宵待月下で出逢ったふたり

「手前は医者ではないぞ…!川端」

そう横光利一は、囲炉裏を挟んで向かいに座る旧友である川端の頼み事に困惑した様子で答える。

「頼れそうな人の子は利一しか浮かばず…迷惑でしたね……」

眉を下げて申し訳そうな川端の手中にはぐったりとした黒い子狐が抱き抱えられていた。
それを見た横光はふぅ…と息をひとつ吐くと、川端に問う。

「放っておけなかった?」

「…ええ。とても弱っていたので。それに赤子一匹だけでは…いずれ…それに親狐も探してあげませんと…」

そう、しどろもどろ答える川端の様子に、フッと横光は笑みを浮かべた。

「手前は別に怒ってはいないぞ。明日、医者に連れて行こう」

「…利一!」

「それまでは此処で暖めてやりなさい」

「はい!ありがとうございます」

そう利一が囲炉裏のそばへ来るように手招く。
川端は自身の膝に子狐を乗せ、囲炉裏のそばへ腰をかける。
ぬくぬくと少し良さげな顔色の狐の子を微笑みながら見つめ、よかった…と一安心した川端は、横光に貴方も休むようにと説かれるが、もう少しだけと、膝の子狐を見つめ嬉しそうに微笑んでいた。
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