宵待月下で出逢ったふたり

明け方、夜分よりも顔色はいいが、まだグッタリとしていた狐の赤子を医者に連れて行った川端ら。
年老いた町医者は隣町に轟くほどの凄腕だと有名だった。

「先生、よろしく頼む」

そう利一が姿の見えぬ川端の代わりに伝える。

年老いた町医者は初めて見る黒い子狐に驚くことはなく、様子をじっと見て、心音などを手で確認した後、薬草を幾つか薬棚から取り出し、ごりごりとすり鉢で手馴れた様子で調合していく。
その様子に横光と川端は少し安心したように顔を見合わせた。
しかし、いざ子狐の口に運ばれた瞬間、薬草を医者に飲まされた子狐は一瞬ビクンっ!!と全身の毛を逆立てると、そこからピクリともしなくなった。
「これで暫くすれば大丈夫じゃよ」自信満々でそういった町医者に、「本当に大丈夫なのか…!?」と問いただす横光の横で、さーっと普段から白い顔をさらに白くさせる川端。
横光の姿しか見えていない医者は、横光に向かって、ただただ大丈夫だと自信ありげに答えるだけだった。
腕が立つと評判の医者。素人の自分達には信じることしかできず、神に祈りながら帰ることにし、今に至るわけだが……。
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