STONE WORLD
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広末高等学校の科学部室の扉を開けると
いつもと変わらない白衣を着た千空の後ろ姿が見えた
『お邪魔しまーす』
「おぉ、やっときたか」
「桜井さん今日もお疲れ様ー」
「もう科学部に入ったらいいのに」
『ありがとー!いつもお邪魔してごめんね』
「いやいや華やかになるよー」
幼馴染みであり科学の天才である千空に
今日も呼ばれて部室にやってきた
他の部員達も見慣れたもので部員でもないのに私を受け入れてくれている
『それで、千空次は何を作ればいいの?』
「おぉ、次はなぁ…」
話を進めようとする千空の声を遮るように大きな声が向かってきた
「聞いてくれ千空!!翼!!
俺は決めた!今日こそ今から!!
この5年越しの想いを杠に伝える!!」
小学校からの幼馴染みの大樹くん
とにかく真っ直ぐで真面目で有り余る体力を持っている
「ほーんそりゃすげえ興味深い深い
声帯がブチ切れるほど応援してるわ
この科学部室から」
「おおそうか ありがとう千空」
「うるせえな1mmも応援してねえよ このデカブツ」
「なにぃどっちだー!」
「そもそも5年も何も言わねぇとか
バカはどんだけ非合理的だ」
『千空は相変わらず塩対応だね
応援してるよ大樹くん!』
「ありがとう!!翼!!」
「死ぬほど合理的な方法をくれてやるよ
フェロモン放出を極度に活性化する
いわゆる惚れさせ薬
こいつ飲んできゃ100億%だ!」
それは千空がまず作りそうに無いもの
悪い顔になってるなぁ…
その液体の入ったフラスコを受け取った大樹くんは
迷わず流しに液体を捨ててしまった
「ありがとう!千空
だがすまん こんなインチキには頼れん!」
『大樹くんらしいね…行ってらっしゃい!』
「あぁ!行ってくる!!」
嵐のように去っていった大樹くん
科学部員がざわめく中
千空は流しに火をつけ液体はガソリンであることをばらした
「飲んでたら大樹くん死んでるんじゃないか…」
「ククク100億%飲みやしねえよ
あの真面目バカはよ」
『大樹くんだもんね』
科学部室の窓から見える木の下に大樹くんと杠ちゃんが見えた
『青春だなぁ…千空は好きな人いないの?』
「……さあな…」
『あれ、なんかいそうな答え!誰?!』
自販機へと歩き出す千空の後を追ってきいてみる
「ほらよ」
自販機から出した紅茶を私に渡してくれた
千空はいつものエナジードリンクを取り出すと
話題には触れず飲み始めた
『ありがと、千空…』
これはいくら聞いても教えてくれなさそうな表情だ
めったにしない話だから聞いてみたかったな
後ろでは大樹くんと杠ちゃんを見ながら科学部員の話が盛り上がっていた
「フルパワーでフラれるに100円」
「フラれるに500円」
「フラれるに1000円」
「意外とフラれねえに一万円」
「マジか!?」
『5年間長かったね…
お祝いに二人に何か作ってあげたいな…』
「5年が長い、か…」
『え?』
「なんでもねえよ」
「なんだあの光ーー」
突然聞こえた大樹くんの声
振り返ろうとした時私の左腕が掴まれた
そう思った瞬間体が動かなくった
目も耳も機能してない
左腕を掴まれた感覚すら無くなった
意識が飛んでいきそうになる
その事にひどく不安を感じた
もう戻れなくなる気がして
好きなことを考えていよう
次は何を作ろうか
意識が飛びそうなときは歌を歌おう
不安なときは考えるんだ
大丈夫
起きたら横にはきっと…
▽
1173億5488万9550秒…
カッ
俺は
ついに目覚めた
最優先は現場の保全だ!
俺のボディ自体が価千金の謎ときの手がかりになる
がその前に、
何千年も数を数えながらずっと頭から離れなかった
石化前に俺の左手が掴んだもの
石片がバラバラにならないようにそっと左側を向く
そこには3719年前に俺の横にいた翼が石化していた
翼の左腕に目を向けると俺の左手が重なっていた
あの光が見えた瞬間なぜかとっさに翼の腕を掴んだ
そのおかげで俺達は離れずにいた
石化前の俺を褒めてやりてえ
安堵してる場合じゃねえ…
とりあえず現場を、と動き出そうとした瞬間
うつ伏せの状態で顔だけこちらに向いていた翼の
目元の石片が崩れ落ちた
これは…
顔や肩の一部も剥がれ落ち
翼の素肌の見える面積が増えていった
「翼…」
『千…空…』
久しぶりに聞いた翼の声
翼を呼ぶ自分の声すら懐かしい
柄にもなく胸が熱くなった
のに
『千空、私動かない方がいい?』
「は?」
『石化が剥がれ始める場所とか私が研究材料になるでしょ?』
「……クククおありがてえ さすが翼だ…
確かにこんな間近で石化がとける瞬間に立ち会えるなんて
唆るぜこれは!!」
数千年ぶりに話す会話が石化の謎ときとは
翼は昔から変わらず本当に…
▽
一通り調べ終えたところで一息ついた
『もう起きていいんだよね』
「あぁ…」
パラパラ…
今まで石化の謎ときに夢中だったが今はお互い素っ裸だ
とりあえず背中合わせに座ってみたもののどうも落ち着かない
すると俺の手に翼の手が触れた
「!」
肩越しに少し振り向くと翼はうつむいていた
それに触れた手は微かに震えている
「…翼」
『ご、ごめん…落ち着いたら安心しちゃって…
長い、長い間…何もない中不安になって、
でもきっと起きたら横に千空がいるはずだって
信じ続けてやっと会えたのが…
嬉しくて』
「…」
『千空がいてくれて良かった…』
俺にしては珍しく考えるより体が先に動いていた
翼の首に腕を回して軽く引き寄せ
おでこに翼 の後頭部をぶつけた
『せん、く…//////』
「よく、頑張ったな」
『うん…ありがと、千空もね』
「宇宙に行けるほどの科学文明ゼロから築くぞ」
『…!…うん、ついていくよ…千空』
翼は回した俺の腕を胸に引き寄せた
…
冷静になるとありがてえがやべー状況だな
とりあえず考えろ、気を散らせ
石化してから1173億5489万3870秒…
さすがに暗算キチーな
うるう秒が死ぬほどめんどくせえ
そもそも地球の自転が年に100万分の17秒ずつトロくなってんだ
細けえ数字に意味はねえ
今日は西暦5738年4月1日
石化中に流されてるだろうな
正確な緯度経度は分からねえし
数千年で誤差出まくりだろうが
日の入りはおそらく18時前後だ
それまでに衣食住をどうにかしてえ
『せ、千空…』
「!なんだ?」
考えに集中して気持ちを落ち着かせていたところに
少し翼の焦った声が聞こえた
顔を上げて翼の目線を追い、見上げると
猿がいた
『生き物、いたんだね』
「そうみてーだな」
『めっちゃ見られてる…なんか恥ずかしいかも…』
「!」
翼と猿の間に滑り込むように立つと
猿は俺達を見て急いで逃げ出した
…初めて見んのか?
『行っちゃった…』
「このままじゃ動けねえ
まず服をどうにかするか」
そのへんの蔦をひっぱり巻き付けてなんとか隠した
「俺達が地球に初めて生まれた最初のツルピカ猿だ」
『まずお猿さんに違いをみせなきゃだね』
「あぁ、唆るぜこれは…!!」
▽
とりあえず日が暮れるまでに私が食糧の確保
千空は火をつけることに分かれた
さすがに魚を手掴みは無理か…
余裕が出たら籠とか罠とか作りたいな
創作意欲が湧く!楽しまなきゃ!
森を歩いて食べられそうなきのこ
それからよもぎやミツバなどなど山菜を集めた
もとの所へ帰るとお猿さんたちに見守られながら
千空は疲れ果てていた
落ちていた木の塊のくぼみに汲んだ水を渡すことにした
『千空、大丈夫?お水持ってきたよ』
「……あ…ぁ…」
『キリモミ式は難しそうだね
弓きり式ならいけるかな…
作るのは簡単だけど紐はどうしようか…』
「まず石器から作るか…
そしたら茎をほぐして紐が作れる
石器や紐があれば翼なら
さくっといろいろ作れんだろ」
『じゃぁ木を切れるくらいの斧と加工用にナイフっぽいのも欲しい!
打製石器から磨製石器に、文明をなぞってみよう♪』
「物作りは頼りにしてるぜ」
『まかせといて!
とりあえず暗くなってきたし今日は寝ようか』
生でも食べられそうな山菜をつまみながら簡単に寝床を作った
もう漆黒の闇が訪れようとしている
ここに電気はない
日が暮れると千空の姿が見えなくなる
『千…空…どこ?』
「どうした?」
『手、かして…』
暗闇の中で千空の手を掴んだ
一人じゃないと実感できた
「そういえばガキの頃から暗闇は苦手だったな」
『そんなときはいつも千空が手を繋いでくれたよね』
「あぁ、そんなこともあったな」
『私たち、何もないね』
「あぁ…これから作るんだ
ゼロからのスタートだ」
『そうだね』
「翼、空見ろ」
その声と共にごろりと横になる
暗闇が怖くて目を閉じていたけど
仰向けになり見上げると
満天の空が見えた
『…っ!!』
「電気もねぇ、空気も澄んでるから一段と見えるな」
『きれい…』
無数の星の煌めきを見つめながら
左手には温かなぬくもりを感じる
ここは暗闇じゃない
大丈夫、前に進める
『♪One small step from zero,I'm not afraid
'Cause the world that we want is right here for us to make
Just taking one small step to hero,I'll take the chance
And when I do,I'll be thinking of the same thing I always do
It's always you...♪』
「ゼロからの小さな1歩か
まさにうってつけだな」
『うん、千空と一緒なら大丈、夫…』
互いの顔があまり見えなくてよかった
借りていた左腕を抱きかかえ手のひらを自分の頬に重ねた
「お、おいっ…!」
『おやすみ…千空…』
借りてるんだし好きに使わせてもらおう
あったかい…瞼がおちる…
「(簡単に葉っぱ巻き付けてるだけだぞ
腕が挟まって抜けねえし、これは…)」
朝日が昇るのと同時に目が覚めた翼
目の前の千空はうっすら隈ができていたとか
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