マンダリンオレンジの宝石言葉
指輪を恋人である彼に贈ろうと思ったきっかけは、ふいに湧き出た独占欲からだった。
その日の空は青く澄み切っており、僕と川端さんは互いに午後から予定もなく、それならばと、外でお茶でもしようかという話になり、茶店へ赴くことにした。
彼とは住んでる場所が同じ為、部屋を行き来するだけのことが殆どで、2人きりで外出する機会が滅多になかった。その為、久しぶりのデェトという訳だ。
「楽しみですね」と和やかにこちらに微笑む恋人からは浮き足立っている様が伝り、むず痒い気持ちになった。が、無論、それは僕も同じ気持ちだ。
ただ、一つの心配事を他所に。
彼と出掛けると、よく黄色い声や視線を感じる。それは当たり前だが自分ではなく彼の方に、だ。
そうなると、時折だが、気が気じゃなくなる。
彼が僕に夢中であることは、彼のお陰で十分過ぎるくらい自負している。しかし、それでも、可愛らしい女性は沢山いる。引く手なんて数多だろう。
前に2人で別の茶店に行った時も、その声や視線を感じた。なんなら、実際に声を掛けられたことだってある。
そういう時、口数が少ない彼は精一杯の言葉を紡いで丁寧な断りを入れる。
その様子を黙って見守る僕は、その瞬間だけどうしても、彼の隣にいるのが本当に自分なんかでいいのだろうかと、天秤にかけてしまうんだ。なんて女々しいんだろうと自分で自分が嫌になる。
だから、今回もそういうことがあるんじゃないかと、そう思っていた。
いたんだけど…。
どういうことか茶店に居ても黄色い声は大人しく、彼に声を掛けようとする気配が全くない。
僕はいつもと何が違うんだろう?と、周りや彼をきょろりと見やる。
(あ…っ!)
僕は見つける。彼の中指にそっと光っている指輪を。
(そうか…)
彼から女性を牽制させているモノの正体がはっきりした。
彼が手で口元を抑える度に、中指でキラリと金色に輝いている武器編成の為の指環。遠巻きからだと、どの指に嵌めているのか分かりづらく、既婚者とでも思われたのだろう。
僕の視線に気づいたのか、彼はコーヒーを呑む手を止め、恥ずかしそうに口を開いて弁明する。
「これは…急いでいたもので。潜書が終わってすぐに来たものですから、着替えを終えた後に気づきまして…」
(そういえば、待ち合わせの時、川端さん慌てて来ていたな…)
自分との待ち合わせの為に慌てて来た彼の姿を思い出し、愛おしさに顔が紅くなるのを感じる。
それを紛らわすように、ゴホンッと咳払いをひとつする。
僕を少し心配そうに見つめる彼になんでもないように穏やかに装う。
(うれしいな…)
そう思ったら、安堵したと同時に、ふと、今度は悪い考えが浮かんできた。
その指に嵌めるのなら、折角なら自分が選んだ指輪がいいと。
指環にさえ、嫉妬してしまう自分はすっかり彼にどっぷりと嵌っていた。
(こういう考えが浮かぶなんて思わなかったな…。)
目の前の恋人は、目が合うとはにかみながらも嬉しそうに目を細めて微笑んでくれる。
そんな彼にこの嫉妬とも独占欲とも呼べる気持ちが気づかれませんように。
そう神様にでも願って、徳田は微笑み返すのだった。
その日の空は青く澄み切っており、僕と川端さんは互いに午後から予定もなく、それならばと、外でお茶でもしようかという話になり、茶店へ赴くことにした。
彼とは住んでる場所が同じ為、部屋を行き来するだけのことが殆どで、2人きりで外出する機会が滅多になかった。その為、久しぶりのデェトという訳だ。
「楽しみですね」と和やかにこちらに微笑む恋人からは浮き足立っている様が伝り、むず痒い気持ちになった。が、無論、それは僕も同じ気持ちだ。
ただ、一つの心配事を他所に。
彼と出掛けると、よく黄色い声や視線を感じる。それは当たり前だが自分ではなく彼の方に、だ。
そうなると、時折だが、気が気じゃなくなる。
彼が僕に夢中であることは、彼のお陰で十分過ぎるくらい自負している。しかし、それでも、可愛らしい女性は沢山いる。引く手なんて数多だろう。
前に2人で別の茶店に行った時も、その声や視線を感じた。なんなら、実際に声を掛けられたことだってある。
そういう時、口数が少ない彼は精一杯の言葉を紡いで丁寧な断りを入れる。
その様子を黙って見守る僕は、その瞬間だけどうしても、彼の隣にいるのが本当に自分なんかでいいのだろうかと、天秤にかけてしまうんだ。なんて女々しいんだろうと自分で自分が嫌になる。
だから、今回もそういうことがあるんじゃないかと、そう思っていた。
いたんだけど…。
どういうことか茶店に居ても黄色い声は大人しく、彼に声を掛けようとする気配が全くない。
僕はいつもと何が違うんだろう?と、周りや彼をきょろりと見やる。
(あ…っ!)
僕は見つける。彼の中指にそっと光っている指輪を。
(そうか…)
彼から女性を牽制させているモノの正体がはっきりした。
彼が手で口元を抑える度に、中指でキラリと金色に輝いている武器編成の為の指環。遠巻きからだと、どの指に嵌めているのか分かりづらく、既婚者とでも思われたのだろう。
僕の視線に気づいたのか、彼はコーヒーを呑む手を止め、恥ずかしそうに口を開いて弁明する。
「これは…急いでいたもので。潜書が終わってすぐに来たものですから、着替えを終えた後に気づきまして…」
(そういえば、待ち合わせの時、川端さん慌てて来ていたな…)
自分との待ち合わせの為に慌てて来た彼の姿を思い出し、愛おしさに顔が紅くなるのを感じる。
それを紛らわすように、ゴホンッと咳払いをひとつする。
僕を少し心配そうに見つめる彼になんでもないように穏やかに装う。
(うれしいな…)
そう思ったら、安堵したと同時に、ふと、今度は悪い考えが浮かんできた。
その指に嵌めるのなら、折角なら自分が選んだ指輪がいいと。
指環にさえ、嫉妬してしまう自分はすっかり彼にどっぷりと嵌っていた。
(こういう考えが浮かぶなんて思わなかったな…。)
目の前の恋人は、目が合うとはにかみながらも嬉しそうに目を細めて微笑んでくれる。
そんな彼にこの嫉妬とも独占欲とも呼べる気持ちが気づかれませんように。
そう神様にでも願って、徳田は微笑み返すのだった。
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