私たちも大人になりました。
体育館に響くドリブルの音…
バッシュの擦れる音…
あの頃の私たちの声……
「んんー…まだ6時じゃん」
春野三月こと私は今年で25歳になりました。
普段は目覚まし時計の音で起きるはずなのに、今日はなぜか早く目覚めてしまった。
「しばらくこんな夢見ることなかったのに…。」
きっと何年ぶりかに見るあの頃の夢のせいだ。
楽しかった高校生活。もう戻れないあの頃。
「考えてても仕方ない!今日から新人さんも来るんだし、早めに仕事行こう!」
そう気持ちを切り替えて仕事の準備にとりかかる。
病院から近いワンルームのアパートを借り出してから数年経ち、だいぶ慣れてきたがやはり仕事をしながら部屋をきれいに保つのは難しく、服が所々散乱している。この部屋を他人に見られば、しばらく彼氏がいないのがすぐにバレてしまうような部屋だ。
「さぁ、がんばりますか!」
準備を終えて勢いよく玄関の扉を開け、私は自分の勤める病院に向かった。
病院からは10分もかからない位置に私のアパートはある。少し時間が早いため知ってる人には会わない。
道中、今朝見た夢を思い出していた。
みんながバスケの練習をしていて、それを体育館の端から見ていた私…
「永和君、今はどんな人になっているんだろう…。」
高校を卒業して、私は自宅から通える看護学校へ進学した。朝倉永和くんは地元から少し離れた国公立大学へ進学した。初めの頃こそはデートもしていたが、お互いの時間のすれ違いが出てきて、最後はどちらからともなくお別れした。良くある話だ。高校生から付き合って結婚だなんてごくわずかだ。わかっている、だけど、夢を見ていたかった…
「あと、なんであやちゃんがいたんだろう」
夢に出てきたのは清凌高校の体育館だったのに、そこに神山亞哉ちゃんもいた。
「私どうしちゃったんだろう…はぁ」
「どうしたの?そんな考え事して。」
「うわっ!おどかさないでよかなちゃん!」
気づけば更衣室の前まで来ていて、ずっと立ち止まっていたようだった。
かなちゃんというのは同じ看護学校からの友達で、ここ青空病院での同期だ。
かな「今日から新人が来るねぇ。私たちも4年目か!」
「言わないでよー。私指導者なんて自信ないのになぁ…」
かな「三月なら大丈夫だよ!この前の論文発表も完璧だったじゃん。先輩たちも成長したなぁって褒めてたよ?」
「それはそうだけど…緊張するのー」
そんなたわいもない話を私たちはしながら、病棟へ向かった。
この日から少しずつ、私たちの止まっていた時間が再び動き始めていたことに、まだ私は気付いていなかった。
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