助けられなかった話

 若社長のぴりぴりした空気は、変わりすぎなくらい、ガラッと変貌した。

 口数の少なさは、変わんねーけど、自然体って言うのか?
 わたしが存在することを受け入れているみたいだった。

 若社長の家にもどると、会長さんも息子の変化に気づいたらしい。

「あら?」って顔をして、「へえー」と私を見てくる。

 会長さんの反応は総無視しとこう。

「とりあえず、ボスに話はつけてきたよ」

「サンキュ! 助かるわ。私もちょっといろいろ調べていたところ」

 そう言って、会長さんはわたしたちを研究室にまねき入れた。
 分解された銃弾が、、、よくわかんねーけど、すごそうな機械装置のうえに並べられている。

「へえ。これで何かわかったわけ?」

 わたしが目を見開いてたずねると、会長さんは「なーんにも」と首をふった。

「ふつうの銃弾よ。金属もふつう。火薬も特殊なものじゃないわ」
「まあ、そうだよな。この銃弾に、やばいもんがあったら、おたくの会社、もっと惨事になってるんじゃねーの? 逆にラッキーじゃん」

「そうね。癪だけど、そう考えとくわ」

 ブルマはあらっぽく機械装置のスイッチを切った。

「念のために、トランクス。あんた明日にでも北の都に行ってきてくれない?」

 北の都・・・・・・。

「ひょっとして、ドクター・ゲロの研究所ですか?」
「そうよ。何か手がかりがあるかも知れない。会社の方は全部、私がやっとくから、頼んだわよ」

 若社長は神妙な顔でうなずいた。

 蚊帳の外になりかけている私は、機械装置に寄りかかって、紫頭のふたりを見比べる。

「なあ、おふたりさん。ドクター・ゲロの研究所って、北の都のどこにあるんだっけ?」

「北の都の近くにあるんです。深い渓谷にあって・・・・・・」
「ざっくりじゃなくて、地図とかねーの?」
「あるわよ。ちょっと待ってね」

 会長さんが手元のタッチパネルを、なれた手つきで操作すると、モニターに黒地に緑の線が走った、シンプルな地図が表示された。

 緑の点がひとつ、森の奥深くで点滅している。私は森の形に視線をはわせ、点滅している緑の光に目を細めた。

「ひょっとして、研究所に地下でもあるかもしれねーな」

 会長さんも若社長もおどろいた顔をして、私を見る。

「そこら一体は、地面が空洞になっている場所が多いんだよ。鍾乳洞とか、地底湖とかな」

若社長がハッとした顔をする。

「ある。たしかにあります。アイツがいた場所だ。ひょっとしたら、まだ機械が動いている可能性も」

私は片眉にちからを入れた。

「アイツって、人造人間のこと?」
「えっ?、、、あ、えっーと、そんな感じです」

 下手くそすぎるお茶の濁し方だな。まあ、いいか。
 慈悲深く深追いしないでやると、会長さんも意味深な顔をする。

「どのみち調べたほうが良さそうね。でも、ルンルンさん。どうして、地下があるって、知ってるの?」

 私は腕を組んでから、斜にかまえ会長さんを見上げた。

「私の生まれ故郷だからね。それなりにくわしいさ」
「あら、どうりで肌が白いわけねぇ!」
「関係あるかねぇ。西の都で腐ってる年数の方が上だけど」

 私は苦笑いすると、「社長さん、私も一緒に連れてってくれよ」と頼んだ。

 かるーい乗りで言ってみたら、眉間にしわを寄せて、予想通り、カチコチな返事が返ってきた。

「ダメです。もしなにかあったら、どうするんですか?」
「なんとかするんだろ。トランクス社長が。デートだ、デート。光栄に思って、何かあったら、死ぬ気でエスコートしてくれよ」
「なっ!」

 あんぐりと口を開ける若社長に、息子をおちょくるのに命をかけた会長が食らいつく。

「ひょっとして、あんたデートなんて初めてじゃない! この年になってようやく! ちょっと、涙がでそう! がんばりなさいよ」

「デートじゃありません! ふたりともふざけないでください!」

「堅物人間の凝りをほぐしてやってんだろ?」

 ニヤニヤ笑ったあと、もう一度、北の都一帯を描いた地図を眺めた。

「行ってみたくなったんだよ。ふるさとってやつに」

 紫頭のふたりが言い合いをしているかたわらで、私はそっとつぶやいた。
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