宵待月下で出逢ったふたり

そして現在。

囲炉裏を挟んで川端と横光は、向かい合って話していた。

「なるほど…貴方の妖力で妖狐になってしまったと…?」

「はい」

「しかし、それは貴方の仮説では?」

「ですが、それしか思い当たることがありません…」

「………親狐は?」

「見つかりませんでした」

ふるふると首を振る川端。

「ならば、逆によかったのではないか?」

「え?」

「どのみち、赤子一匹では生きていけまい…それなら貴方と…」

「だめです」

横光の提案に最後まで耳を貸すことなく、強く否定する川端の膝上の手は微かに震えていた。

「私は取り返しのつかないことをしてしまいました…妖怪になることがどれだけ寂しいことか…」
「きっと私の顔も見たくなくなります。」

「しかし、こんなに懐いているではないか?」

そう、横光が向ける視線には、川端の膝元ですよすよと眠る少年の姿の子狐が。

「今は理解がまだ出来ていないだけです」

「しかし……」

「ありがとうございます利一。話を聞いて頂き、お陰で少し落ち着きました」

「それに、少し当ても思い出したので、そちらに行ってみようかと……」

「何か解決策でも?」

「はい…行ってみないとわかりませんが」

「そうか…」


そう言うと、横光の目の前の川端は子狐を起こす為に優しく揺さぶった。眠そうな眼(まなこ)をこすりつつ起きる小狐。

「もう行くんだな」

「はい、急がなくては…」

「川端…」

「はい?」

「いや、その、人間の手前にはわからないこともあるかもしれないが、あまり無理はするな」

「ありがとうございます利一」

それを、聞いて微笑むと、では、と川端は足早に去っていく。
横光はその振り向く事のない後ろ姿の友人の幸せを祈るように黙って見守るのだった。
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