゃないか。親の屍だったのだろう?」
私は声のしたほうへ、目を向けた。
暗がりから、土気色の大男が経っている。筋肉質な体に、冷たいまなざし。
服はこの地方の民族衣装だ。親と同じ赤い刺繍が施されている。その刺繍に混じっているのは、レットリボン軍のマークだ。
大男が、不敵な笑みを浮かべる。
「さして、親への情は深くなかったと言うわけか」
「・・・・・・バカ言え。自分だけおいしい思いできると思ってねーからだよ」
ホルスターからふたつの拳銃を取り出し、構える。
「あんた。人造人間か?」
大男はわたしの問いに答えず、私に手をかざした。すると大男の周囲に複数の赤い弾が現れる。
「サイヤ人の仲間は・・・・・・、死ね」
・・・・・・こりゃあ、勝てる相手じゃねーな。
わたしは頬に伝う涙をぬぐい、会長さんの部屋からちょろめかした、小型マイクを取り出した。
「ちゃんと耳すませてろよ。若社長」
拳銃を上に向け、小型マイクの電源を入れると、わたしは引き金を引いた。
*******
パァン!
背後から銃声の音が聞こえて、トランクスは思わず立ち止まって、後ろを振り返った。
(今の音は・・・・・・)
トランクスの脳裏に、頭に銃口を向け、遺体となったルンルンの姿がかすめて、青ざめるが、すぐ勘違いだとわかった。
ルンルンの気がどんどん膨れ上がって、大きくなっていく。
銃声がもう一発鳴り響くと同時に、崖の方から、大きな破壊音が連続して、響いた。
(戦っている!?)
トランクスは気を高めると、目に見えないほどのスピードで、来た空を戻った。