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●へたくそ

自身の体の成長に戸惑った弟を抱いたのが、俺の人生の中で最もやり直すべき事だ。抱いた、という表現が正しいのかはさておき、当然、罪咎ざいきゅうは消えないのだ。つかえは永遠と胸中を渦巻き、弟は俺に復讐しようとしている。いや、もうそれの最中だ。
今日だって穢された。気ままに暴力を振るっては、そのままである。兄としての威厳は失われていた。もう何を言っても弟の耳には届かない。
「お前なんか生まれて来なければよかったのに」
弟が言った。からからに枯れた喉で息を飲んだ。同時に鋭い痛みが走り、咳き込んだ。その時に、俺にはもう存在意義すら無いのだろうかと考えた。弟はシャワーを浴びに行くのか、部屋を出ていった。俺はひとり部屋に取り残され、呆然と乱れたシーツのベッド上で惨めにもうずくまった。全身が酷く痛んだが、いっそう身体を縮こませた。
ふと、こちらに戻ってくる足音があった。次は何だと斜に構えたが、部屋には入ってこずに再度引き返した。足音は徐々に遠ざかって行った。それが弟のものだと確信するのに、時間は要らなかった。
部屋を出ると床に、丸められた紙切れが落ちていた。おぼろな手つきでそれを取り、開くが何も書かれてはいない。ただ紙の白だけが広がっていた。それを見るや否や、涙が零れていた事に気付かなかった。次々と皺だらけの衣服の上に滲んだ。こういった事は初めてではなく、もう既に数回に渡り、過去の出来事として成立していた。これは所謂〝互いの弱さ〟であった。
俺は、自分がしたことへの罪すら償えず、好いた人間の虚につけ込んで安堵するような、そんな弱い人間である。
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