宵待月下で出逢ったふたり

それから、月の形が半周り変化し終わった朔の夜のこと。

横光の家の引き戸の前で向かい合う横光と川端は別離の言葉を交わしていた。そんな川端の足元をウロチョロと行ったり来たりを繰り返す子狐。

「何もこんな真っ暗な中を行かなくても…」

「いえ、急がなくては…親狐もこの子も不安でしょうから」

「そうか…。結局、この辺りには黒い狐は見つからなかったな。」

「ええ…。」

そう、この半月ほど色々と捜索はしたが、
結局親狐は見つからなかった。

「一緒に連れて探すんだな…」
川端の足元を彷徨く子狐を見つめて、横光が言う。

「ええ、すっかり私に懐いてくれてるようなので…」

「それがいい。結局、手前には懐かなかったな」

「フフ…そうですね」

暗がりでお互いの顔は見えないが、笑う川端の声色に横光はなんとなく安心した。

「では…」

そう言うと、川端は子狐と共に長い髪を翻し、後ろ姿を見せ立ち去っていく。

そんな、だんだんと暗がりに溶け込んでいく友人の背に横光は、鈴虫の鳴き声だけの静寂な夜にも関わらず、届くように少し大きめに声を張り上げた。

「川端!」

その声に、影が反応し振り返ったのが見える。
それを確認して横光は続ける。

「また来るといい」

「……………」
「ええ…。また……」

暗がりで見えぬ友人に手を振りながら、そう言い放った横光に、川端は一瞬言葉を飲み込み、届くことのない声でそう返した。

そんな川端の表情(かお)を見上げる一匹。
夜目の効く狐には何が果たして見えたのか。
子狐はただ黙ったまま、川端の足元をスルリと身体で撫でる。
そんな足元に擦り寄るやわらかな生き物に川端は気がつくと、微笑んで安心するように言い聞かせる。

「大丈夫ですからね」
「もうすぐ家族に会えますからね」
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