宵待月下で出逢ったふたり

………ヒュ〜〜〜〜〜〜ッ…………………………ドドーーン!……………………パラパラパラ………

闇夜に大きな音と共に上がった、これまた大きな灯りの火の花が空高く咲いては散ってを繰り返していた。

(初めて見ました…。また少しずつ時代が移り変わっていっているのですね)

そう、人の賑わいから離れた人気のない場所から空を一人眺めている川端は今夜も自身の役目を真っ当する為に、人の子を探していた。

(そういえば、あの子は今頃どうしているのでしょう……)

川端は何かと茂みや紅葉、月や自身の足元など、見る度にあの子との数少ない思い出を思い出しては、懐かしんで息災を願っていた。打ち上げられた火の花のあまりにも月の形に似ていたものだから。それもそのうちのひとつだった。

そんな物思いにふける川端の対面から人影がこちらに向かって歩いてきていた。

(おや、迷子でしょうか?…しかし、それにしては随分と真っ直ぐにこちらへ……??)

やがてだんだんと近づく人影は青年の姿だと自身の持つ提灯の灯りから伺うことはできたが、基本川端が姿を現さない限り見えることがない筈にも関わらず、こちらへと迷うことなく歩み寄ってくる。
川端は身構え、少し後退りをする。
すると…

「待っちなよ!!!」

青年が声を掛けてきた。

「ねぇ…、なんでさ?また逃げる気??」

青年の言葉に身に覚えのない川端は、どうすればいいのかわからずに固まってしまう。

(この青年は一体……)

そんな川端の様子に青年は独りぶつぶつと呟きだす。
「そうか…この姿だからだめなのか…。周りに人気はないし、それなら…」

ボフン!という音と共に、その青年から川端にとって見覚えのある耳と二本の尾が現れる。

「貴方は……もしや、あの時の子狐…ですか…?」

川端は胸の中に懐かしさと嬉しさが込み上げてきて思わず感極まったが、尾崎の言葉を思い出し、サーーーっと顔を青ざめた。

(そうだ…私は…)

つい、喜んでしまった自分を恨み、受け止めなければと自分に言い聞かせる。

「あの…」

「絶対許さないから」

そう川端に向かって言い放った青年。
川端は受け止める覚悟はとうに出来ていたと思っていたが、やはりそう言われてたことで後悔が走る。

(あの時、妖力を分けてしまったばかりに…)
(許さないとは、やはり…私は……)

急に俯き黙る川端を青年は怒ることなく、むしろ心配そうに覗き込んだ。

「ねぇ、大丈夫?聞こえてる?」
「置いていったこと、絶対に許さないって言ってるんだけど」

その言葉を聞いた瞬間、川端の顔がバッ!と上がる。川端は困惑の表情を見せ、あまりに予想外の言葉に聞き返そうとつい間の抜けた声も出しまった。

「へ?」
「…えっと、あの…貴方は私が妖狐にしてしまったことを怒っているのでは……?」

「??なんのこと?」

しどろもどろ確認しようとする川端に、青年は何かを察したのか大きな溜息を吐くと川端に対し、此処に来るまでを語り出した。

「此処まで来るのすごく大変だったんだからね。師匠が人使い荒くて、修行が終わるまでなかなか出させてくれなくてさ。」

「はぁ…」

ポカンとした様子で青年の言うことを、なんとか耳に入れる川端。

「僕はすぐにでも貴方を探したかったのに」

「やはり、恨んで……」

「だから全然ちがうから!僕はただ貴方と離れたくなくて、置いていかれたことを怒ってただけで……って!!」

川端の方を向けば、夕焼け色の瞳からポツポツとまばらに涙をこぼしていた。

「ちょっ、泣いてる???」

「いえ……その……嬉しくて……本当は私も貴方と離れたくなかったので…」

それを聞いた青年は、川端の側に近づけば、提灯を持つ川端の代わりにそっと涙を拭ってやる。

「それならさ…もう泣かなくてもいいんじゃない?」

そう笑って答える青年に、川端もまた灯りの灯ったような暖かな笑みをみせる。
今夜は宵待の夜だった。
川端が夜道を照らすように歩きながら、決してもう迷子にならぬように。二人並んで今までの距離を埋めていくようにぽつりぽつりと話しながら夜を明かすのだった。
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