賑やかな声の中心には栄純くんがいることが多い

倉持先輩にいじられているんだけど

それでも人を引き付ける力があるんだと思う

それを遠目で見ていた暁くん

入りにくいのかな…

暁くんはクールなイメージで

自分からなにかを発信することは少なめだ

ボールを投げたいというときの発信はすごいけど…


「何やってんだ？
入りづれーのかあの中に…」


一也も同じことを思っていたみたい

暁くんは浮かない顔をしている


「でも…まぁ、お前はそれでいいんじゃねーの？
力でチームを引っ張る…
そういう投手でよ」


確かに、ひたむきに真っ直ぐに

ただ前を向いて頑張る暁くん

一球に込める気持ちにきっとみんなついていく


「御幸先輩って性格悪くないですか？」

「はっはっはっ、よく言われる」

『それって笑って言うことじゃないよ…』

「しょうがねぇだろ」

『そんな一也は置いといて、
暁くん、入りづらいなら一緒にいこうよ！』


暁くんの手をつかんでみんなのもとに走り出した


『えい！暁くんラリアット！』


その勢いのまま私に引っ張られるように伸ばした暁くんの腕が

栄純くんにぶつかった！

もちろん大事な投手だから左腕で！


「いってぇ！！」

「ヒャハハいいぞ！降谷！翼ちゃん！」

『ほら！先輩にタメ口はダメだよ栄純くん』

「確かに翼ちゃんの言う通りタメ口はだめだよ」

「口で言えよ！ってか降谷を使うなって！」

『私の腕より威力ありそうでしょ』

「それするなら降谷はもっと鍛えなあかんな」

『だって、暁くん』

「…頑張ります」

「そんなとこで頑張らなくていいんだよ！！」

「一緒に鍛えるか？」

「降谷は増子のトレーニングについていける気がしないな」



くだらない会話だけどとても楽しかった

これがずっと続けばいいのに

夏なんて終わらなければいいのに







それからクリス先輩の一声で

練習が始まった


一塁に増子先輩

二塁に春市くん

遊撃に倉持先輩

三塁に前園先輩

捕手は一也で

投手の所には見本をみせるため私が入った

栄純くんと暁くんはクリス先輩の隣でカバーの位置の確認

練習でもこのメンバーでできるなんて幸せだなぁ


『まずはランナーがいない場合ねー！』

「翼ちゃんの後ろを守るなんて新鮮だね」

『お願いします♪』

「ヒャハハ、沢村より安心感あるぜ！」

「ちょっとそこー！！！」怒



まずはファーストゴロかな

ファーストがボールを捕ったら走って一塁まで行き

ボールをキャッチする

よくある簡単なやつ


その後も説明しながらたんたんとこなし、次は２人の番

ノック形式で私が打った球をみんな処理していく

塁を踏むこととボールをキャッチすること素早く動くこと

慣れてしまえば簡単なことなんだけど

２人は…




まだまだ練習が必要そう。。。


そのあとは投球フォームの確認や素振りをして

明日からの合宿に備えることにした



▽


片付けが終わりみんなそれぞれ部屋に帰るのを見送って

私は室内練習場のボール磨きをすることにした

あ、これほつれてる…あとで部屋に持って帰って縫おう

この汚れとるのは力がいるなぁ

なんて集中していて気づかなかった



ぴと



『わ！』


「びっくりした？」


『は、春市くん！』


首筋に冷たいものが当たり驚いて振り替えると春市くんがいた


「まだやってたんだね…これどうぞ」

『わ、好きなやつ！ありがとう！』


春市くんはイチゴミルクのパックジュース差し入れてくれた

お昼休みによく飲んでるの覚えててくれたのかな


「もしかしていつも残って備品の掃除してるの？」

『いつもじゃないけどね
少しでもなにか力になりたくて』

「もう十分なってると思うよ」

『私ね、』

「うん」

『男の子に生まれたかったな』

「えっ？！(それは困るけど…)
どうして？」

『男の子だったらみんなと一緒に野球ができるのに
男の子だったら同じ目線で甲子園を目指せたのに…
なんちゃって、』


「翼ちゃん…」

『私が投げたって甲子園に行けるわけないんだけど、
あそこに行くためならなんだってしたいって思う
でも私にはそんな力もなければ資格すらないから』

「…」

『だからせめて、せめてみんなが怪我をしないで
練習に打ち込めるようにできることは全部したい』

「翼ちゃん、
僕たちはまだ３回もチャンスがあるね」

『う、うん』

「でも兄貴と一緒に甲子園に行けるのは今年だけ…
僕は今年に賭けたい
今年、甲子園に行くのは僕たちだ」

『春市くん…』

「それには翼ちゃんの力が必要なんだ
翼ちゃんの頑張る姿に応援されて僕たちも頑張れる
月並みなことしか言えないけど、
一緒に行こう…甲子園に！」

『一緒に……ありがとう！』

「//////
あ、明日から合宿だし
翼ちゃんも部屋に帰った方がいいよ！僕も手伝うから！！」


なぜだかすごく照れてる春市くん

まっすぐな言葉が素直に嬉しかった


『春市くん、合宿終わったら打ち上げしよっか！』

「いいね、それ！頑張れそう」

『約束だよー！』


さぁ明日からは地獄の合宿！

今まで以上に頑張らないと！



＿