紅の王編
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42【過去】
幼い私をひしぎの実験から連れ出したのは
先代"紅の王"だった
そして眼が覚めたときには
全てを失っていた
大好きな太陽みたいな温もりや
凍てつくような冷たい過去の記憶も
燃えるような紅い眼すらも
そのかわりなんでも手に入った
高級食材を使用した山盛りの美味しい食事
丁寧に刺繍を施された煌びやかな着物
豪華絢爛な住まいや家具
宝石をちりばめた装飾品
壁一杯の書物…
それらになんの価値も見い出だせなかった
私はただ、からっぽだったーーー
記憶を失ってからの私を気にかけ
先代様は私をよくお茶に誘ってくれた
表情も返事すらない私に
先代様は飽きることなく
論語の教えから他愛もない話、壬生の話など様々なことを語りかけていた
ある日のお茶会で私は珍しく口を開いた
私の存在理由はなにか、と
先代様は悲しげに微笑まれた
「翼、君には"紅の王"の妃となってもらいたい
本来なら当代の妃になってもらう予定だったのだけれど
少しおいたをしてしまってね
次の代が決まる、その時がくるまで
君はゆっくりしているといい」
『…』
「君は部屋と茶室と書庫しか立ち入ってないだろう?
斜陽殿の中を少し見回るといい」
『はい…』
からっぽの人形同然の私は自分の意志をもたなかった
先代様に言われたように紅の塔を見回ることにした
▽
廊下一つとってもまさに豪華絢爛という言葉がふさわしい
陽の光が反射してキラキラ輝いていた
特に感動するでもなく
ただ歩き続けているとちょっとした庭園があった
花は風に揺れ踊り
その周りを蝶が舞っていた
その場を離れ、
うってかわって少し薄暗いところへと来た
そこは大きな柵で覆われている牢だった
ふと気配を感じ中をのぞくと
温かな紅と眼があった
「やぁ、可愛いお客さんだね」
『…』
その人は紅い眼に紅い髪
そして牢に似合わない優しい笑顔の人だった
「君の名前は?」
『………翼』
「!!…そう、か」
名前を告げるとその人は悲しげに微笑んだ
その人は牢の手前まで歩いてきた
「ちょっとこっちにおいで?」
手招きをされた
おそるおそる近付くと柵から手を出し
そっと私の髪まで伸ばした
「もしかして今まで庭園にいたのかな?」
その人の手には花びらが乗っていた
風に飛ばされた花びらが私の髪についていたらしい
「きれいだね
花びら一枚だとしても
とても懐かしいよ」
『懐かしい?』
「あぁ、最後に庭園を歩いたのはずいぶんと前だからね」
『…』
悲しげな顔
でも私は特に理由を聞くでもなくその姿を見ていた
「あ、お客さんは君だけじゃなかったんだね」
『?』
私だけのはずだけど
辺りを見渡しても誰もいない
もう一度前を見ると
その人の手には蝶が止まっていた
「君についてきたんだね」
『…』
「わざわざ檻の中に入ってくるなんて物好きだね
君は自由に生きられるんだ
こんなところにいてはいけない
さぁ、お行き」
蝶は指から離れ
ヒラヒラと飛び立った
自由をもとめて
「翼、君も檻に囚われているのかな」
『檻…?私は別に…』
「じゃぁ自由、なのかな?」
『自由…
って、なに?』
その人はまた悲しげに微笑んだ
「それは君が持っていないものだよ」
『持っていない?』
「世界は広い
君はもっとそれを知るべきだね」
そういって私の頭を撫でた
トクン…
なぜだか胸が苦しくなった
あたたかい、
手の温度
その手を少しでも感じていたくて
私は瞳を閉じた
▽
私は毎日、気付けば
あの人のもとを訪れていた
「やあ、翼
今日は何か良い匂いがするね
これは香?」
『知らない…』
「君のために誰かが焚いたのかな」
『…』
「でも君には自然な匂いが合うと思うよ
私は斜陽殿の庭園にある沈丁花の花の匂いが好きなんだ
蕾は私の眼のように紅いのだけれど
開くと花は白く美しい」
髪を撫でるあたたかな手
この人が好きな花
好きな匂い
がらにもなく見に行きたいと思った
▽
「おや、この匂いはもしや…」
『あなたに、あげる…』
「沈丁花…採ってきてくれたの?
ありがとう、この匂い…
とっても嬉しいよ」
『…』
「翼にはやはり
香よりこの匂いが合っているよ」
その人は私の髪を耳にかけ
そこに私が渡した花の一つを差した
「うん、よく似合ってる
かわいいよ」
優しく頬笑む姿が頭から離れない
手の温度
心が、溶けてくみたい
▽
それから私は少しずつ
その人と話をすることが増えた
自由のない牢の中のその人のために
かわりに私は外の世界のことを見せてあげたいと思った
紅の塔から出ることが増え
遊庵とケイコクに出会った
庵家のみんなに出会った
大切な人、が増えた
私の世界が広がりどんどん色付いていった
「やあ、翼
久しぶりだね」
『あのね、ケイコクに教えてもらったの
とっても美味しい実があってね
たくさん採ってきたよ』
私は牢に近付きその人の手にたくさんの実を置いた
「おっと、こんなに…ありがとう
一緒に食べようか」
『うん!』
「その前に…」
『?』
「髪に葉っぱがついているよ
翼はずいぶんおてんばになったね」
『…』
「翼と初めて会ったときも
こんな風に髪につけていたね
私のことは気にせず君はもっと自由に羽ばたいてお行き」
あの時と変わらない笑顔だった
この人と一緒に世界が見れたらいいのに…
▽
それから私はケイコク…もといほたると一緒に鬼眼の狂を監視しに行くため
外の世界に出た
初めての外の世界
狂とほたると梵ちゃんとアキラと灯ちゃん
みんなと過ごす日々
やっとわかった
≪自由…って、なに?≫
≪それは君が持っていないものだよ≫
これが自由…だったんだね
▽
狂は突然四聖天を解散した
私はほたると壬生へ戻った
そしてほたるとは別に先代様に報告に向かった
久しぶりに会った先代様は
前と少し雰囲気が違う気がした
先代様は私に紅の塔から出ないようにと行った
それではほたるにも、みんなにも会えない
有無を言わさない眼差しの先代様に
私は頷くしかなかった
その足で久しぶりにあの人のもとへ向かった
『お久しぶりです』
「おや、翼また美しくなったね」
『あなたのその笑顔は変わりなく安心します』
「…元気がないみたいだけど」
『いえ…』
「君はまた…囚われているのかな」
『…!!』
「あの蝶のように自由に羽ばたける羽をもっているのに」
『自由…私には、ないよ…』
「(君を自由にしたい
ここにいさせてはいけない)
翼離れておいて」
『?』
その人は力を解放して牢を破壊した
そして私の手を引っ張って
腕に閉じ込めた
「君は自由になるべきだよ」
『っ…』
柵ごしではない温もり
目頭が熱くなった
「(チャンスは一度きり…
あの扉さえ開けることができれば
先代を葬ることができるはずーー!!
そしたら翼は自由に…)」
『あの、』
「こっちだ」
私の手を握りその人は走り出した
そこは立ち入ることを禁じられていた「扉」の前
そこに髪を結い刀を持った人が現れた
その眼は光を宿しておらず…自由のない、すべてを諦めた私と同じ眼だ
「…君は」
「お戻りください
でないと…お命を頂きます
"紅の王"…」
『えっ…!?あなたが…
当代の"紅の王"…?
私が妃になる予定だった人…』
「まさか、ここでばれるとはね…
隠していた訳じゃなかったんだけど
参ったな…
引くわけにはいかないし
君とも闘えないよ…」
「…何を言っているのですか?」
「だってそうだろ?
君は…やさしい子だし
私の兄弟だからね」
「…何を」
「心が壊れてしまったのかい?
それまでにどれだけ大きな葛藤があったか
でも…
何があっても私にとっての京四郎は
アリの道を作っていたあのやさしい京四郎なんだよ」
「…ボクが"善"であなたが"悪"である以外
何があるというのですか」
「…本当にそう思うなら私を斬るといい…
それで君が本当の心をが取り戻せるなら本望だ
どのみち…私の命はもう長くない…」
『えっ…?』
「…「死の病」だよ
私もまた…君と同じ「紅十字」の四守護士なんだ
三番目のね」
「…あなたが…!?」
「だから私自身もまた先代"紅の王"に逆らうことはできない
できることは神に対抗できる"力"を後生に残し
扉を開くことだけ
でも君は私達とは違う
もしかしたら…君なら
絶望の未来を希望の未来へ
変えることができるかもしれない…
そのためならこの命…喜んで捧げよう…」
『紅の王…』
「…何をバカな…」
「信じているんだよ君をーーー…」
紅の王は私の手を離し京四郎という人のもとへ向かった
そして紅の王は
斬られた
ザン
「先代に逆らいし者には"死"をーー…」
『いや、』
紅の王に駆け寄り手を握る
斬られた場所は首
たすからない、
「…さよならだ 京四郎…
強く…生き…ろ…」
『あかの、お…』
「すまない…翼…
どうか…しあわせに……いきて…」
涙でかすむ
もっと、一緒に…
一緒に生きて…
「君は次の"紅の王"の妃…
ここにいてはいけない」
肩を掴み後ろから引っ張られた
紅の王から手が離れた
もう離れたくないのに
『やだ…』
必死に手を伸ばした
やっとの思いで紅の王の手に触れると
あたたかい、光が私を包んだ
光のせいで紅の王の姿が見えなくなった
『あか、の…お』
紅の王は最後の力を振り絞り
私を壬生の外の山奥の家の前に飛ばした
『…だれか……たすけ、て……』
私はあの人の
血を吐きながら微笑んだ顔を最後に
村正様によって記憶を封印された
_
幼い私をひしぎの実験から連れ出したのは
先代"紅の王"だった
そして眼が覚めたときには
全てを失っていた
大好きな太陽みたいな温もりや
凍てつくような冷たい過去の記憶も
燃えるような紅い眼すらも
そのかわりなんでも手に入った
高級食材を使用した山盛りの美味しい食事
丁寧に刺繍を施された煌びやかな着物
豪華絢爛な住まいや家具
宝石をちりばめた装飾品
壁一杯の書物…
それらになんの価値も見い出だせなかった
私はただ、からっぽだったーーー
記憶を失ってからの私を気にかけ
先代様は私をよくお茶に誘ってくれた
表情も返事すらない私に
先代様は飽きることなく
論語の教えから他愛もない話、壬生の話など様々なことを語りかけていた
ある日のお茶会で私は珍しく口を開いた
私の存在理由はなにか、と
先代様は悲しげに微笑まれた
「翼、君には"紅の王"の妃となってもらいたい
本来なら当代の妃になってもらう予定だったのだけれど
少しおいたをしてしまってね
次の代が決まる、その時がくるまで
君はゆっくりしているといい」
『…』
「君は部屋と茶室と書庫しか立ち入ってないだろう?
斜陽殿の中を少し見回るといい」
『はい…』
からっぽの人形同然の私は自分の意志をもたなかった
先代様に言われたように紅の塔を見回ることにした
▽
廊下一つとってもまさに豪華絢爛という言葉がふさわしい
陽の光が反射してキラキラ輝いていた
特に感動するでもなく
ただ歩き続けているとちょっとした庭園があった
花は風に揺れ踊り
その周りを蝶が舞っていた
その場を離れ、
うってかわって少し薄暗いところへと来た
そこは大きな柵で覆われている牢だった
ふと気配を感じ中をのぞくと
温かな紅と眼があった
「やぁ、可愛いお客さんだね」
『…』
その人は紅い眼に紅い髪
そして牢に似合わない優しい笑顔の人だった
「君の名前は?」
『………翼』
「!!…そう、か」
名前を告げるとその人は悲しげに微笑んだ
その人は牢の手前まで歩いてきた
「ちょっとこっちにおいで?」
手招きをされた
おそるおそる近付くと柵から手を出し
そっと私の髪まで伸ばした
「もしかして今まで庭園にいたのかな?」
その人の手には花びらが乗っていた
風に飛ばされた花びらが私の髪についていたらしい
「きれいだね
花びら一枚だとしても
とても懐かしいよ」
『懐かしい?』
「あぁ、最後に庭園を歩いたのはずいぶんと前だからね」
『…』
悲しげな顔
でも私は特に理由を聞くでもなくその姿を見ていた
「あ、お客さんは君だけじゃなかったんだね」
『?』
私だけのはずだけど
辺りを見渡しても誰もいない
もう一度前を見ると
その人の手には蝶が止まっていた
「君についてきたんだね」
『…』
「わざわざ檻の中に入ってくるなんて物好きだね
君は自由に生きられるんだ
こんなところにいてはいけない
さぁ、お行き」
蝶は指から離れ
ヒラヒラと飛び立った
自由をもとめて
「翼、君も檻に囚われているのかな」
『檻…?私は別に…』
「じゃぁ自由、なのかな?」
『自由…
って、なに?』
その人はまた悲しげに微笑んだ
「それは君が持っていないものだよ」
『持っていない?』
「世界は広い
君はもっとそれを知るべきだね」
そういって私の頭を撫でた
トクン…
なぜだか胸が苦しくなった
あたたかい、
手の温度
その手を少しでも感じていたくて
私は瞳を閉じた
▽
私は毎日、気付けば
あの人のもとを訪れていた
「やあ、翼
今日は何か良い匂いがするね
これは香?」
『知らない…』
「君のために誰かが焚いたのかな」
『…』
「でも君には自然な匂いが合うと思うよ
私は斜陽殿の庭園にある沈丁花の花の匂いが好きなんだ
蕾は私の眼のように紅いのだけれど
開くと花は白く美しい」
髪を撫でるあたたかな手
この人が好きな花
好きな匂い
がらにもなく見に行きたいと思った
▽
「おや、この匂いはもしや…」
『あなたに、あげる…』
「沈丁花…採ってきてくれたの?
ありがとう、この匂い…
とっても嬉しいよ」
『…』
「翼にはやはり
香よりこの匂いが合っているよ」
その人は私の髪を耳にかけ
そこに私が渡した花の一つを差した
「うん、よく似合ってる
かわいいよ」
優しく頬笑む姿が頭から離れない
手の温度
心が、溶けてくみたい
▽
それから私は少しずつ
その人と話をすることが増えた
自由のない牢の中のその人のために
かわりに私は外の世界のことを見せてあげたいと思った
紅の塔から出ることが増え
遊庵とケイコクに出会った
庵家のみんなに出会った
大切な人、が増えた
私の世界が広がりどんどん色付いていった
「やあ、翼
久しぶりだね」
『あのね、ケイコクに教えてもらったの
とっても美味しい実があってね
たくさん採ってきたよ』
私は牢に近付きその人の手にたくさんの実を置いた
「おっと、こんなに…ありがとう
一緒に食べようか」
『うん!』
「その前に…」
『?』
「髪に葉っぱがついているよ
翼はずいぶんおてんばになったね」
『…』
「翼と初めて会ったときも
こんな風に髪につけていたね
私のことは気にせず君はもっと自由に羽ばたいてお行き」
あの時と変わらない笑顔だった
この人と一緒に世界が見れたらいいのに…
▽
それから私はケイコク…もといほたると一緒に鬼眼の狂を監視しに行くため
外の世界に出た
初めての外の世界
狂とほたると梵ちゃんとアキラと灯ちゃん
みんなと過ごす日々
やっとわかった
≪自由…って、なに?≫
≪それは君が持っていないものだよ≫
これが自由…だったんだね
▽
狂は突然四聖天を解散した
私はほたると壬生へ戻った
そしてほたるとは別に先代様に報告に向かった
久しぶりに会った先代様は
前と少し雰囲気が違う気がした
先代様は私に紅の塔から出ないようにと行った
それではほたるにも、みんなにも会えない
有無を言わさない眼差しの先代様に
私は頷くしかなかった
その足で久しぶりにあの人のもとへ向かった
『お久しぶりです』
「おや、翼また美しくなったね」
『あなたのその笑顔は変わりなく安心します』
「…元気がないみたいだけど」
『いえ…』
「君はまた…囚われているのかな」
『…!!』
「あの蝶のように自由に羽ばたける羽をもっているのに」
『自由…私には、ないよ…』
「(君を自由にしたい
ここにいさせてはいけない)
翼離れておいて」
『?』
その人は力を解放して牢を破壊した
そして私の手を引っ張って
腕に閉じ込めた
「君は自由になるべきだよ」
『っ…』
柵ごしではない温もり
目頭が熱くなった
「(チャンスは一度きり…
あの扉さえ開けることができれば
先代を葬ることができるはずーー!!
そしたら翼は自由に…)」
『あの、』
「こっちだ」
私の手を握りその人は走り出した
そこは立ち入ることを禁じられていた「扉」の前
そこに髪を結い刀を持った人が現れた
その眼は光を宿しておらず…自由のない、すべてを諦めた私と同じ眼だ
「…君は」
「お戻りください
でないと…お命を頂きます
"紅の王"…」
『えっ…!?あなたが…
当代の"紅の王"…?
私が妃になる予定だった人…』
「まさか、ここでばれるとはね…
隠していた訳じゃなかったんだけど
参ったな…
引くわけにはいかないし
君とも闘えないよ…」
「…何を言っているのですか?」
「だってそうだろ?
君は…やさしい子だし
私の兄弟だからね」
「…何を」
「心が壊れてしまったのかい?
それまでにどれだけ大きな葛藤があったか
でも…
何があっても私にとっての京四郎は
アリの道を作っていたあのやさしい京四郎なんだよ」
「…ボクが"善"であなたが"悪"である以外
何があるというのですか」
「…本当にそう思うなら私を斬るといい…
それで君が本当の心をが取り戻せるなら本望だ
どのみち…私の命はもう長くない…」
『えっ…?』
「…「死の病」だよ
私もまた…君と同じ「紅十字」の四守護士なんだ
三番目のね」
「…あなたが…!?」
「だから私自身もまた先代"紅の王"に逆らうことはできない
できることは神に対抗できる"力"を後生に残し
扉を開くことだけ
でも君は私達とは違う
もしかしたら…君なら
絶望の未来を希望の未来へ
変えることができるかもしれない…
そのためならこの命…喜んで捧げよう…」
『紅の王…』
「…何をバカな…」
「信じているんだよ君をーーー…」
紅の王は私の手を離し京四郎という人のもとへ向かった
そして紅の王は
斬られた
ザン
「先代に逆らいし者には"死"をーー…」
『いや、』
紅の王に駆け寄り手を握る
斬られた場所は首
たすからない、
「…さよならだ 京四郎…
強く…生き…ろ…」
『あかの、お…』
「すまない…翼…
どうか…しあわせに……いきて…」
涙でかすむ
もっと、一緒に…
一緒に生きて…
「君は次の"紅の王"の妃…
ここにいてはいけない」
肩を掴み後ろから引っ張られた
紅の王から手が離れた
もう離れたくないのに
『やだ…』
必死に手を伸ばした
やっとの思いで紅の王の手に触れると
あたたかい、光が私を包んだ
光のせいで紅の王の姿が見えなくなった
『あか、の…お』
紅の王は最後の力を振り絞り
私を壬生の外の山奥の家の前に飛ばした
『…だれか……たすけ、て……』
私はあの人の
血を吐きながら微笑んだ顔を最後に
村正様によって記憶を封印された
_