マンダリンオレンジの宝石言葉

彼が変だ。
そう思わずにはいられなかった川端は自身の部屋で、じっとこちらを見やる恋人の眼差しを一身に受けていた。

いつもならば、川端が魅入って、照れた徳田がそれを止めさせようとする。そんなやり取りが行われる。
それが逆なら、川端が止めれば済む話のようだが、川端は見るのは得意だが、こと徳田に見られることに関しては慣れておらず、どういう気持ちでいればいいのか検討がつかなかった。
(徳田さんはなぜ…そんなに…)
また、徳田は心ここにあらずの様子で、自分が無意識に川端を見つめていることに気づいておらず、それが一層川端を謎めかせていた。
(出先で何かあったのだろうか?)
何処かへ出掛けたらしい徳田は、帰ってきてからずっとこの調子だ。

「ねぇ、川端さん」
「は、はい…!」

突如、徳田の真剣な声色に、思わずひっくり返った声で返事をしてしまう。
川端は、隣に座る徳田が身体をこちら向けた為、同じように徳田の方に向きを正す。
「左手…出してくれる?」
唐突の申し出に訳がわからなかったが、言われたままにすっと左の掌を向けて差し出す。
徳田は差し出された手を握り自分の方へと引き寄せる。
はて、手相でも見られるのかと思っていれば、そのまま持ち上げられた左手は徳田の手と合わさり、二人で一つの合掌をする。
川端は徳田の行動にぎょっと目を見張って驚く。
合わさった掌。いつもと様子の違う徳田。
ドギマギする川端のことなど梅雨知らず、徳田はブツブツと「僕の中指と同じぐらいかな…?う〜…ん?」と悩ましげに独り言を呟いていた。
(これは…スキンシップでしょうか?それとも、子供らがやっていた遊びの真似事…?)
しばらく様子を伺っていると、あ!となにかを閃いた様子で、合わせていた手をぎゅっと握ると「そう!手袋!手袋を作りたくてさ…!その、手のサイズを測ってもいいかな?」とぐっと可愛らしい顔がこちらに近づいてくる。
そんな徳田のいつもと違う積極的な距離感に戸惑いながら川端はこくこくと頭を頷かせることで精一杯だった。
難関が突破されたことに満足そうな徳田の傍らで、川端は静かに首までどっと赤らめていた。
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