良いこと

 着がえて、イラータと待ち合わせる予定の公園に行くと、ピンクの甘ったるいワンピースを着たイラータが立っていた。
 眼帯さえしてなきゃあ、男のひとりやふたり、ふらふら寄ってきそうなほど、脇も甘い。
 
というか寄ってきたな。いやらしそうなやつがひとり。
しかたなく背後から、男の尻をけっ飛ばした。

「いって! なにしやがる!」
「わりぃけど、その子は、わたしと遊ぶ予定なの。おらっ、退散しな」

 ブーツのかかとをあげると、男は「このブスが!」と言って、消えていった。
 イラータはおびえたように目を丸くしていた。

「あ、ありがとう。ルンルンさん」
「あんた、よく今まで生きてこられたよなぁ。かわいらしい格好もいいけどよ。もうちっと、きりっとしてねーと、危ないよ」
「よく言われるわ。たぶん運がいいと思うの」

イラータは困ったように笑いながら、歩き出した。
私も横にならんで歩く。

「それで? 私にクレームはこなかったけど、首尾はうまくいったの?」

 イラータがうれしそうに顔をほころばせた。

「だいじょうぶよ。ホントにぜんぶルンルンさんのおかげだわ」
「礼はあとにしてくれよ。私は助け船ださねーからな」

 イラータは「がんばります」と言って、手さげのかばんのかげに隠れた紙袋をにぎりしめた。


*******

 バカでかい家のインターフォンを鳴らすと、いきなりドアがばんっと開いた。
 いや、鼻先、かすったんっすけど。

「いらっしゃーい! って、ちょっと、なにー! そのだっっさい眼鏡!」
「ワタシノ、カラダノイチブデース」
 
 上司のマルタから、返してもらった目がねをクイッとあげる。

「却下! 却下! 盛り上がらないから、パーティーの間ははずしちゃいなさい。今すぐ! 会長命令~!」
「・・・・・・会長さん。ひょっとして、もう飲んでんの? ずっりーなぁ」

 しぶしぶ眼鏡を外しながらたずねると、「うふふ」と色気のある声が返ってくる。

「楽しみで、ついね! さあ! 入って! 始めるわよ! トランクス! 二名様、二階へごあんなーい」
 
さらわれるようないきおいで、家に引きずり込まれる。
会長のテンションと真逆に、若社長はずっとするどい目尻をたらしっぱなしだ。
ホントに、真逆な親子。


 トランクス社長に案内された場所は、そりゃあ、おそろしく広い空間だった。
 広間の中央に、金持ちらしい長方形の大きなテーブルがある。
 食料調達が、まだまだむずかしいから、シンプルな料理ばかりだけど、肉もあるし、つまみも何品もある。
 酒の品数は、むだにそろってんな。
 風が流れて、部屋の奥を見ると、テラスのガラス戸も解放されている。

いいな。これ。

 見ほれているうちに、会長さんがいそいそと給仕を始めた。

「まずは、乾杯ね! お酒はどれがいい? 料理もお皿とって、好きに食べてちょうだい!」
イラータがあわてて、給仕を手伝い始める。

四人がグラスを手に持って、さあ、乾杯だっ! となった時、イラータが緊張気味に口を開いた。
 
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