こんがらがる事情

 窓にさしこんだ光がまぶしくて、トランクスはうす目をあけた。
 ダイニングのイスに腰かけたまま、うたた寝してしまったらしい。

 空の色からして、夜が開けて数分も経っていないようだ。
 時計を見ると、針は五時前を刺している。

(・・・・・・! しまった。ルンルンさんは!?)

 ソファーに視線を走らせると、寝ているはずの彼女がいない。
 ソファーにさわるとひんやりとしていて、今しがた出て行った・・・・・・というわけでも、なさそうだ。

(逃げれた・・・・・・!)

 あわてて階段を駆け下りると、リビングで母のブルマが、カーディガンを羽織って、コーヒーを飲んでいた。

「母さん! 」
「あら、トランクス。おはよう」
「母さん! ルンルンさん。ルンルンさんを見かけませんでしたか!?」

「あの子なら、さっきシャワーを浴びて、会社に忘れものをとりに行くって、出かけてわよ。朝ごはんはごちそうになるって、言ってたけど・・・・・・」

 そこまで言うと、ブルマが「うっふっふっ~♪」とトランクスを肘でつついてきた。

「聞いたわよぉ~。昨日、一晩、ルンルンさんとすごしたんでしょお~? いやぁねえ! 私が酔っぱらっているのを良いことに!」

ブルマは「よくやったわ!」とトランクスの背中を叩いた。

「あんたは色事に縁のない子だと思ったけど、やることはやってて、安心したわ」
「は、はい?」
「ふたりであつーい夜を過ごしたんでしょ? あんたが、あまりに激しいから、体が痛いって、ルンルンさんが言ってたわよぉ」
「なっ!・・・・・・は?」

 トランスの顔がみるみるうちに赤くなる。ブルマはそれを見て、ケラケラと笑った。

「あんた体力バカなんだから、気をつけなさいよ! サイヤ人の相手って、大変なんだから。私もべジータの時は、次の日、体がきつくて、きつくて・・・・・・」
「ち、ちちちちちがいますっ! 誤解ですっ! 彼女は・・・・・・」
「早く孫の顔が見たいわねぇ。頼んだわよ!」
「あーもう! 説明は全部後でします! 俺、彼女を追いかけますから!」

 トランクスはブルマの相手をあきらめて、家を飛び出した。

*****

「・・・・・・よし」

 ふたたび会社に忍びこんで、社長室に落とした拳銃を拾った。
 あとは外に隠してある機関銃を回収するだけだな。

 私はながーい廊下を歩きながら、今後どうするか、頭を悩ませた。

 このままバックれてもいいけど、後が怖そうだなぁ。アジトに逃げ帰っても、探し出されたら、やばい。

 あんな意味不明に強いやつ、束になってもかなわねぇからな。

 これは若社長の意志に背いた行動をするより、ほどよく従って、気を緩ましとくのが、妥当か・・・・・・?

 いや、問題はそこじゃねーな。
 もし金を盗み出すことに成功しても、私の顔が割れてる。
 どの道、目をつけられるじゃねーか。
 となると、やっぱりアガサを見つけられて、潰されちまう。
 そうなったら、金を盗み出した意味がねーし。

 まいったねぇ。

 誰かに盗ませるとかが、一番なんだけど・・・・・・。
 ・・・・・・そんな器用なことできるか?

 あれこれ悩んでいるうちに、会社の裏口にたどり着いた。機関銃も、脱ぎ捨てた服も、黒縁めがねも、麻の袋に包まれて、ちゃんとある。

「よし。回収完了っと」

 ・・・・・・しゃーねぇから、若社長の家に戻るか。

私が荷物を担いで立ち上がった時だった。
 背後から、誰かに肩をわし掴みにされた。

 振り返ると、目に青あざを作った、おっさんが「よお、姉ちゃん」と挨拶する。

「なんだ。誰かと思ったら、昨日の強盗じゃねーか。また来たのかよ、親玉さん」

「ちょっと、思い出したことがあってな。おまえに会いに来たんだ。運良く会えてよかったぜ」

「ああそう。いいから、肩から手ぇ離しなよ。洗い立てだぞ、こっちは」

「そう怒らず、話を聞け。おまえ、アガサにいる二拳銃使いの女だろ。眼鏡をかけてねぇーから、さっぱりわからなかったぜ。えらく、美人だったんだな」

「そりゃどーも。うれしいよ。サンキュー。じゃあな」

 強盗の手を払って、歩きだそうとすると、背中に何かを押しつけられた。

 たぶんライフルだな。

「朝から無粋じゃねーか。ケンカ売ってんの?」

「おまえが人の話を聞かないからだ。・・・・・・なあ、俺たちの仲間に入らないか?」
「は?」

「おまえだったら、俺たちの仲間に入れてやってもいい」
「ずいぶん上からだねぇ。私が、防犯カメラにも気づかない雑魚の仲間になるかよ」

 私の悪態を気にせず、強盗はにやにや笑った。

「俺たちの仲間になっておいた方が、身のためだぜ。すげーのがバックにいるんだ。ひょっとしたら、世界を征服できるかも知れないぜ?」

「あんた、頭だいじょうぶ?」

「・・・・・・で? 返事はどうだ?」

 わたしは小さく息を吐いた。

「断るよ。私はアガサの女だ」
「・・・・・・そうか。そりゃあ、残念だ。じゃあ、死んでもらおうかな。おまえは後々、やっかいな存在になりそうだ」

 強盗の指がライフルの引き金を引こうとした。

その時だ。

 青い光の塊が飛んできて、強盗の横っぱらを吹っ飛ばした。
 光が飛んできた方を見ると、若社長が片手をかざして立っていた。

あの光はなんだ?と言いたいけど、もう何が起こっても、おどろかねーぞ。

「おまえ、懲りずにまた来たのか、、、」
「ひっ!」

 怒れる若社長のお言葉に、上から目線だった強盗が、悲鳴にならない悲鳴をあげる。
 テンパってるのか、知らないけど、急に私を指さして、わあわあ叫びだす。

「こ、こいつだって、俺たちと一緒だぞ。いや、俺たちより、やっかいな相手だ!」

 私はあきれて空を仰いだ。

「おいおい。巻き添えかよ。それこそ残念だったな。
わたしも昨日の夜、強盗に入って、ドジってんの。社長に見つかって、ボッコボコだよ。だから、私を使って、社長の意識をそらそうったて、無駄さ」

 むしろその卑怯な手口は、まじめな若社長の逆鱗にふれるだけな気がする。

 案の定、社長の眉間のしわが増える、増える。

「最後の忠告だぞ。今度、俺に顔を見せたら、次はない」

 おー、こわ。
 私への脅し文句は手加減されていたのか。
 強盗は「は、はひぃ!」と返事をして、すごすごと逃げていった。

 若社長はギロリとこちらをにらんできた。
「あなたは、こんなところで何をしていたんですか?」

 私は肩をすくめる。

「会長さんから聞かなかった? 忘れ物をとりに行ってたんだよ。弾切れの拳銃と、隠していた軽機関銃。こんなぶっそうなもの、おきっぱなしは、まずいだろ?」

 私は麻の袋を開いて見せた。

「武器、回収する? 服と眼鏡は返してくれよ」

 私は眼鏡と服を出して、若社長に手渡した。

「・・・・・・さっきの男は、知り合いですか?」
「しらねぇよ。仲間になれって、ナンパされたけど」

 眼鏡をかけると、「あいつがボスのグループなんて、知らねぇんだけどなぁ」と半分独り言を言いながら、袋にしまってあった、スカートのしわをのばす。

 すると、スカートの布越しに固いものがあたった。
 ポケットに何か入ってる?

 身に覚えがなくて、ポケットに手をつっこむと、銃弾が数発入っていた。

 金属のふつうのライフルの弾。なんだけど・・・・・・。

 思わず、顔がこわばって、背筋が急に寒くなる。

「どうしました?」
「・・・・・・なあ、社長」
「?」

 私は銃弾のひとつを、若社長に手渡した。

「あの強盗の子分からすった弾なんだけどさ。このボディのマーク、見たことねーか?」

 銃弾に塗装されたマークに、若社長の顔もこわばった。
 赤いリボンに「R」の文字がふたつ。

 たしか、三年前に暴れ回っていた人造人間にも、あったよな・・・・・・。


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