太四老編
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35【遊庵】
ほたると遊庵との闘いは道場で行われることになった
ほたるも私もここで遊庵にたくさん鍛えてもらった
"色即是空"の文字も傷の一つ一つも懐かしい
2人の手合わせはたくさん見てきた
この気迫はお互いがいつもとは違う
ほたるが望んでいた師である遊庵との闘い
しっかり見届けよう
▽
どんな攻撃もするりとかわす遊庵に
ほたるは必殺技を五連弾で繰り出した
まったくスキのない遊庵には傷1つつけられなかった
微かな気配を感じ後ろを振り向くと
『辰伶…?』
「あ!シンレイだ!」
「何やってんのそんなトコで!?」
「あ、わかった!ケイコクが心配で見に来たんだ!」
「ち…ちが…オレは…」
「はずかしがんなよ!こっちきて一緒に応援しようぜ!!」
「シンレイやさしー」
「ほらはやく!」
「は…はなせ!誰がアイツの応援など…」
「じゃぁ何しに来たんだよ」
「敵情視察だ…!
太四老と名乗る者の真の実力と
ケイコクの秘密を知るために戻ってきただけだ」
『なんだかんだ言ってもお兄ちゃんだしね』
「なっ!!そんなのではない!!」
『はいはい、』
辰伶をからかうのをやめてほたるたちに目を向けた
ほたるは闘いの中でいつもと違う動きをしてる…
あれは辰伶の"型"…ほたるはよく見てるな
それからトラさん、アキラ、幸村さん、そして狂…
今までの闘いからいろんなモノを吸収してる…
"型"のない自由なほたるらしい闘い方…
最後は特大の炎を出した
でも遊庵に炎は効かなかった
本気を出し始めた遊庵にほたるはなすすべもなく攻撃を受けた
悲痛な声に耳を塞ぎたくなった
でもほたるの闘いを最後までみとどけなきゃ…
庵家のみんなは遊庵に闘いを止めるように言った
でも遊庵は理不尽を恨むより
だれよりも"強く"あることが生き残るのに必要だと言った
ほたるは立ち上がり遊庵に間違いだと告げた
真の"強さ"は"独り"だけじゃ得られないーー
狂との闘いでほたるが気付いた大事なこと
その言葉がほたるをどんどん強くしていく
再びぶつかり合う2人
ほたるは焔血化粧を使った
「オレはもう"独り"じゃない…
守りたいものがある…だから…
もっともっと"強く"なるーー!!」
「そうか…だったらーー死ね」
ゴッ
「…知ってるだろう?
力のねえ奴の言葉なんて何の説得力もねーってことをよ
あばよ…"ケイコク"…」
ほたるが動かなくなった
攻撃を喰らったように見えなかった
「…いったい何がどうなっているんだ?!」
「まさかアニキの奴あの技を…!?」
「いくらなんでもそこまでアニキがするワケが…」
「…何だ!?お前たち何を言って…」
「ごちそーさん
ケイコクの魂は喰っちまった
これでこいつは終わり…だな」
「た…魂を喰っただと!?」
「シンレイ…これが太四老の力"幻視蒼"だ…
オレは"魂喰い"
"心眼"で心の中に侵入し魂を喰いつぶすことで
精神を破壊できるのさ」
「精神を破壊するだと…!?」
「つまりよ…
今ケイコクの魂はオレに自分の胸が貫かれ死んだと認識した
肉体は無キズでも中身の魂は死んじまったのさ
今のこいつは生ける屍だ…」
『ほた…る…?』
「愛弟子のこんな姿を長く見るのも忍びねえ
ここは師匠様からの餞として…
きっちり肉体も破壊してやるぜーー!!」
遊庵の攻撃を止めたのは庵曽新だった
庵家のみんなが止めに入るも遊庵には響かなかった
そんな声が少しずつ遠くなっていく
身体が、動かない
声も出ない…
焔血化粧のため身体が発火していくほたる
いかないで…
『ぃゃ……』
そこで翼の意識は途絶えた
▽
辰伶がほたるに水を被せ目を覚ますよう声をかけたとき
隣で聞こえた微かな翼の声とともに
一瞬にして息が苦しくなった
「な、なにがっ……」
「息、できないっ…」
「たすけ、」
その場にいた全員が苦しみ出した
「(酸素がなくなった…?)」
遊庵は前にも似たような事があったと思い巡らしていると
翼が視界に入った
虚ろな表情で遠くを見ている翼
まがまがしいオーラを身に纏って
「!!(力が暴走している…)」
それは過去に翼と初めて出逢ったときのことだった
▽
当時、ボロ小屋の前でケイコクと遊庵が稽古をしていた
刀を持ったケイコクが遊庵に向かう
遊庵は軽く交わしていく
「脇が甘い!こっちががら空きだぜ?」
「くっ!」
それは突然の出来事だった
熱くなっているケイコクを落ち着かせようと
遊庵が足払いをすると
バランスを崩したケイコク
刀の柄についている刃の切っ先が頭を掠めた
プシュッ
頭部のため傷に反して大量の血液が吹き出た
「痛…ッ」
『!!』
その光景に、偶然近くを通りかかった少女の中でフラッシュバックが起きた
『いやああぁぁぁぁ!!!』
ピシッ
少女の叫びに呼応するように
その場の酸素が消えた
「うっ…」
遊庵との手合わせで疲労が溜まっていたケイコクは一瞬で気絶した
「(この力は!?)」
辺りを見渡すと少女が虚ろな表情で宙に浮いていた
「(こいつの能力か…?!
だが意志が感じられねぇ…
力が暴走しているのか!?)」
遊庵は状況を打破するため少女の近くに向かった
眼には何も映していない
が、その眼はかすかに濡れていた
「(こいつを気絶させるか…)」
遊庵はそっと左手の甲を少女にかざした
「(幻視蒼…)」
遊庵は少女の精神の中に入った
《この眼といい血といい、あなたには興味がつきません》
《余り取りすぎると死にかねない
血が溜まるまで吊っておけ》
《手荒なことは好まないのですが》
《すべては壬生再臨計画のため…》
「(!?
ひしぎに吹雪!?
こいつは一体…)」
幼い少女が泣いていた
『もう、いたいのいやなの』
「お前何が…」
『ち なんてきらい』
「…」
『ひとりがいい』
「…」
『ころして、』
「!!」
少女の眼には絶望が濃く色付いていた
「顔あげろ」
『だれ?おじさんもいたいことするの?』
「〰おにーさんは!そんなことしねぇよ!
お前を助けに来た」
『たすけに?』
「そうだ!血が怖いのか?」
『いたいし、あかいのがこわい』
「それは生きてるって証拠だ怖くねぇ!
それに血を流したくなけりゃ"強く"なれ!」
『つよく…どうやって…?』
「そうだな…まずは大切なものを作るんだ
そのために人は強くなれる」
『わたし…たいせつ、もってない』
「だから作るんだよ!一緒に来い!!」
『…』
「ほら!」
『うん…』
遊庵は少女の手を握った
▽
幻視蒼を解くと少女は気を失っていた
少女を抱えた遊庵は息を吸った
「ふーっ…とりあえず一件落着だな」
空気が戻ったことを確認して
少女を見た
「とんでもねぇガキだな…」
ケイコクより少し幼い少女
精神を通して記憶を見た限り
いい扱いを受けてきたとは言いづらい
何より気になるのは少女の身の上だった
「(なぜこんな場所にいる…
ここは壬生の中でも限られた奴しかいることができない
それにひしぎと吹雪と関わりが…)」
考えを巡らすも遊庵は
少女の泣いている姿が頭から離れなかった
「(やれやれ、お節介が好きだな…
とりあえず、起きたら名前聞かねぇとな)」
遊庵はその後ケイコクと翼を庵家に連れて行った
"大切なもの"を作れるように
"強く"なるために
▽
目の前で家族たちは息ができず苦しんでいる
翼を止めるため遊庵が側に寄ろうとしたとき
コォッ
ほたるの身体が光を放った
「なっ…!?」
次の瞬間ほたるは翼を抱きかえ
ていた
「翼、起きて…」
『ほた…る…?』
「そう、翼の声聞こえた…」
『わたしの?』
「翼はいろいろ考えすぎ…
何も考えないでオレの勝つとこだけ見てて」
『うん…っ』
ほたるは1度翼を強く抱き締めると遊庵の方を向いた
「まだ…終わらないよゆんゆん
狂が…みんなが教えてくれたんだ
やっぱりオレは"大切なもの"を守るために闘う…
そうでなきゃ"強く"なるイミも"生きている"気もしない…
たとえそれが一瞬の『螢火』だってかまわない
最期の一太刀までこの"信念"のために闘う…
それがオレの生き様だからーーー!!」
潜在能力を解放し、
ケイコクの右眼は"紅い眼"になっていた
「"先祖がえり"だな」
遊庵は語り始めた
壬生一族は大昔、全員"紅い眼"をしていた
それが段々といなくなった
でも稀に昔の"紅い眼"をもった"先祖がえり"した者が出現するのだと
「そんなコトどうでもいい…
勝つのはオレだよ」
再び闘いは再開された
遊庵と互角以上の動きをみせるほたる
"幻視蒼"さえも破ってみせた
そして遊庵も120%の力を出し
闘いは大詰めを迎えた
「"強く"なったな」
「…え!?」
「認めてやるよ…その"強さ"…
やるじゃねーかケイコクよぉ」
「ゆんゆん…わかってもらえた?
…"独り"じゃなくても"強く"なれるって…
だったらもう太四老なんてやめちゃえば…?」
「悪いがそんなつもりはねーよ…
お前は確かに"強く"なった…だがな
オレはお前よりもっと"強ェ"からな!!!」
遊庵はまばゆい光を放った
「色空法蓮華!!」
遊庵の蹴りがほたるを吹き飛ばした
ほたるはそれをこらえた
「熒惑輝炎!!」
その炎は遊庵にまとわりついた
「それは未来永劫赫く輝き続ける
"熒惑星"の炎だよ…
オレの血を燃やして創った炎…
それが血の呪印としてからみつき
相手に強制的に焔血化粧を発症させ内側から焼きつくす…
いくらゆんゆんでも内側からの炎に平気ではいられないでしょ?」
「てめっ…いつの間にこんな技を…」
「"ケイコク"の名をゆんゆんにつけてもらった時から…
その名に恥じない技をずっと暖めていた
…あんたを越えるこの時のためにーー…
"ほたる"の至上の『螢火』は"熒惑星"の炎のように
未来永劫燃えつきることはないーーー」
遊庵を包む炎が勢いを増した
するとほたるは炎を消した
「あ…甘ぇ…な…
オレを助けたつもりか…
い…いったい何を考えていやがる…」
「よ…余計なお世話…
オレが欲しいのは勝利…
別に命じゃないし…それに
オレはこういう"強さ"がいいと思うから」
「ケイコク…お前
カッコつけてんじゃねーよ!!」
ほたるに殴りかかったかと思われた遊庵は
後ろにいた黒猫に"幻視蒼"をかけた
吹雪の監視の"眼"をごまかすために
黒猫に再び激闘を始めた幻を見せた
「…ケイコク
オレの…負けだな…」
「え…!?」
「…正直…お前がここまで"強く"なるとは思っていなかった…
それに昔のお前なら間違いなく
さっきのでオレを殺していただろうしな」
『ゆんゆん…』
「お前は"強さ"の他に今までのお前にねえモンを手に入れたようだな…
だから認めてやるよ 負けを…な
いい漢に…立派な侍に成長したな
…ほたる君よ」
「…ゆんゆん」
「オレに勝てねぇならこの先に行っても勝てやしねぇ…
だからオレも本気でお前を殺しにいった…
その上でお前はオレを越えたんだ
これでオレがお前に教えてやれることは何もねぇ…
修行も全過程終了
オレの弟子も卒業だな」
「し…修行!?」
「…人ってヤツはよぉ
"独り"で生きている奴なんかいねーんだ…
どんな境遇だとしてもな
それに気づきその手で周りの奴らや大切なモンを守ってこそ
本当の"強ェ漢"だと思うぜ…
今のお前のようにな」
「アニキ…」
「な…なんだよ!!さっきまでと言ってること違うじゃねーかよ!!」
「そうだよ…」
「ああアレか
ありゃ全部ウソだ」
「は!?」
「ああでも言ってけしかけてやんねーと本気になんねーだろ
ケイコクの奴は」
「ゆん…ゆん…」
「ケイコク…
いい"仲間"に逢えたんだな…
よかったな"ケイコク"…いや"ほたる"
お前を初めて見た時から思っていた…
この世のすべてを憎み
かたくなに"独り"で生きていたお前…
こいつがもし守りたいと信じられる
自分の居場所を見つけられたら
きっと誰よりも"強く"なるだろうってな…
"独り"のつらさを知り
誰よりも"仲間"を大切にする
"強く"やさしい『魂の炎』の侍に…
だが手を替え品を替え色々やったものの
お前の心のキズは深くて
それを完全に伝えきることはできなかった…
挙げ句の果てに先代"紅の王"に闘いを挑み
壬生から出ていった時はホント参ったぜ
お前の心を拓いた翼にも
"オレが傷つけた"とか悪い方にもってくしよ!!
でも…お前は自分で見つけてきたんだな…
自分の居場所をーーー」
「ゆん…ゆん…
なんだよ全然勝った気しないし…」
いつでもほたるのことを考えてくれていた遊庵の心を初めて知った
「(この人はあの時も今もオレにすべてを伝えてくれていたんだ
命を睹して本当の"強さ"を…
大きい…大きいよゆんゆん
あんたの背中はデカすぎるよ…
あんたはオレにとって最高の師匠だよ)
ありがとう…ございました」
翼の眼から一筋の涙がこぼれた
_
ほたると遊庵との闘いは道場で行われることになった
ほたるも私もここで遊庵にたくさん鍛えてもらった
"色即是空"の文字も傷の一つ一つも懐かしい
2人の手合わせはたくさん見てきた
この気迫はお互いがいつもとは違う
ほたるが望んでいた師である遊庵との闘い
しっかり見届けよう
▽
どんな攻撃もするりとかわす遊庵に
ほたるは必殺技を五連弾で繰り出した
まったくスキのない遊庵には傷1つつけられなかった
微かな気配を感じ後ろを振り向くと
『辰伶…?』
「あ!シンレイだ!」
「何やってんのそんなトコで!?」
「あ、わかった!ケイコクが心配で見に来たんだ!」
「ち…ちが…オレは…」
「はずかしがんなよ!こっちきて一緒に応援しようぜ!!」
「シンレイやさしー」
「ほらはやく!」
「は…はなせ!誰がアイツの応援など…」
「じゃぁ何しに来たんだよ」
「敵情視察だ…!
太四老と名乗る者の真の実力と
ケイコクの秘密を知るために戻ってきただけだ」
『なんだかんだ言ってもお兄ちゃんだしね』
「なっ!!そんなのではない!!」
『はいはい、』
辰伶をからかうのをやめてほたるたちに目を向けた
ほたるは闘いの中でいつもと違う動きをしてる…
あれは辰伶の"型"…ほたるはよく見てるな
それからトラさん、アキラ、幸村さん、そして狂…
今までの闘いからいろんなモノを吸収してる…
"型"のない自由なほたるらしい闘い方…
最後は特大の炎を出した
でも遊庵に炎は効かなかった
本気を出し始めた遊庵にほたるはなすすべもなく攻撃を受けた
悲痛な声に耳を塞ぎたくなった
でもほたるの闘いを最後までみとどけなきゃ…
庵家のみんなは遊庵に闘いを止めるように言った
でも遊庵は理不尽を恨むより
だれよりも"強く"あることが生き残るのに必要だと言った
ほたるは立ち上がり遊庵に間違いだと告げた
真の"強さ"は"独り"だけじゃ得られないーー
狂との闘いでほたるが気付いた大事なこと
その言葉がほたるをどんどん強くしていく
再びぶつかり合う2人
ほたるは焔血化粧を使った
「オレはもう"独り"じゃない…
守りたいものがある…だから…
もっともっと"強く"なるーー!!」
「そうか…だったらーー死ね」
ゴッ
「…知ってるだろう?
力のねえ奴の言葉なんて何の説得力もねーってことをよ
あばよ…"ケイコク"…」
ほたるが動かなくなった
攻撃を喰らったように見えなかった
「…いったい何がどうなっているんだ?!」
「まさかアニキの奴あの技を…!?」
「いくらなんでもそこまでアニキがするワケが…」
「…何だ!?お前たち何を言って…」
「ごちそーさん
ケイコクの魂は喰っちまった
これでこいつは終わり…だな」
「た…魂を喰っただと!?」
「シンレイ…これが太四老の力"幻視蒼"だ…
オレは"魂喰い"
"心眼"で心の中に侵入し魂を喰いつぶすことで
精神を破壊できるのさ」
「精神を破壊するだと…!?」
「つまりよ…
今ケイコクの魂はオレに自分の胸が貫かれ死んだと認識した
肉体は無キズでも中身の魂は死んじまったのさ
今のこいつは生ける屍だ…」
『ほた…る…?』
「愛弟子のこんな姿を長く見るのも忍びねえ
ここは師匠様からの餞として…
きっちり肉体も破壊してやるぜーー!!」
遊庵の攻撃を止めたのは庵曽新だった
庵家のみんなが止めに入るも遊庵には響かなかった
そんな声が少しずつ遠くなっていく
身体が、動かない
声も出ない…
焔血化粧のため身体が発火していくほたる
いかないで…
『ぃゃ……』
そこで翼の意識は途絶えた
▽
辰伶がほたるに水を被せ目を覚ますよう声をかけたとき
隣で聞こえた微かな翼の声とともに
一瞬にして息が苦しくなった
「な、なにがっ……」
「息、できないっ…」
「たすけ、」
その場にいた全員が苦しみ出した
「(酸素がなくなった…?)」
遊庵は前にも似たような事があったと思い巡らしていると
翼が視界に入った
虚ろな表情で遠くを見ている翼
まがまがしいオーラを身に纏って
「!!(力が暴走している…)」
それは過去に翼と初めて出逢ったときのことだった
▽
当時、ボロ小屋の前でケイコクと遊庵が稽古をしていた
刀を持ったケイコクが遊庵に向かう
遊庵は軽く交わしていく
「脇が甘い!こっちががら空きだぜ?」
「くっ!」
それは突然の出来事だった
熱くなっているケイコクを落ち着かせようと
遊庵が足払いをすると
バランスを崩したケイコク
刀の柄についている刃の切っ先が頭を掠めた
プシュッ
頭部のため傷に反して大量の血液が吹き出た
「痛…ッ」
『!!』
その光景に、偶然近くを通りかかった少女の中でフラッシュバックが起きた
『いやああぁぁぁぁ!!!』
ピシッ
少女の叫びに呼応するように
その場の酸素が消えた
「うっ…」
遊庵との手合わせで疲労が溜まっていたケイコクは一瞬で気絶した
「(この力は!?)」
辺りを見渡すと少女が虚ろな表情で宙に浮いていた
「(こいつの能力か…?!
だが意志が感じられねぇ…
力が暴走しているのか!?)」
遊庵は状況を打破するため少女の近くに向かった
眼には何も映していない
が、その眼はかすかに濡れていた
「(こいつを気絶させるか…)」
遊庵はそっと左手の甲を少女にかざした
「(幻視蒼…)」
遊庵は少女の精神の中に入った
《この眼といい血といい、あなたには興味がつきません》
《余り取りすぎると死にかねない
血が溜まるまで吊っておけ》
《手荒なことは好まないのですが》
《すべては壬生再臨計画のため…》
「(!?
ひしぎに吹雪!?
こいつは一体…)」
幼い少女が泣いていた
『もう、いたいのいやなの』
「お前何が…」
『ち なんてきらい』
「…」
『ひとりがいい』
「…」
『ころして、』
「!!」
少女の眼には絶望が濃く色付いていた
「顔あげろ」
『だれ?おじさんもいたいことするの?』
「〰おにーさんは!そんなことしねぇよ!
お前を助けに来た」
『たすけに?』
「そうだ!血が怖いのか?」
『いたいし、あかいのがこわい』
「それは生きてるって証拠だ怖くねぇ!
それに血を流したくなけりゃ"強く"なれ!」
『つよく…どうやって…?』
「そうだな…まずは大切なものを作るんだ
そのために人は強くなれる」
『わたし…たいせつ、もってない』
「だから作るんだよ!一緒に来い!!」
『…』
「ほら!」
『うん…』
遊庵は少女の手を握った
▽
幻視蒼を解くと少女は気を失っていた
少女を抱えた遊庵は息を吸った
「ふーっ…とりあえず一件落着だな」
空気が戻ったことを確認して
少女を見た
「とんでもねぇガキだな…」
ケイコクより少し幼い少女
精神を通して記憶を見た限り
いい扱いを受けてきたとは言いづらい
何より気になるのは少女の身の上だった
「(なぜこんな場所にいる…
ここは壬生の中でも限られた奴しかいることができない
それにひしぎと吹雪と関わりが…)」
考えを巡らすも遊庵は
少女の泣いている姿が頭から離れなかった
「(やれやれ、お節介が好きだな…
とりあえず、起きたら名前聞かねぇとな)」
遊庵はその後ケイコクと翼を庵家に連れて行った
"大切なもの"を作れるように
"強く"なるために
▽
目の前で家族たちは息ができず苦しんでいる
翼を止めるため遊庵が側に寄ろうとしたとき
コォッ
ほたるの身体が光を放った
「なっ…!?」
次の瞬間ほたるは翼を抱きかえ
ていた
「翼、起きて…」
『ほた…る…?』
「そう、翼の声聞こえた…」
『わたしの?』
「翼はいろいろ考えすぎ…
何も考えないでオレの勝つとこだけ見てて」
『うん…っ』
ほたるは1度翼を強く抱き締めると遊庵の方を向いた
「まだ…終わらないよゆんゆん
狂が…みんなが教えてくれたんだ
やっぱりオレは"大切なもの"を守るために闘う…
そうでなきゃ"強く"なるイミも"生きている"気もしない…
たとえそれが一瞬の『螢火』だってかまわない
最期の一太刀までこの"信念"のために闘う…
それがオレの生き様だからーーー!!」
潜在能力を解放し、
ケイコクの右眼は"紅い眼"になっていた
「"先祖がえり"だな」
遊庵は語り始めた
壬生一族は大昔、全員"紅い眼"をしていた
それが段々といなくなった
でも稀に昔の"紅い眼"をもった"先祖がえり"した者が出現するのだと
「そんなコトどうでもいい…
勝つのはオレだよ」
再び闘いは再開された
遊庵と互角以上の動きをみせるほたる
"幻視蒼"さえも破ってみせた
そして遊庵も120%の力を出し
闘いは大詰めを迎えた
「"強く"なったな」
「…え!?」
「認めてやるよ…その"強さ"…
やるじゃねーかケイコクよぉ」
「ゆんゆん…わかってもらえた?
…"独り"じゃなくても"強く"なれるって…
だったらもう太四老なんてやめちゃえば…?」
「悪いがそんなつもりはねーよ…
お前は確かに"強く"なった…だがな
オレはお前よりもっと"強ェ"からな!!!」
遊庵はまばゆい光を放った
「色空法蓮華!!」
遊庵の蹴りがほたるを吹き飛ばした
ほたるはそれをこらえた
「熒惑輝炎!!」
その炎は遊庵にまとわりついた
「それは未来永劫赫く輝き続ける
"熒惑星"の炎だよ…
オレの血を燃やして創った炎…
それが血の呪印としてからみつき
相手に強制的に焔血化粧を発症させ内側から焼きつくす…
いくらゆんゆんでも内側からの炎に平気ではいられないでしょ?」
「てめっ…いつの間にこんな技を…」
「"ケイコク"の名をゆんゆんにつけてもらった時から…
その名に恥じない技をずっと暖めていた
…あんたを越えるこの時のためにーー…
"ほたる"の至上の『螢火』は"熒惑星"の炎のように
未来永劫燃えつきることはないーーー」
遊庵を包む炎が勢いを増した
するとほたるは炎を消した
「あ…甘ぇ…な…
オレを助けたつもりか…
い…いったい何を考えていやがる…」
「よ…余計なお世話…
オレが欲しいのは勝利…
別に命じゃないし…それに
オレはこういう"強さ"がいいと思うから」
「ケイコク…お前
カッコつけてんじゃねーよ!!」
ほたるに殴りかかったかと思われた遊庵は
後ろにいた黒猫に"幻視蒼"をかけた
吹雪の監視の"眼"をごまかすために
黒猫に再び激闘を始めた幻を見せた
「…ケイコク
オレの…負けだな…」
「え…!?」
「…正直…お前がここまで"強く"なるとは思っていなかった…
それに昔のお前なら間違いなく
さっきのでオレを殺していただろうしな」
『ゆんゆん…』
「お前は"強さ"の他に今までのお前にねえモンを手に入れたようだな…
だから認めてやるよ 負けを…な
いい漢に…立派な侍に成長したな
…ほたる君よ」
「…ゆんゆん」
「オレに勝てねぇならこの先に行っても勝てやしねぇ…
だからオレも本気でお前を殺しにいった…
その上でお前はオレを越えたんだ
これでオレがお前に教えてやれることは何もねぇ…
修行も全過程終了
オレの弟子も卒業だな」
「し…修行!?」
「…人ってヤツはよぉ
"独り"で生きている奴なんかいねーんだ…
どんな境遇だとしてもな
それに気づきその手で周りの奴らや大切なモンを守ってこそ
本当の"強ェ漢"だと思うぜ…
今のお前のようにな」
「アニキ…」
「な…なんだよ!!さっきまでと言ってること違うじゃねーかよ!!」
「そうだよ…」
「ああアレか
ありゃ全部ウソだ」
「は!?」
「ああでも言ってけしかけてやんねーと本気になんねーだろ
ケイコクの奴は」
「ゆん…ゆん…」
「ケイコク…
いい"仲間"に逢えたんだな…
よかったな"ケイコク"…いや"ほたる"
お前を初めて見た時から思っていた…
この世のすべてを憎み
かたくなに"独り"で生きていたお前…
こいつがもし守りたいと信じられる
自分の居場所を見つけられたら
きっと誰よりも"強く"なるだろうってな…
"独り"のつらさを知り
誰よりも"仲間"を大切にする
"強く"やさしい『魂の炎』の侍に…
だが手を替え品を替え色々やったものの
お前の心のキズは深くて
それを完全に伝えきることはできなかった…
挙げ句の果てに先代"紅の王"に闘いを挑み
壬生から出ていった時はホント参ったぜ
お前の心を拓いた翼にも
"オレが傷つけた"とか悪い方にもってくしよ!!
でも…お前は自分で見つけてきたんだな…
自分の居場所をーーー」
「ゆん…ゆん…
なんだよ全然勝った気しないし…」
いつでもほたるのことを考えてくれていた遊庵の心を初めて知った
「(この人はあの時も今もオレにすべてを伝えてくれていたんだ
命を睹して本当の"強さ"を…
大きい…大きいよゆんゆん
あんたの背中はデカすぎるよ…
あんたはオレにとって最高の師匠だよ)
ありがとう…ございました」
翼の眼から一筋の涙がこぼれた
_