宵待月下で出逢ったふたり
未の刻も過ぎて太陽が西へ少し傾いた頃だった。
医者の元からぐったりとしている子狐を心配そうに見つめながら横光の家に帰って来た川端ら一行。
家の玄関を潜った瞬間…
パチリ!!!!!!!!
毛で覆われて見えなかった黒目がパッチリ!と大きく開かれた。
その瞳には、嬉しそうな利一と川端。
そんな初めて此方を見る二体の人間に、子狐は答えるように大きな声をあげる。
「シャーーーーーーーーーーッ!!!!!」
初めて見る知らない場所に知らない人間。取り戻した元気を此処ぞとばかりに発揮し暴虐の限りを尽くした。
そんな元気になった子狐の様子に嬉しい反面、川端らは脳裏に浮かぶ自信に満ちた医者に感謝を忘れ、ただただ医者〜!!!!!!となんともいえない気持ちで心の中で二人叫んだ。
それから暫く経ったあとのこと、、、
「見事にボロボロだな…」
「そうですね…」
「いや、手前の部屋はもともと何もないようなものだったからいいが…」
元々、物がそこまでなかった横光の部屋は、被害というほどのことはなく、小さな台風が通り過ぎたあとの様子を一通り見まわした。
その一方で目前の彼女。川端康成に横光が目をやれば、普段のきちんとした装いとは打って変わり、髪の毛が数本跳ね乱れ、着物も所々ボロボロに変わり果てており、なにより真っ白な肌には小さな複数の傷跡がついていた。
「ふふ、ですが…」
川端は怒るでもなく、悲しむでもなく、口端を吊り上げ嬉しそうに笑みを溢し、優しい眼差しを下に向ける。
自身の膝元でスヤスヤと電池が切れ、安心した様子で眠る子狐の柔らかな黒い毛をそっと撫で下ろした。
「やっと落ち着いてくれました」
利一もまた、そんな一人と一匹の様子に微笑んだ。そして、今後の意向を告げる。
「川端…暫くは手前の家でふたり一緒に休んでいくといい」
「いいんですか?」
「なに手前と貴方の仲だ。貴方も一緒だとこの子も安心だろう」
「ありがとうございます利一。暫く厄介になります」
囲炉裏を囲みながら、友人からの厚意を有難く川端は受け取った。
「その間にこの子の親が見つかればいいのですが…」
「うむ、そうだな。手前も町の人らに尋ねてみよう」
「助かります」
結局のところ、人間の肉眼では妖怪が姿を見せると決めない限り見えることができず、決めたとしても見える者は限られている。
川端は本当にいい友を持ったと心から思った。
(はやく見つかるといいですね…)
そう願う川端の瞳に映る子狐は、幸せそうに夢のまどろみの中にいた。
医者の元からぐったりとしている子狐を心配そうに見つめながら横光の家に帰って来た川端ら一行。
家の玄関を潜った瞬間…
パチリ!!!!!!!!
毛で覆われて見えなかった黒目がパッチリ!と大きく開かれた。
その瞳には、嬉しそうな利一と川端。
そんな初めて此方を見る二体の人間に、子狐は答えるように大きな声をあげる。
「シャーーーーーーーーーーッ!!!!!」
初めて見る知らない場所に知らない人間。取り戻した元気を此処ぞとばかりに発揮し暴虐の限りを尽くした。
そんな元気になった子狐の様子に嬉しい反面、川端らは脳裏に浮かぶ自信に満ちた医者に感謝を忘れ、ただただ医者〜!!!!!!となんともいえない気持ちで心の中で二人叫んだ。
それから暫く経ったあとのこと、、、
「見事にボロボロだな…」
「そうですね…」
「いや、手前の部屋はもともと何もないようなものだったからいいが…」
元々、物がそこまでなかった横光の部屋は、被害というほどのことはなく、小さな台風が通り過ぎたあとの様子を一通り見まわした。
その一方で目前の彼女。川端康成に横光が目をやれば、普段のきちんとした装いとは打って変わり、髪の毛が数本跳ね乱れ、着物も所々ボロボロに変わり果てており、なにより真っ白な肌には小さな複数の傷跡がついていた。
「ふふ、ですが…」
川端は怒るでもなく、悲しむでもなく、口端を吊り上げ嬉しそうに笑みを溢し、優しい眼差しを下に向ける。
自身の膝元でスヤスヤと電池が切れ、安心した様子で眠る子狐の柔らかな黒い毛をそっと撫で下ろした。
「やっと落ち着いてくれました」
利一もまた、そんな一人と一匹の様子に微笑んだ。そして、今後の意向を告げる。
「川端…暫くは手前の家でふたり一緒に休んでいくといい」
「いいんですか?」
「なに手前と貴方の仲だ。貴方も一緒だとこの子も安心だろう」
「ありがとうございます利一。暫く厄介になります」
囲炉裏を囲みながら、友人からの厚意を有難く川端は受け取った。
「その間にこの子の親が見つかればいいのですが…」
「うむ、そうだな。手前も町の人らに尋ねてみよう」
「助かります」
結局のところ、人間の肉眼では妖怪が姿を見せると決めない限り見えることができず、決めたとしても見える者は限られている。
川端は本当にいい友を持ったと心から思った。
(はやく見つかるといいですね…)
そう願う川端の瞳に映る子狐は、幸せそうに夢のまどろみの中にいた。