宵待月下で出逢ったふたり
(あれから、もう半月も経ったのか…)
横光は、先日のことを思い出しながら、採れたばかりの野菜についた泥を、家の近くの小川で洗い流し終え、家に戻る途中だった。
(川端はもうあの狐とお別れをしたのだろうか…?)
(ああは言っていたが…あの狐の懐きよう…今度来た時までに煎餅でも焼いておくか…)
そう思い至り、家の近くまで帰ってきたところで先程まで頭の中に登場していたよく見知った女性が、自身の家の引き戸を慌てた様子で叩いていた。
「利一、利一!いませんか!?」
「川端…!?」
「利一…!!!」
「煎餅はまだ待ってくれ!!」
「………???」
一瞬の沈黙が通り過ぎる。
「すまない、今のは忘れてくれ…」
「それにしても、貴方にしては早い再開だな。どうし……む?その子は?」
横光は目を凝らした。
川端の足にガシリとしがみつく見慣れぬ子供が一人。しかもただの子供ではなく、頭には真っ黒な耳が生え、後ろにはふさふさの一本の尻尾がついていた。
「まさか…あの子狐か?」
驚く利一に対し、肯定するように頷いた川端は罰の悪そうな顔を見せつつ、コトの顛末を恐る恐る話し始めた。