見つけた!吃驚人間発掘珍道中
どうも、僕です。
鬼道が言っていた、そのうち雷門にサッカーしに行くかもという言葉は本当だったらしい。
というのも、何かオレンジバンダナをした奴が「帝国来たる!サッカー部員急募!」の看板を引っさげて学校内を駆けずり回っているとか。
僕はまだ実際に見てないけど、そんな話しが生徒間では話題の種になっているようだ。
ここで関係ないね、と言いたいけれど多少はあるのが残念な所。
雷門が試合に負けた場合、佐久間をはじめ他数人に何か奢ってやらなくちゃいけなくなるんだよな。
結局あの後撤回できずじまいで、他の奴らも調子に乗って参加してきた結果決定事項になってしまったのである。
けど、僕が困ると思ったか? 残念ところがどっこいそうでもないんだなこれが!
条件には「試合に負けた場合」とあるけど、雷門のサッカー部員数は7人。11人揃わなければ当然試合は出来ない。
つまり雷門が「試合で」負ける事にはならないと言うわけ。ははは、気が付いて良かったー。
クラスの奴らも「あれは誰も入らないだろうなー、ご愁傷様」なんて手を合わせてたくらいだし、僕が奢る結果にはならないだろ多分。
「あー気持ちいいー」
そんな僕は今、屋上で快適な昼休みを迎えている。
誰かいるかと思っていたがそんな事も無く僕の貸しきり状態だ。いいとこなのにな。
帝国では要塞!ダンジョン!って感じで屋上なんてもの無かったし、塔のてっぺんにはあったかもしれないけど高くて絶対凍える。
やっぱり学校=屋上だよなーなんて思いながら横になってみる。空が青い。
「神楽居?」
「んぁ?」
急に声を掛けられて起き上がってみると、人ごみの中でも識別できそうな白チューリップ頭の豪炎寺がいた。
何で豪炎寺が? とは思ったがとりあえず片手を上げて挨拶してみる。
「なんだ。僕と昼休みを過ごしたかったとか?」
「いや、例の勧誘がしつこいから逃げてきた」
「あ、そう」
折角ボケてみたんだから乗ってくれてもいいのにな、豪炎寺にノリを求めてはいかんのか。
これが幸次郎だったら……ってアイツも同じようなリアクション取りそうだな。いや、もう少し肯定的な答えで返してくれるとは思うが。
佐久間なんかは「ンなわけ無いだろ寝言は寝て言え」とかバッサリ切り捨ててきそうだし、鬼道も「あまり思い上がるなよ」とか同じ反応が返って来そうだ。
何て皆ノリが悪いんだろうな、成神あたりなら「えへ、神楽居先輩とお昼食べたくって///」とか乗ってくれてたかもしれないんだが。
そんで少女ゲームごっこして仕舞いには「いつまでやってんだ馬鹿!」って怒鳴ってくる佐久間とか寺門をからかって遊ぶ。
「そういうの、事情とか察して勘弁して欲しいよなー。よっぽど必死なんだなソイツ」
「あぁ」
「ま、あんま気にすんなよ」
「……そうだな」
そうだな、って何故かめっちゃ見られてるんだけど僕。
言いたい事があるならはっきり言いたまえよ、僕はエスパーじゃないから全然分からん。
「何か?」
「いや、神楽居は何も聞いてこないんだなと思って」
「何だそんなことか。昨日めっさ「触れて欲しくないです」って顔してたらそっとしとくもんだろ普通。もちろん言いたくなったら聞くけどさ。
それとも何だ、豪炎寺は聞いて欲しかったのか? それとも僕がそんな無神経な奴と思ってたのかな? うん?」
「すまん、そんなつもりじゃないんだ。忘れてくれ」
「分かればよし」
何を言うかと思ったら変な奴だなぁ。僕のように空気が読める奴なら何となく察して聞かないと思うんだがどうだろう?
いや僕の場合あえて空気読まない発言することはあるけど。というか、そもそも聞いてくるソイツが何も考えて無いだけじゃないのか?
まぁいいや、何だか苦笑されてるけど! ホントにもういいんだろう。
「それより僕はお腹が空いたのでさっさと弁当食べないか? 見よ、この弁当! 僕のお手製スペシャルランチボックスである!」
「器用だな……」
ふふんどうだ。ほぼ一人暮らしと言っていいくらいに1年の殆んどを留守番して暮らす僕の、必然的に上がった家事スキルを生かした弁当。
オムレツやらから揚げやらポテトサラダやらその他もろもろが彩り良く、ボリューミーに詰め込まれているのだ。ちなみにお茶も持参。
今日は洋食中心だけど、和食も好き。煮物系とか好き。帝国にいたころは幸次郎や佐久間なんかとよくおかずのトレードをしたもんだなー、懐かしい。
豪炎寺が物欲しそうな目で僕の弁当を見るので、少し恵んでやったり代わりにいくらか頂戴しつつして残りの時間は寝潰した。
午後の授業は帝国にいた頃がハイレベルだったせいで僕にはおさらいみたいだった。らくちん万歳。
***
そんなこんなでもう放課後。
隣の奴が何故か情報通で、話の流れで安いスーパーがあると教えてもらった僕はそこに寄って帰る予定だった……んだけど。
うん、書いてもらった地図が汚いせいで頼りない。とりあえずいつもと逆側に行けばいいのは分かるんだが。
うーむ、ちゃんと着けるだろうか。少々心配だな。
「神楽居」
おや? 最近エンカウント率が高い気がする。
そうです声を掛けてきたのは豪炎寺。校門から出て、いつもと違う方向へ行こうとしたらまた沸いて出た。
やれやれそんなに僕が好きなのか。いやもしやお前友達いないのか?
「無口だもんなーお前……」
「開口一番なんだそれは」
「なんでもない。で、何だ」
聞けばなんでもない。僕が紙切れと睨めっこしながら駅と逆方向へ歩いていたのが気になったってことらしい。
案外世話焼きなとこもあるんだな。
「いやな、安いスーパー教えてもらったから寄ってみようと思って。
地図書いてもらったんだけど豪炎寺知ってる?」
「あぁ、ここなら知ってる。案内してやろうか」
「まじで? 助かるわーサンキュー」
正直この辺の地理ってあんまり詳しくないんだよな僕。
迷子になっても困るから豪炎寺の提案は渡りに船、有難くお願いすることにしよう。
その後無事に到着して、運良くタイムセール商品を大量に購入できた。ははは、大漁大漁。
これなら数日は買い物のために寄り道しなくて済みそうだ。
豪炎寺はというと道案内だけでも良かったんだが最後まで付き合ってくれた。
そのおかげでお一人様一点限りの商品も余分に買うことができたり、うはは。
戦利品を抱えて見晴らしのいい鉄塔のある公園まで来た僕は今ご機嫌です。鼻歌でも歌えそう。
そうそう、思った以上に貢献してくれた豪炎寺にはお礼としてハーゲンダッツを押し付けといた。今? となりで食べてる。
「今日はありがとなー」
「あぁ」
「にしても、近くにこんな景色のいい所があったんだな。
この辺のことはよく知らないから、何か新鮮だわ」
「豪炎寺!!!」
「ふわっ!?」
び、吃驚したー……! 急に後ろで大声上げんじゃねぇよ!と思って振り返ってみたら知らない奴だった。
「豪炎寺」って言ってたし僕の知り合いでは無いわな。
誰?って意味を込めて豪炎寺を見たが、やけに重いため息を返されただけだった。
「(勧誘必死すぎこえぇ……)」
そこからは延々と豪炎寺に喋りまくるオレンジバンダナ。傍にいる僕のことは始終ガン無視である。
ん? オレンジバンダナ……? 確か例の部員募集してるっていうサッカー部員、だったっけ?
ていうか豪炎寺ってサッカー上手いんだ? 残念ながら僕には全く会話が見えてこないよ。君達、僕部外者だし帰っていいか?
「もう俺に話しかけるな」
そう一言だけ残して、豪炎寺は柵を飛び越えて行ってしまった。一方的な会話はどうやら強制終了みたいだ。
そのことは別に構わないけど、完璧に僕の存在忘れてるよね。
あとカップのゴミをポイ捨てせず持ったまま去るあたりは偉いよね、シリアスムード台無しだけど。
「おーい! 僕のこと忘れんな!」
置いてけぼり感がすごいが勿論このままこの場に放置は御免である。
オレンジバンダナを一瞥だけして、僕も早々に柵を飛び越えた。
「ふー、追いついた。僕を置いてくなっての」
「すまん」
「まぁいいや。次からは一言声掛けろよ」
隣に並んでみると、豪炎寺は何やら複雑そうな顔をしていた。
話には全くついていけなかったが、オレンジバンダナが豪炎寺と一緒にサッカーやりたいって事は僕にも分かった。
あと、豪炎寺がサッカーをやりたくないって訳では無さそう、ってのも。まぁ何か出来ない事情でもあるんだろう。
「……俺さ、サッカーはやらないって決めたんだ」
「?」
歩調を緩めながら、豪炎寺はサッカーを避けていた理由を零した。
曰く、去年木戸川清修と帝国によるサッカーの試合前に妹が交通事故にあってしまい、昏睡状態が続いているとか。
自分がサッカーをやってなきゃ妹はこんな目に合わずに済んだ。だから妹が目覚めるまで自分はサッカーをしないと誓った――って話しだった。
父親が医者で、妹さんはその勤務先の病院に入院したそうだ。距離的な理由もあっての転校らしい。
「だから何度もサッカーやろうって言ってくる円堂とは、会いたくなかったんだ」
そんな事情があったとはなぁ……しかし何故僕?
どうして話す気になったのかは知らないけど、それ、あのオレンジバンダナに言ってやったほうが良かったんじゃないか?と思えてならない。あとアイツ円堂っていうのか。
「でも何でそんな大事な話を僕に? そういうの、話したくなかったんじゃないのか?」
「……何でだろうな、誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
それにお前だって転校してきた理由を教えてくれただろ」
こっちを向いた豪炎寺の顔は悲しそうな、遣る瀬無さそうな顔だった。
まぁ僕は別段隠してる訳では無いからな……何とも……。
それに僕の場合は二人とも無事だった訳だし、重さが違うと思うんだが。ねぇ?
話を聞いた後にそんな顔されると、何でだかむしろこっちが胸が痛くなるんだが……やばい鼻がツンとしてきた。僕こういうの弱いんだよ。
「よしよし、お前はよく頑張ってるよ」
「……撫でるな」
「妹さん、早く意識が戻るといいな」
「……あぁ」
うん、どうも湿っぽい話は苦手だ。
ま、だからといって明日から態度を変える気は毛頭無いけど。そんなことしたって意味無いしな。それはそれ、これはこれ!
***
「もしもし。幸次郎?」
「昴か、どうした?」
「今日、友達の妹が入院中って本人から聞いてさ。
お見舞いの品でもと思うんだけど、そう親しくもないのに平気なんかなそういうの」
「それは……大変だな。
嫌がられる事はあまり無いだろうが、気になるなら本人に確認してみたらどうだ?」
「んー、それもそうだな。サンキュ」
「あぁ。じゃあな」
――ぱたん。
携帯電話を閉じて、ベッドにごろんと横になる。
そういや考えた事は無かったけど、もしあの時、僕か幸次郎のどっちかが何かあったとしてだ。
豪炎寺と妹さんみたいに、もし僕が同じように昏睡状態になったり死んだりしてたら。
幸次郎の奴も「俺がサッカーしてなきゃこんな事にはならなかった。もうサッカーなんてやらない」なんて言い出すんだろうか?
いやいや、帝国でサッカーをやりたいからって入学を決めた奴だ、サッカーやらないでどうする。
僕だったらどうだろう、あいつがそんな事言い出したら一発ド突いてやりたいな。うん。やめたところで目が覚める訳じゃないし、嬉しくないや。
ま、それはあくまで僕の場合だ。
妹さんが目を覚ますまで待ちたいっていう気持ちもわからなく無いし、そういう考えもあると思う。
豪炎寺がそうしたいって言うならそれでいいんじゃないかな。問題は豪炎寺がどうしたいかだし。
んー……妹さん用の、お見舞いのプレゼントでも考えとくかー。
鬼道が言っていた、そのうち雷門にサッカーしに行くかもという言葉は本当だったらしい。
というのも、何かオレンジバンダナをした奴が「帝国来たる!サッカー部員急募!」の看板を引っさげて学校内を駆けずり回っているとか。
僕はまだ実際に見てないけど、そんな話しが生徒間では話題の種になっているようだ。
ここで関係ないね、と言いたいけれど多少はあるのが残念な所。
雷門が試合に負けた場合、佐久間をはじめ他数人に何か奢ってやらなくちゃいけなくなるんだよな。
結局あの後撤回できずじまいで、他の奴らも調子に乗って参加してきた結果決定事項になってしまったのである。
けど、僕が困ると思ったか? 残念ところがどっこいそうでもないんだなこれが!
条件には「試合に負けた場合」とあるけど、雷門のサッカー部員数は7人。11人揃わなければ当然試合は出来ない。
つまり雷門が「試合で」負ける事にはならないと言うわけ。ははは、気が付いて良かったー。
クラスの奴らも「あれは誰も入らないだろうなー、ご愁傷様」なんて手を合わせてたくらいだし、僕が奢る結果にはならないだろ多分。
「あー気持ちいいー」
そんな僕は今、屋上で快適な昼休みを迎えている。
誰かいるかと思っていたがそんな事も無く僕の貸しきり状態だ。いいとこなのにな。
帝国では要塞!ダンジョン!って感じで屋上なんてもの無かったし、塔のてっぺんにはあったかもしれないけど高くて絶対凍える。
やっぱり学校=屋上だよなーなんて思いながら横になってみる。空が青い。
「神楽居?」
「んぁ?」
急に声を掛けられて起き上がってみると、人ごみの中でも識別できそうな白チューリップ頭の豪炎寺がいた。
何で豪炎寺が? とは思ったがとりあえず片手を上げて挨拶してみる。
「なんだ。僕と昼休みを過ごしたかったとか?」
「いや、例の勧誘がしつこいから逃げてきた」
「あ、そう」
折角ボケてみたんだから乗ってくれてもいいのにな、豪炎寺にノリを求めてはいかんのか。
これが幸次郎だったら……ってアイツも同じようなリアクション取りそうだな。いや、もう少し肯定的な答えで返してくれるとは思うが。
佐久間なんかは「ンなわけ無いだろ寝言は寝て言え」とかバッサリ切り捨ててきそうだし、鬼道も「あまり思い上がるなよ」とか同じ反応が返って来そうだ。
何て皆ノリが悪いんだろうな、成神あたりなら「えへ、神楽居先輩とお昼食べたくって///」とか乗ってくれてたかもしれないんだが。
そんで少女ゲームごっこして仕舞いには「いつまでやってんだ馬鹿!」って怒鳴ってくる佐久間とか寺門をからかって遊ぶ。
「そういうの、事情とか察して勘弁して欲しいよなー。よっぽど必死なんだなソイツ」
「あぁ」
「ま、あんま気にすんなよ」
「……そうだな」
そうだな、って何故かめっちゃ見られてるんだけど僕。
言いたい事があるならはっきり言いたまえよ、僕はエスパーじゃないから全然分からん。
「何か?」
「いや、神楽居は何も聞いてこないんだなと思って」
「何だそんなことか。昨日めっさ「触れて欲しくないです」って顔してたらそっとしとくもんだろ普通。もちろん言いたくなったら聞くけどさ。
それとも何だ、豪炎寺は聞いて欲しかったのか? それとも僕がそんな無神経な奴と思ってたのかな? うん?」
「すまん、そんなつもりじゃないんだ。忘れてくれ」
「分かればよし」
何を言うかと思ったら変な奴だなぁ。僕のように空気が読める奴なら何となく察して聞かないと思うんだがどうだろう?
いや僕の場合あえて空気読まない発言することはあるけど。というか、そもそも聞いてくるソイツが何も考えて無いだけじゃないのか?
まぁいいや、何だか苦笑されてるけど! ホントにもういいんだろう。
「それより僕はお腹が空いたのでさっさと弁当食べないか? 見よ、この弁当! 僕のお手製スペシャルランチボックスである!」
「器用だな……」
ふふんどうだ。ほぼ一人暮らしと言っていいくらいに1年の殆んどを留守番して暮らす僕の、必然的に上がった家事スキルを生かした弁当。
オムレツやらから揚げやらポテトサラダやらその他もろもろが彩り良く、ボリューミーに詰め込まれているのだ。ちなみにお茶も持参。
今日は洋食中心だけど、和食も好き。煮物系とか好き。帝国にいたころは幸次郎や佐久間なんかとよくおかずのトレードをしたもんだなー、懐かしい。
豪炎寺が物欲しそうな目で僕の弁当を見るので、少し恵んでやったり代わりにいくらか頂戴しつつして残りの時間は寝潰した。
午後の授業は帝国にいた頃がハイレベルだったせいで僕にはおさらいみたいだった。らくちん万歳。
***
そんなこんなでもう放課後。
隣の奴が何故か情報通で、話の流れで安いスーパーがあると教えてもらった僕はそこに寄って帰る予定だった……んだけど。
うん、書いてもらった地図が汚いせいで頼りない。とりあえずいつもと逆側に行けばいいのは分かるんだが。
うーむ、ちゃんと着けるだろうか。少々心配だな。
「神楽居」
おや? 最近エンカウント率が高い気がする。
そうです声を掛けてきたのは豪炎寺。校門から出て、いつもと違う方向へ行こうとしたらまた沸いて出た。
やれやれそんなに僕が好きなのか。いやもしやお前友達いないのか?
「無口だもんなーお前……」
「開口一番なんだそれは」
「なんでもない。で、何だ」
聞けばなんでもない。僕が紙切れと睨めっこしながら駅と逆方向へ歩いていたのが気になったってことらしい。
案外世話焼きなとこもあるんだな。
「いやな、安いスーパー教えてもらったから寄ってみようと思って。
地図書いてもらったんだけど豪炎寺知ってる?」
「あぁ、ここなら知ってる。案内してやろうか」
「まじで? 助かるわーサンキュー」
正直この辺の地理ってあんまり詳しくないんだよな僕。
迷子になっても困るから豪炎寺の提案は渡りに船、有難くお願いすることにしよう。
その後無事に到着して、運良くタイムセール商品を大量に購入できた。ははは、大漁大漁。
これなら数日は買い物のために寄り道しなくて済みそうだ。
豪炎寺はというと道案内だけでも良かったんだが最後まで付き合ってくれた。
そのおかげでお一人様一点限りの商品も余分に買うことができたり、うはは。
戦利品を抱えて見晴らしのいい鉄塔のある公園まで来た僕は今ご機嫌です。鼻歌でも歌えそう。
そうそう、思った以上に貢献してくれた豪炎寺にはお礼としてハーゲンダッツを押し付けといた。今? となりで食べてる。
「今日はありがとなー」
「あぁ」
「にしても、近くにこんな景色のいい所があったんだな。
この辺のことはよく知らないから、何か新鮮だわ」
「豪炎寺!!!」
「ふわっ!?」
び、吃驚したー……! 急に後ろで大声上げんじゃねぇよ!と思って振り返ってみたら知らない奴だった。
「豪炎寺」って言ってたし僕の知り合いでは無いわな。
誰?って意味を込めて豪炎寺を見たが、やけに重いため息を返されただけだった。
「(勧誘必死すぎこえぇ……)」
そこからは延々と豪炎寺に喋りまくるオレンジバンダナ。傍にいる僕のことは始終ガン無視である。
ん? オレンジバンダナ……? 確か例の部員募集してるっていうサッカー部員、だったっけ?
ていうか豪炎寺ってサッカー上手いんだ? 残念ながら僕には全く会話が見えてこないよ。君達、僕部外者だし帰っていいか?
「もう俺に話しかけるな」
そう一言だけ残して、豪炎寺は柵を飛び越えて行ってしまった。一方的な会話はどうやら強制終了みたいだ。
そのことは別に構わないけど、完璧に僕の存在忘れてるよね。
あとカップのゴミをポイ捨てせず持ったまま去るあたりは偉いよね、シリアスムード台無しだけど。
「おーい! 僕のこと忘れんな!」
置いてけぼり感がすごいが勿論このままこの場に放置は御免である。
オレンジバンダナを一瞥だけして、僕も早々に柵を飛び越えた。
「ふー、追いついた。僕を置いてくなっての」
「すまん」
「まぁいいや。次からは一言声掛けろよ」
隣に並んでみると、豪炎寺は何やら複雑そうな顔をしていた。
話には全くついていけなかったが、オレンジバンダナが豪炎寺と一緒にサッカーやりたいって事は僕にも分かった。
あと、豪炎寺がサッカーをやりたくないって訳では無さそう、ってのも。まぁ何か出来ない事情でもあるんだろう。
「……俺さ、サッカーはやらないって決めたんだ」
「?」
歩調を緩めながら、豪炎寺はサッカーを避けていた理由を零した。
曰く、去年木戸川清修と帝国によるサッカーの試合前に妹が交通事故にあってしまい、昏睡状態が続いているとか。
自分がサッカーをやってなきゃ妹はこんな目に合わずに済んだ。だから妹が目覚めるまで自分はサッカーをしないと誓った――って話しだった。
父親が医者で、妹さんはその勤務先の病院に入院したそうだ。距離的な理由もあっての転校らしい。
「だから何度もサッカーやろうって言ってくる円堂とは、会いたくなかったんだ」
そんな事情があったとはなぁ……しかし何故僕?
どうして話す気になったのかは知らないけど、それ、あのオレンジバンダナに言ってやったほうが良かったんじゃないか?と思えてならない。あとアイツ円堂っていうのか。
「でも何でそんな大事な話を僕に? そういうの、話したくなかったんじゃないのか?」
「……何でだろうな、誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
それにお前だって転校してきた理由を教えてくれただろ」
こっちを向いた豪炎寺の顔は悲しそうな、遣る瀬無さそうな顔だった。
まぁ僕は別段隠してる訳では無いからな……何とも……。
それに僕の場合は二人とも無事だった訳だし、重さが違うと思うんだが。ねぇ?
話を聞いた後にそんな顔されると、何でだかむしろこっちが胸が痛くなるんだが……やばい鼻がツンとしてきた。僕こういうの弱いんだよ。
「よしよし、お前はよく頑張ってるよ」
「……撫でるな」
「妹さん、早く意識が戻るといいな」
「……あぁ」
うん、どうも湿っぽい話は苦手だ。
ま、だからといって明日から態度を変える気は毛頭無いけど。そんなことしたって意味無いしな。それはそれ、これはこれ!
***
「もしもし。幸次郎?」
「昴か、どうした?」
「今日、友達の妹が入院中って本人から聞いてさ。
お見舞いの品でもと思うんだけど、そう親しくもないのに平気なんかなそういうの」
「それは……大変だな。
嫌がられる事はあまり無いだろうが、気になるなら本人に確認してみたらどうだ?」
「んー、それもそうだな。サンキュ」
「あぁ。じゃあな」
――ぱたん。
携帯電話を閉じて、ベッドにごろんと横になる。
そういや考えた事は無かったけど、もしあの時、僕か幸次郎のどっちかが何かあったとしてだ。
豪炎寺と妹さんみたいに、もし僕が同じように昏睡状態になったり死んだりしてたら。
幸次郎の奴も「俺がサッカーしてなきゃこんな事にはならなかった。もうサッカーなんてやらない」なんて言い出すんだろうか?
いやいや、帝国でサッカーをやりたいからって入学を決めた奴だ、サッカーやらないでどうする。
僕だったらどうだろう、あいつがそんな事言い出したら一発ド突いてやりたいな。うん。やめたところで目が覚める訳じゃないし、嬉しくないや。
ま、それはあくまで僕の場合だ。
妹さんが目を覚ますまで待ちたいっていう気持ちもわからなく無いし、そういう考えもあると思う。
豪炎寺がそうしたいって言うならそれでいいんじゃないかな。問題は豪炎寺がどうしたいかだし。
んー……妹さん用の、お見舞いのプレゼントでも考えとくかー。
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