宵待月下で出逢ったふたり

それは昨夜のことだった。

子狐と過ごして、いく日か経った頃のこと。
妖怪である川端にとって、睡眠や体力は全く問題なく、子狐に合わせた生活を心掛けていた。
その間だけは、自分の役目を忘れてしまいそうになる程、とても穏やかな日々を送りつつ、もうすぐ来るであろう別れの日を覚悟していた。

(それにしても…親狐は何処に…)

その日は赤い望月が怪しげに微笑んでいた。
ガサガサと草むらに入って、虫と戯れていた子狐がひょこりと川端の元へと駆け寄る。
そんな子狐の頭にのった葉を払おうと手を伸ばす。
すると、ボフン!!という音と共に、子狐の全身が煙にまかれたではないか。
突然の出来事に呆然とした川端だったが、すぐに気を取り戻し、子狐の安否を確認する為に両手を伸ばす。
がっしりと両手で子狐の全身を掴んだ事で一安心したのも束の間、煙が徐々に消えるにつれて現れたのは、真っ黒な狐の尾を二本と耳をピョコリと生やした着物姿の小さな黒髪の男の子だった。
川端は混乱しそうになったが、見覚えのある耳と尻尾にもしや…と思い、その少年に尋ねる。

「子狐…ですか?」

少年は言葉を発することはなく、しかし肯定の様に川端の足元に擦り寄るのだった。

(一体…どうして…?)

人間の姿になってしまった子狐をまじまじと見る川端は、そういうば……と、一つの仮説を思いつく。

実は、出会ってすぐの時、川端は弱っていた子狐に妖力を少し分け与えてしまっていたのだ。

(もしや…その影響で……。ああ、どうしましょう)

(原来、狐としての生を仲間と共に生きる筈だった子狐を、私が妖力を分け与えてしまったばかりに…)

それは妖怪の孤独に日々苛まれる川端にとって、取り返しのつかない行為だった。

(どうすれば……)

困惑した川端は、こうして横光の元へと自身の罪の告白をすべくやってきたのだ。
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