宵待月下で出逢ったふたり

「そういえば、貴方の名前は…?」

会話の最中、子狐でもなくなった青年に何と呼べばと疑問が浮かび、尋ねる川端。
子狐は一瞬、黙ったまま考え、恥ずかしそうに口にする。

「しゅうせい…」

「しゅうせい?」

「そう!徳田秋声…季節の秋に、声を出すの声で秋声」

「秋の声ですか…。素敵な名前ですね。なぜ少し躊躇していたのです?」

すると徳田は罰の悪そうに、理由をこぼした。

「本来、妖狐の里の狐は修行が満了したら里の長…師匠である紅葉先生から名前を授かるんだけど…」

「?」

「……僕は自分で付けたんだ」

「へ?」

「だって……」
「師匠は人使い荒いし!なんか時々来る狐じゃない兄弟子の鏡花からはなんか小言を色々!しかも毎回会う度に言われるしさ!もうなんだか嫌になって、修行場から逃げてきたんだ!それに…」

「それに??」

「はやく貴方を、見つけたかったから!」

そう、そっぽを向きながら言う徳田に川端は一瞬キョトンとするも、すぐに笑を溢して徳田の腕に手を忍びこませる。

「ありがとう秋声さん」

「……どういたしまして」

嬉しそうな川端に、さっき程まで隠そうとしていた事情など些細なことに思えてきた徳田は照れつつも少しぎこちない笑顔で返すのだった。
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