太四老編
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39【No.13】
最後は吹雪の居城
和風のきらびやかな屋敷
とても静か…
誰もいないかと思われたとき
障子越しに影が見えた
切られた障子の向こうに見えたのは
太四老・吹雪とひしぎ
「鬼眼の狂…
よくここまでやって来たな
ほめてやろう
だが先代は動かれた…
キサマはもはや我が一族にとって不用の存在
お前の軀をもった壬生京四郎を
世継ぎと決められたのだ」
『…』
「新たな時代への幕は上がった…
先代のもと 新"紅の王"とともに
壬生一族はさらに輝きを増し
世の頂点で栄華を極めるのだ…!!」
「翼…」
『…!?』
一気に緊張が走った
私の名を呼んだひしぎを見ると
私に手を差し出していた
「あなたはこちらへ」
『嫌です…!』
「先代がお待ちです」
『あなたとは、行きません…』
「手荒な方がいいですか?以前のように…」
『!!!』
気付けば至近距離にいた冷たいまなざし
ドクンッ
『っ…ぁ……』
冷や汗が流れた
私はこの眼が…こわくて、たまらなかった…
▽
だいすきなたいはくといっしょがよかった
ひしぎが"みぶのため"って
おおきなおうちにおよばれした
そこにはしろいもっさりしたひとがいた
「こいつか…」
「えぇ…"紅き眼"の子どもです」
「稀少種ではないのか」
「この子は違います…
どこから来たのかも分からないと…」
「なら先祖がえりか?」
「この歳の子どもでの先祖がえりは例がありません
ましてや気が高ぶっている訳でなく常時となると…」
「先代と鬼の子しか思い付かんな」
「この子を調べれば壬生再臨計画が大幅に進むかもしれません」
「役に立つのか?」
はなしがおわるとひしぎは
わたしをだいのうえにのせてうごけなくした
それからうでにかたなをおしあてた
じわりとちがにじんだ
『いたぃょ…』
「これも壬生再臨計画のため…」
『たいはく…たすけて…』
「あなたにはまだしたい実験があります
準備を、No.13」
「あぁ…」
たいはくに、あいたい
▽
みぶのため、はなかなかおわらなかった
「今日は治癒力を見ます」
わたしとおなじくらいであたまにつのがあるおとこのこがつれてこられた
わたしとおとこのこはろーぷでくくられてうごけなくなった
おとこのこのうごかないうでにひしぎは
かたなをおしあてた
ちが、でてる
「ぎゃぁぁいたいよぉぉ」
『っ…!!』
「次はあなたです」
『いや…』
プシッ
わたしのうでからもちがながれてる
ついでにってわたしのあしをりょうてでもって
まげた
『いやああぁぁぁぁぁ』
おなじいやなおとがとなりからもきこえた
「No.13、サンプルとしてとれるものはすべてとっておいてください」
「…あぁ…わかった…」
いたくてあとのことはおぼえてない
▽
わたし、だれにあいたかったんだっけ
おひさまみたいにあったかくて、
おひさまってどんなだっけ
ここはさむくてくらくて、さみしい
ひしぎがひとをつれてきた
「どうだ?ひしぎ」
「この眼といい血といい、この子には興味がつきませんよ」
「血?」
「えぇ、この子の血には私たちにはない成分や数値が見られました
この血を実験に使うことで壬生再臨計画はさらに進むでしょう」
「そうか」
「そのためにはまだまだ血が必要ですが」
「余り取りすぎると死にかねない
血が溜まるまで吊っておけ」
「あまり手荒なことは好まないのですが」
「すべては壬生再臨計画のため…」
またろーぷでてをくくられて
ちゅうぶらりんなわたし
あしにちっちゃいつつをさされた
ちがすこしずつあしをつたっていく
いたい…さむい…
なみだがでてきた
なみだがちのなかにまじると
すこし、ひかった
まわりのひとがざわざわしはじめた
それからはなみだもあつめると
あついのをうでにぎゅってされることもあった
まいにち、みるのは
あかいちと
ひしぎのつめたいめ
▽
『はぁ…はぁ……』
自分を抱き締めるようにしてうずくまる翼を
近くにいた遊庵が支えた
顔色が悪い翼を見て
遊庵は眉を潜めた
「おい、翼!」
『いや…』
「オレだ、よく見ろ!」
『ゆん、ゆん…?』
「お前、思い出したのか?」
返事のかわりに翼は遊庵へと抱き着いた
その姿をひしぎは冷たい眼で見続けた
「おや、あなたの記憶はあの時、翼に実験を行うことを中止した先代が
あなたの紅い眼とともに封印したはずですが…」
「翼の記憶…?」
「どういうこと?ゆんゆんは知ってるの?」
「あぁ…昔翼の暴走を止めようと幻視蒼をかけたときに見たんだ、記憶を…」
『…』
「…っ」
「翼の?どんな…?」
「ひしぎに実験のためだってまだ幼いガキだってのに
はりつけにされて血を採られたり泣かされたりしてたんだよ」
「なっ!!!そんなことが…バカな!!」
怒りをあらわにする狂一行の中で
灯の顔が青ざめていった
「貴方のお陰で稀少種もでき、実験は更に加速しましたよ」
「どうやらてめぇらを斃さなきゃならねぇ理由がもう一つ増えたようだな…」
「さすがのお前らでもこの数の差では
ただじゃすまねぇぜ」
「…遊庵 数など無意味
必要なのは…切り札の駒は必要な時まで盤上に出さず
温存しておくということです」
ひしぎが手をかざしたとき
遊庵と寿里庵が背後から攻撃された
『ゆんゆん!!』
「…みなさんにお初にお目にかけるので
ご紹介しましょう
本人たっての希望で"悪魔の眼"を一つ私から譲り受けた私の[仲間]
私…太四老・ひしぎの近衛隊長
最上の法力と最強の剣術を操りしNo.13…
御手洗灯吉郎です」
誰もが言葉を失った
灯の左手にある"悪魔の眼"から剣が伸び
その瞳には光を灯していなかった
『あ、灯ちゃん…?』
「灯ちゃん…ちょっと
なにやってんの?」
「ほたる!!」
ほたるが灯に近寄ると攻撃をされた
その動きは速く、切り口は石化していた
ひしぎは灯について語り始めた
「"悪魔の眼"の封印を解いたのです
"悪魔の眼"は見たものすべてを灰と化す…
それによって創り出された刀もまた
斬ったものを石に そしてやがて灰へと変えていくのです」
「てめえ…!!」
「灯はもともと強力な法力の持ち主…
私の教えこんだ剣術も兼ね備え
"悪魔の眼"の触媒として申し分ありません」
「し…触媒だあ!?」
「…そう
栄養豊富な土に種をまけば立派な華が咲くように
"悪魔の眼"もまたNo.13の左腕から徐々に養分を取り込み
やがて魂まで喰い尽くす
そしてその"眼"が完全に開き
"眼"自身が意志を持った時
最強の殺戮兵器[阿修羅]が誕生するのです…」
"悪魔の眼"からでてきた石に覆われた灯は
姿を変え髪は短く服装も変わっていた
『灯ちゃん…』
「…期待してますよ
あなたは私の「仲間」なのですから…ね No.13
いえ…「阿修羅」」
「灯ちゃん」
『目を覚まして!灯ちゃん…!』
灯に近付こうとする翼の腕を狂がつかんで引き留めた
「無駄です」
『そんなことない!灯ちゃんはこんな"眼"に負けない!!』
「なぜ、負けたと思いますか?」
『え…?』
「強固な意志を持っていればあるいは
"悪魔の眼"に抗う可能性があったかもしれません」
「…」
「ですが、思い出してしまったのでしょう?
…No.13、そうあなたの仲間である"灯"が
あなたの実験に参加していたことを…」
『…っ!!』
「!!」
「灯ちゃんが…?翼の…?」
「あなたが思い出したことで心が揺れたのでしょう
"悪魔の眼"に支配されてしまうほどに」
『そ、そんな…』
「そういえば灯ちゃん…初めて逢ったとき
翼見て驚いてたね…」
「あなたもどう思いましたか?
信じていた仲間がかつて自分にしてきたことを思い出して」
『…っ!!』
狂が掴んでいる翼の腕が微かに震えた
狂はその腕を強く握り、遊庵の方へと押し
灯に対峙した
「お前は黙ってみてろ」
『き、狂…』
「…なあ 灯
まさかお前とこうやって刀を交える日がくるとはよ…
…だが四聖天の中で唯一オレ様に
キバをむくことのなかったお前だ…
一生に一度くらい相手してやんぜ…!!」
狂と灯が刀を向け合う中
屋敷の庭では辰怜と吹雪の闘いが始まろうとしていた
辰怜が技を放つと
いともたやすく技をはね除け
辰怜の背後にまわりひしぎが攻撃を仕掛けた
邪魔をさせないとでてきたほたるも
ひしぎが軽く背後にまわり刀を振りおろした
それを遊庵が間に入り刀を受け止めた
こうして辰怜と吹雪
遊庵とひしぎの闘いが始まった
▽
灯ちゃんはシャーマンだから戦闘のプロじゃない
本来は後方支援をすることが多い
それなのに左手は自由自在に形を変えて狂を吹き飛ばした
背後に回った狂に後ろを振り向くことなく
床に突き刺した左手が形を変えて
様々な方向から狂を攻撃し
攻撃が当たったところが石化した
灯ちゃんは、普段からたまに眠らないときがあった
私たちといくら楽しく過ごしても
このときが夢なんじゃないかと
覚めてしまうのが嫌だからと…
この現状が灯ちゃんの現なのか…
そんな悲しいことはない
灯ちゃんが何か唱え始め、技を繰り出そうとしたとき、
ほたるが外に目を向けた
「 翼、オレちょっと行ってくる」
『ほたる?』
「灯ちゃんのこと、お願いね」
「うん、ほたるも気を付けて…」
ほたるは私の頭を軽く撫でて外に向かった
辰怜のことも気がかりだった
今まで師と仰ぎ尊敬していた吹雪との対決
ほたるが行ってくれるなら少し安心…
少しほたるの向かう方に目を向けたとき
灯ちゃんが技を放った
「飛石爆速波[コア・ハイ・クラッシュ]」
すさまじい速さで狂に向かっていった
狂は避けることなく灯ちゃんに立ち向かい
「無明神風流奥義「玄武」…」
狂から神風が吹き灯ちゃんの攻撃を止めた
「お前も抱かれただろう
天地[玄武]の大気[腕]に」
玄武…完全絶対防御拘束業で灯ちゃんの動きを封じた
その間に"悪魔の眼"を灯ちゃんに授けたひしぎを倒しに行こうと
狂が後ろを向いた瞬間
灯ちゃんは右手で攻撃をした
みるみるうちに"悪魔の眼"は灯ちゃんの全身へと広がっていく
「この触媒は見も心も"悪魔の眼"に喰われることを認め受け入れ始めた…
まもなく「アシュラ」は完成する…」
灯ちゃんが、認めてるの…?
「さあ…弱き生物達よ
わが開眼の刻を祝えーーー!!」
狂を吹き飛ばした灯ちゃんの"悪魔の眼"は開きかけている
狂が吹き飛んだ先にいたひしぎは
"悪魔の眼"を斃すには開眼した"悪魔の眼"を灯ちゃんに見せればいいと言い出した
そんなことしたら灯ちゃんが…
できるはずがない
何かいい方法は…
すると灯ちゃんは狂に"吸気啌[エア・ヴァンプ]"を使った
狂は攻撃を受けても歩みを止めず
灯ちゃんの腕を掴んだ
「…何勝手にあきらめてやがんだ灯…
こんな"眼"がなんだっつーんだよ
オレはお前が気に入ったっつってんだろーが!!
お前はだまってオレ達と「仲間」やってりゃそれでいーんだよ!!」
狂の言葉で灯ちゃんが意志を取り戻した
「…ごめんね狂ーー
やっぱり狂は狂だ…
現実を知っても初めて会った時と何一つ変わらない…
目が覚めたのにまだ夢を見ているみたいだよ…」
「灯…」
そう告げて灯ちゃんは"悪魔の眼"を自分に向けた
すると狂はその手を取り自分に向け
天狼を"悪魔の眼"にかざし
鏡にして反射させ灰化させた
「てめえはさっさと灯ん中から出ていきやがれーー!!」
"悪魔の眼"を斬ると灯ちゃんの手から"悪魔の眼"が消滅した
灯ちゃんは元の姿に戻った
石化がとけたかわりに狂は身体中から血が出ていた
「狂ーー!!
私のために…私のかわりにこんなことになっちまって…
現実が怖くて…
あきらめたフリしてたんだ…
「仲間」のことは大切な夢なのに…」
「灯…」
「夢は見ようとしなくなったら終わりだ…
大切にするよ もうあきらめたりしない…!!」
「…ふざけんな 灯
そんなくだらねえ夢いつまでも見てんじゃねーよ」
「狂!?」
「儚い夢!?しらねーな…
そんな夢捨てちまえ
お前が儚い夢だと思っているオレ達とのことはよ…
どれ一つ取ったってれっきとした現実じゃねーか
勝手に夢なんかで終わらせてんじゃねえよ
灯…」
『灯ちゃん…』
名前を呼ぶと灯ちゃんは一瞬固まった
『灯ちゃんに言いたいことがあるの』
「翼…あの…」
『もう私たちから離れて勝手にあきらめたりなんてしないで…』
「……」
『私、灯ちゃんのことが大好きだよ
一緒にいてほしいの』
「…でも、私のこと…恨んでないのかい?」
『灯ちゃん、大事なのは今、だよ
それに灯ちゃんの優しさ私はあの時から知ってたよ
たしかに痛くて辛かったけど
灯ちゃんの手当ては温かかったもの』
「 翼…」
『ほら言ったでしょ?どーでもいい、だよ!
それでも申し訳ないって思うならたくさん抱きしめて!』
「翼…!!」
『泣かないで、灯ちゃん
帰ってきてくれてありがとう』
私たちはお互いの存在を確かめ合うように抱きしめあった
_
最後は吹雪の居城
和風のきらびやかな屋敷
とても静か…
誰もいないかと思われたとき
障子越しに影が見えた
切られた障子の向こうに見えたのは
太四老・吹雪とひしぎ
「鬼眼の狂…
よくここまでやって来たな
ほめてやろう
だが先代は動かれた…
キサマはもはや我が一族にとって不用の存在
お前の軀をもった壬生京四郎を
世継ぎと決められたのだ」
『…』
「新たな時代への幕は上がった…
先代のもと 新"紅の王"とともに
壬生一族はさらに輝きを増し
世の頂点で栄華を極めるのだ…!!」
「翼…」
『…!?』
一気に緊張が走った
私の名を呼んだひしぎを見ると
私に手を差し出していた
「あなたはこちらへ」
『嫌です…!』
「先代がお待ちです」
『あなたとは、行きません…』
「手荒な方がいいですか?以前のように…」
『!!!』
気付けば至近距離にいた冷たいまなざし
ドクンッ
『っ…ぁ……』
冷や汗が流れた
私はこの眼が…こわくて、たまらなかった…
▽
だいすきなたいはくといっしょがよかった
ひしぎが"みぶのため"って
おおきなおうちにおよばれした
そこにはしろいもっさりしたひとがいた
「こいつか…」
「えぇ…"紅き眼"の子どもです」
「稀少種ではないのか」
「この子は違います…
どこから来たのかも分からないと…」
「なら先祖がえりか?」
「この歳の子どもでの先祖がえりは例がありません
ましてや気が高ぶっている訳でなく常時となると…」
「先代と鬼の子しか思い付かんな」
「この子を調べれば壬生再臨計画が大幅に進むかもしれません」
「役に立つのか?」
はなしがおわるとひしぎは
わたしをだいのうえにのせてうごけなくした
それからうでにかたなをおしあてた
じわりとちがにじんだ
『いたぃょ…』
「これも壬生再臨計画のため…」
『たいはく…たすけて…』
「あなたにはまだしたい実験があります
準備を、No.13」
「あぁ…」
たいはくに、あいたい
▽
みぶのため、はなかなかおわらなかった
「今日は治癒力を見ます」
わたしとおなじくらいであたまにつのがあるおとこのこがつれてこられた
わたしとおとこのこはろーぷでくくられてうごけなくなった
おとこのこのうごかないうでにひしぎは
かたなをおしあてた
ちが、でてる
「ぎゃぁぁいたいよぉぉ」
『っ…!!』
「次はあなたです」
『いや…』
プシッ
わたしのうでからもちがながれてる
ついでにってわたしのあしをりょうてでもって
まげた
『いやああぁぁぁぁぁ』
おなじいやなおとがとなりからもきこえた
「No.13、サンプルとしてとれるものはすべてとっておいてください」
「…あぁ…わかった…」
いたくてあとのことはおぼえてない
▽
わたし、だれにあいたかったんだっけ
おひさまみたいにあったかくて、
おひさまってどんなだっけ
ここはさむくてくらくて、さみしい
ひしぎがひとをつれてきた
「どうだ?ひしぎ」
「この眼といい血といい、この子には興味がつきませんよ」
「血?」
「えぇ、この子の血には私たちにはない成分や数値が見られました
この血を実験に使うことで壬生再臨計画はさらに進むでしょう」
「そうか」
「そのためにはまだまだ血が必要ですが」
「余り取りすぎると死にかねない
血が溜まるまで吊っておけ」
「あまり手荒なことは好まないのですが」
「すべては壬生再臨計画のため…」
またろーぷでてをくくられて
ちゅうぶらりんなわたし
あしにちっちゃいつつをさされた
ちがすこしずつあしをつたっていく
いたい…さむい…
なみだがでてきた
なみだがちのなかにまじると
すこし、ひかった
まわりのひとがざわざわしはじめた
それからはなみだもあつめると
あついのをうでにぎゅってされることもあった
まいにち、みるのは
あかいちと
ひしぎのつめたいめ
▽
『はぁ…はぁ……』
自分を抱き締めるようにしてうずくまる翼を
近くにいた遊庵が支えた
顔色が悪い翼を見て
遊庵は眉を潜めた
「おい、翼!」
『いや…』
「オレだ、よく見ろ!」
『ゆん、ゆん…?』
「お前、思い出したのか?」
返事のかわりに翼は遊庵へと抱き着いた
その姿をひしぎは冷たい眼で見続けた
「おや、あなたの記憶はあの時、翼に実験を行うことを中止した先代が
あなたの紅い眼とともに封印したはずですが…」
「翼の記憶…?」
「どういうこと?ゆんゆんは知ってるの?」
「あぁ…昔翼の暴走を止めようと幻視蒼をかけたときに見たんだ、記憶を…」
『…』
「…っ」
「翼の?どんな…?」
「ひしぎに実験のためだってまだ幼いガキだってのに
はりつけにされて血を採られたり泣かされたりしてたんだよ」
「なっ!!!そんなことが…バカな!!」
怒りをあらわにする狂一行の中で
灯の顔が青ざめていった
「貴方のお陰で稀少種もでき、実験は更に加速しましたよ」
「どうやらてめぇらを斃さなきゃならねぇ理由がもう一つ増えたようだな…」
「さすがのお前らでもこの数の差では
ただじゃすまねぇぜ」
「…遊庵 数など無意味
必要なのは…切り札の駒は必要な時まで盤上に出さず
温存しておくということです」
ひしぎが手をかざしたとき
遊庵と寿里庵が背後から攻撃された
『ゆんゆん!!』
「…みなさんにお初にお目にかけるので
ご紹介しましょう
本人たっての希望で"悪魔の眼"を一つ私から譲り受けた私の[仲間]
私…太四老・ひしぎの近衛隊長
最上の法力と最強の剣術を操りしNo.13…
御手洗灯吉郎です」
誰もが言葉を失った
灯の左手にある"悪魔の眼"から剣が伸び
その瞳には光を灯していなかった
『あ、灯ちゃん…?』
「灯ちゃん…ちょっと
なにやってんの?」
「ほたる!!」
ほたるが灯に近寄ると攻撃をされた
その動きは速く、切り口は石化していた
ひしぎは灯について語り始めた
「"悪魔の眼"の封印を解いたのです
"悪魔の眼"は見たものすべてを灰と化す…
それによって創り出された刀もまた
斬ったものを石に そしてやがて灰へと変えていくのです」
「てめえ…!!」
「灯はもともと強力な法力の持ち主…
私の教えこんだ剣術も兼ね備え
"悪魔の眼"の触媒として申し分ありません」
「し…触媒だあ!?」
「…そう
栄養豊富な土に種をまけば立派な華が咲くように
"悪魔の眼"もまたNo.13の左腕から徐々に養分を取り込み
やがて魂まで喰い尽くす
そしてその"眼"が完全に開き
"眼"自身が意志を持った時
最強の殺戮兵器[阿修羅]が誕生するのです…」
"悪魔の眼"からでてきた石に覆われた灯は
姿を変え髪は短く服装も変わっていた
『灯ちゃん…』
「…期待してますよ
あなたは私の「仲間」なのですから…ね No.13
いえ…「阿修羅」」
「灯ちゃん」
『目を覚まして!灯ちゃん…!』
灯に近付こうとする翼の腕を狂がつかんで引き留めた
「無駄です」
『そんなことない!灯ちゃんはこんな"眼"に負けない!!』
「なぜ、負けたと思いますか?」
『え…?』
「強固な意志を持っていればあるいは
"悪魔の眼"に抗う可能性があったかもしれません」
「…」
「ですが、思い出してしまったのでしょう?
…No.13、そうあなたの仲間である"灯"が
あなたの実験に参加していたことを…」
『…っ!!』
「!!」
「灯ちゃんが…?翼の…?」
「あなたが思い出したことで心が揺れたのでしょう
"悪魔の眼"に支配されてしまうほどに」
『そ、そんな…』
「そういえば灯ちゃん…初めて逢ったとき
翼見て驚いてたね…」
「あなたもどう思いましたか?
信じていた仲間がかつて自分にしてきたことを思い出して」
『…っ!!』
狂が掴んでいる翼の腕が微かに震えた
狂はその腕を強く握り、遊庵の方へと押し
灯に対峙した
「お前は黙ってみてろ」
『き、狂…』
「…なあ 灯
まさかお前とこうやって刀を交える日がくるとはよ…
…だが四聖天の中で唯一オレ様に
キバをむくことのなかったお前だ…
一生に一度くらい相手してやんぜ…!!」
狂と灯が刀を向け合う中
屋敷の庭では辰怜と吹雪の闘いが始まろうとしていた
辰怜が技を放つと
いともたやすく技をはね除け
辰怜の背後にまわりひしぎが攻撃を仕掛けた
邪魔をさせないとでてきたほたるも
ひしぎが軽く背後にまわり刀を振りおろした
それを遊庵が間に入り刀を受け止めた
こうして辰怜と吹雪
遊庵とひしぎの闘いが始まった
▽
灯ちゃんはシャーマンだから戦闘のプロじゃない
本来は後方支援をすることが多い
それなのに左手は自由自在に形を変えて狂を吹き飛ばした
背後に回った狂に後ろを振り向くことなく
床に突き刺した左手が形を変えて
様々な方向から狂を攻撃し
攻撃が当たったところが石化した
灯ちゃんは、普段からたまに眠らないときがあった
私たちといくら楽しく過ごしても
このときが夢なんじゃないかと
覚めてしまうのが嫌だからと…
この現状が灯ちゃんの現なのか…
そんな悲しいことはない
灯ちゃんが何か唱え始め、技を繰り出そうとしたとき、
ほたるが外に目を向けた
「 翼、オレちょっと行ってくる」
『ほたる?』
「灯ちゃんのこと、お願いね」
「うん、ほたるも気を付けて…」
ほたるは私の頭を軽く撫でて外に向かった
辰怜のことも気がかりだった
今まで師と仰ぎ尊敬していた吹雪との対決
ほたるが行ってくれるなら少し安心…
少しほたるの向かう方に目を向けたとき
灯ちゃんが技を放った
「飛石爆速波[コア・ハイ・クラッシュ]」
すさまじい速さで狂に向かっていった
狂は避けることなく灯ちゃんに立ち向かい
「無明神風流奥義「玄武」…」
狂から神風が吹き灯ちゃんの攻撃を止めた
「お前も抱かれただろう
天地[玄武]の大気[腕]に」
玄武…完全絶対防御拘束業で灯ちゃんの動きを封じた
その間に"悪魔の眼"を灯ちゃんに授けたひしぎを倒しに行こうと
狂が後ろを向いた瞬間
灯ちゃんは右手で攻撃をした
みるみるうちに"悪魔の眼"は灯ちゃんの全身へと広がっていく
「この触媒は見も心も"悪魔の眼"に喰われることを認め受け入れ始めた…
まもなく「アシュラ」は完成する…」
灯ちゃんが、認めてるの…?
「さあ…弱き生物達よ
わが開眼の刻を祝えーーー!!」
狂を吹き飛ばした灯ちゃんの"悪魔の眼"は開きかけている
狂が吹き飛んだ先にいたひしぎは
"悪魔の眼"を斃すには開眼した"悪魔の眼"を灯ちゃんに見せればいいと言い出した
そんなことしたら灯ちゃんが…
できるはずがない
何かいい方法は…
すると灯ちゃんは狂に"吸気啌[エア・ヴァンプ]"を使った
狂は攻撃を受けても歩みを止めず
灯ちゃんの腕を掴んだ
「…何勝手にあきらめてやがんだ灯…
こんな"眼"がなんだっつーんだよ
オレはお前が気に入ったっつってんだろーが!!
お前はだまってオレ達と「仲間」やってりゃそれでいーんだよ!!」
狂の言葉で灯ちゃんが意志を取り戻した
「…ごめんね狂ーー
やっぱり狂は狂だ…
現実を知っても初めて会った時と何一つ変わらない…
目が覚めたのにまだ夢を見ているみたいだよ…」
「灯…」
そう告げて灯ちゃんは"悪魔の眼"を自分に向けた
すると狂はその手を取り自分に向け
天狼を"悪魔の眼"にかざし
鏡にして反射させ灰化させた
「てめえはさっさと灯ん中から出ていきやがれーー!!」
"悪魔の眼"を斬ると灯ちゃんの手から"悪魔の眼"が消滅した
灯ちゃんは元の姿に戻った
石化がとけたかわりに狂は身体中から血が出ていた
「狂ーー!!
私のために…私のかわりにこんなことになっちまって…
現実が怖くて…
あきらめたフリしてたんだ…
「仲間」のことは大切な夢なのに…」
「灯…」
「夢は見ようとしなくなったら終わりだ…
大切にするよ もうあきらめたりしない…!!」
「…ふざけんな 灯
そんなくだらねえ夢いつまでも見てんじゃねーよ」
「狂!?」
「儚い夢!?しらねーな…
そんな夢捨てちまえ
お前が儚い夢だと思っているオレ達とのことはよ…
どれ一つ取ったってれっきとした現実じゃねーか
勝手に夢なんかで終わらせてんじゃねえよ
灯…」
『灯ちゃん…』
名前を呼ぶと灯ちゃんは一瞬固まった
『灯ちゃんに言いたいことがあるの』
「翼…あの…」
『もう私たちから離れて勝手にあきらめたりなんてしないで…』
「……」
『私、灯ちゃんのことが大好きだよ
一緒にいてほしいの』
「…でも、私のこと…恨んでないのかい?」
『灯ちゃん、大事なのは今、だよ
それに灯ちゃんの優しさ私はあの時から知ってたよ
たしかに痛くて辛かったけど
灯ちゃんの手当ては温かかったもの』
「 翼…」
『ほら言ったでしょ?どーでもいい、だよ!
それでも申し訳ないって思うならたくさん抱きしめて!』
「翼…!!」
『泣かないで、灯ちゃん
帰ってきてくれてありがとう』
私たちはお互いの存在を確かめ合うように抱きしめあった
_