宵待月下で出逢ったふたり
長い石段の続く道。
それを登る女性とそれに続く子供。
この先にあるのは、狐の神様で有名な『尾崎神社』という人々が祭る大きな神社。秋になると紅葉が見頃だが、いまはたくさんの青い葉の木々が立ち並んでいた。
その道中の石段には千本もの赤い鳥居が続いており、半分くらいのところで川端は歩を止める。
「大丈夫ですか?疲れましたよね。もうここからは歩く必要はありませんからね」
「?」
意味をよくわからずに少年はただ、こくんと頷いた。
五百本目に差し掛かったところで、紅葉の若い葉を一枚手折りて、会いたいと願いと妖力をそこに込め、その鳥居を通り抜けると辿り着ける場所がある。
通り抜けた先には、先ほどまで無数にあった石段は消え失せ、代わりに大きな紅の紅葉を取り囲むようにした広々とした境内が姿を見せる。
その周りにもまた紅葉が赤々と広がっており、そこはまるで、から紅の幻想郷のようだった。
ここは、世の理から外れた人間界と霊界の狭間にある妖狐の里。ここは、その御社であった。
その境内にある本殿。
その神座にキセルを片手に座し、九つの尾をゆらめかせ、不敵な笑みをこちらに向けるこの里の長である九尾の狐・尾崎紅葉。この里の長であり、また神社の祭り神でもある。
「ほう…事情はだいたい理解った」
「それで主らは我のところに来た…というわけか…」
「さようです…」
川端はその御前で正座をし、膝の上で両手を重ね合わせ、緊張した面持ちで、答える。
「よい、よい、…そう畏るな。して、そうだな。まず、結論から伝おう…」
「元の狐には戻るまい」
覚悟はしていたが、その言葉に川端の視界や足元が崩れるような感覚に陥る。
「まぁ、これはもとからの、あやつの運命みたいなものだ。そう気に病むな。」
「はい…」
そう応えはしたが、やはり元に戻すことが叶わないのだと現実が重くのしかかった。しかし、それならば、自分の責任を全うしなければと、今度は深々と川端はお辞儀をしてみせた。
「ん?急にどうした?」
「お願いでございます。どうかあの子をここに置いてやってはくれないでしょうか?」
「あの子狐を…?」
尾崎紅葉は、目線を川端から逸らし、川端の連れてきた外で少年に化けた金髪の子狐と喧嘩腰に戯れている黒髪の少年に目を向ける。
そして、また再び川端へと視線を戻す。
「ふぅむ…、我は構わぬが…。良いのか?本当に…」
「はい。よろしくお願い致します」
「知らぬのか?狐の恨みは恐ろしいぞ」
「……っ、覚悟は出来ております」
「…!…ふっはははははは!!そうかそうか……」
「?」
川端は急に笑い出した尾崎を不思議に思う。自分は何か可笑しなことを言ってしまったのだろうか、と。
対して、尾崎は一人納得した様子で頷くと、また川端に目線を合わせて告げる。
「あい分かった。お主の願いを叶えよう。なに心配することはない。此処は妖狐の里。預かるからには立派な妖狐にしてみせよう」
「…ええ、ありがとうございます。何卒、あの子をよろしくお願いいたします」
尾崎の言葉に安心した川端は、また深々とお辞儀をするのだった。
そんなこととは露知らず、黒髪の二尾の少年は他の子狐と戯れながら川端が戻ってくるのを落ちる葉が降りしきる中、まだかまだかと待っていた。
それを登る女性とそれに続く子供。
この先にあるのは、狐の神様で有名な『尾崎神社』という人々が祭る大きな神社。秋になると紅葉が見頃だが、いまはたくさんの青い葉の木々が立ち並んでいた。
その道中の石段には千本もの赤い鳥居が続いており、半分くらいのところで川端は歩を止める。
「大丈夫ですか?疲れましたよね。もうここからは歩く必要はありませんからね」
「?」
意味をよくわからずに少年はただ、こくんと頷いた。
五百本目に差し掛かったところで、紅葉の若い葉を一枚手折りて、会いたいと願いと妖力をそこに込め、その鳥居を通り抜けると辿り着ける場所がある。
通り抜けた先には、先ほどまで無数にあった石段は消え失せ、代わりに大きな紅の紅葉を取り囲むようにした広々とした境内が姿を見せる。
その周りにもまた紅葉が赤々と広がっており、そこはまるで、から紅の幻想郷のようだった。
ここは、世の理から外れた人間界と霊界の狭間にある妖狐の里。ここは、その御社であった。
その境内にある本殿。
その神座にキセルを片手に座し、九つの尾をゆらめかせ、不敵な笑みをこちらに向けるこの里の長である九尾の狐・尾崎紅葉。この里の長であり、また神社の祭り神でもある。
「ほう…事情はだいたい理解った」
「それで主らは我のところに来た…というわけか…」
「さようです…」
川端はその御前で正座をし、膝の上で両手を重ね合わせ、緊張した面持ちで、答える。
「よい、よい、…そう畏るな。して、そうだな。まず、結論から伝おう…」
「元の狐には戻るまい」
覚悟はしていたが、その言葉に川端の視界や足元が崩れるような感覚に陥る。
「まぁ、これはもとからの、あやつの運命みたいなものだ。そう気に病むな。」
「はい…」
そう応えはしたが、やはり元に戻すことが叶わないのだと現実が重くのしかかった。しかし、それならば、自分の責任を全うしなければと、今度は深々と川端はお辞儀をしてみせた。
「ん?急にどうした?」
「お願いでございます。どうかあの子をここに置いてやってはくれないでしょうか?」
「あの子狐を…?」
尾崎紅葉は、目線を川端から逸らし、川端の連れてきた外で少年に化けた金髪の子狐と喧嘩腰に戯れている黒髪の少年に目を向ける。
そして、また再び川端へと視線を戻す。
「ふぅむ…、我は構わぬが…。良いのか?本当に…」
「はい。よろしくお願い致します」
「知らぬのか?狐の恨みは恐ろしいぞ」
「……っ、覚悟は出来ております」
「…!…ふっはははははは!!そうかそうか……」
「?」
川端は急に笑い出した尾崎を不思議に思う。自分は何か可笑しなことを言ってしまったのだろうか、と。
対して、尾崎は一人納得した様子で頷くと、また川端に目線を合わせて告げる。
「あい分かった。お主の願いを叶えよう。なに心配することはない。此処は妖狐の里。預かるからには立派な妖狐にしてみせよう」
「…ええ、ありがとうございます。何卒、あの子をよろしくお願いいたします」
尾崎の言葉に安心した川端は、また深々とお辞儀をするのだった。
そんなこととは露知らず、黒髪の二尾の少年は他の子狐と戯れながら川端が戻ってくるのを落ちる葉が降りしきる中、まだかまだかと待っていた。