マンダリンオレンジの宝石言葉
「モチーフデザインなどいかがでしょう?」
「モチーフデザイン?」
「はい!勿論、シンプルなのも素敵ですが、モチーフには生き物や自然、図形など2人の思い出や、好きなもの、お相手様のイメージが伝わるものがあれば。モチーフによっての意味も色々あるのでいかがでしょう?」
「そう…。それなら…」
「…雪をイメージしたモノって何かありますか?」
「はい!ございます。」
店員の女性はにこやかに答える。
そして、ショーケースの中から2種類の指輪を取り出し、徳田の目前に差し出す。
1つはシンプルな大きな雪の結晶が真ん中についており、太めの輪の部分に均一の間隔で宝石が埋まっている物。
もう一つは中心に宝石が埋まった小さな雪の結晶が二つ真ん中で並んで細い輪で繋がっている物だ。
「雪ですと、こちらの雪の結晶を象った物がございます。」
徳田はなんとなくと思い手にしたリングケースの中を覗き込む。
その指輪をじっと眺めていると、自然とそれを着けた川端の手元が浮かんできた。
「そちらのモチーフ…雪の結晶には儚げなイメージもありますが、雪の中からできた奇跡や雪から水に戻りまた雪になる可能性や再生など…生命の力強さも表現されているので、先ほどお聞きしたお相手様のイメージにピッタリだと思います。また、そちらは雪の結晶が二つ並んでおり、2人はいつでも一緒という意味も込められております。」
(これだ…これがいいな…)
知らずに緩む目線を徳田は向ける。
ただ、できれば…と徳田は少し残念に思った。
今手にしている指輪の輪の部分がシルバーで出来ており、宝石にはダイヤモンドが埋まっていた。できたら、もう少し暖かみのある感じだったら…と残念そうに眉を下げる。
それに気づいてか否か。店員は言う。
「宝石の種類やリングの色も変えることができますので。」
「!本当ですか。…それなら」
徳田が思い浮かべるのは、あの強く、どこか熱のこもったような自分を見つめる川端の瞳だった。
「橙色の宝石があれば…それがいいです。あと、できたら全体的に暖かい感じにできたりしますか?」
「はい。でしたら、全体はこちらのピンクゴールドなどどうでしょう?オレンジの石でしたら、こちらとこちらの…」
それが、前回徳田が店員と交わした内容だ。
現在、その宝石店に二度目の来店と退店を果たした徳田の手には小さな紙袋が握られていた。
(やっぱり…)
俯いた徳田の顔は真っ赤な顔だった。
(覚えられていた…!!!)
(なんだろう…あのなんとも言えない羞恥心って…!!!!)
顔の火照りを手のひらでパタつかせながら、
(……でも)
これから恋人に渡す贈り物。
それが指に添えられることを想うと、無事買えたことへの嬉しさで胸が撫で下ろされる。
(驚くかな?川端さん…喜んでくれたらいいけど…)
驚き、はにかみながら、嬉しそうな川端を想像をしながら、徳田はゆっくりと帰路をなぞるのだった。
一方、その頃ーーー
(あれはなんだったのだろう…)
ザシュッ
(徳田さんのあの様子…)
グシュッ
川端は目の前の向かってくる侵食者を槍で薙ぎ払いながら、前回の徳田の触れ合いについて思考していた。
(徳田さんは手袋だと誤魔化していたけれど…)
そして、最後の敵を薙ぎ捨てた瞬間、一つの結論に辿り着く。
(もしかして…)
ドシュッ!!!ダン!!!!!
(そろそろ、次の段階に進もうという意味でしょうか…!?)
川端の頭上には、閃きの電球ならず、結婚式ののウェディングベルの鐘の音が鳴り響いていた。
そんな川端の考えなど、梅雨ほども知らない本日の潜書仲間らは、終わったから帰るよー!と何故か急に動かなくなった川端に呼び掛けるのだった。